21 『珍』入者
開店休業である。見事に仕事が無い。明らかに私の市場調査の不足である。
開業してすでに1ヶ月半も経過している。店舗を持つより依頼があったら出張すると言う形式にしたので、仕事が入った時意外は今はバイトをしている。
まだまだアルバイト募集は多いのでバイトで生活できている。
髪結いとしての仕事も一応した。ゼロではない。2週間に一人で3回程した。
調査不足は手痛かった。大誤算があったのだ。
地球人のようには髪が伸びない彼らは、自らの髪色や髪型に誇りを持っていた。
基本的には「そのまま」を好むが大多数であった。おしゃれとして髪を結んで楽しむのではなく、邪魔だから・そのままだと危険だからとかそういう理由で結ぶというのがここでの「一般的」であったのだ。
そういう環境であるから、皆、髪型が変わらなくても飽きないのである。
貴族も庶民も私達が美容室でしてもらえるようなヘアスタイルはお付きの人が完全にこなすことができたり、自ら結うことができるという器用っぷりで私には仕事が無かったのである。
しかも、聖国でのこの流れも神子が元で生まれたものらしい。だから逆に貴族には結う習慣が残っているのだろう。王国での王と貴族による神子の扱いは敬っている振りだけで酷い扱いだったのだから。
仕事が無い今を思うと神子よ何してくれちゃってるのと抗議したいところである。出来ないけどね。
物は試しと、人を集めてまとめ髪の講習会を格安で開いてみたりもしたが、客受けしたのはもの珍しい日本髪だけであった。
そりゃ、需要がなく不人気な職業だよと納得した。
一晩で髪が元に戻るのならと髪を売ってもらってウィッグを作って売るというのを商工会で相談してみたが、気持ち悪い、自分の髪に誇りは無いのかなどけちょんけちょんに言われ反対された。ああ、所変われば…というのを深く納得させられた。新しいことでも発信者「神子」というブランドが付くと嫌悪されないらしいということも学んだ。神子のアイディアを形にして街を発展させたというのが理由らしい。
2週間に1度呼んでくれる方には和装に合うようなものを浴衣と共に勧めたことによって何とか繋いだお客様であった。因みに浴衣は私がせっせと縫った。コスプレ衣装を自作しイベントに赴いていたのは伊達ではない。
最近の私の生活は、バイトをする・生地を買う・浴衣と帯を縫う。
一人気に入ってくれた人が居たのだから売れるかもと浴衣を縫う…売れることから髪結いも繁盛してくるはずと願って。…ストレスも溜まってくるので、部屋の中で一人コスプレをして聴衆無しのリサイタルをする。というような日々である。やっぱりストレス発散にはカラオケがいい!!
恥ずかしいのでマリエルには内緒にしているが、すでに知られているような気がする。
そして、私のアシスタントをする気満々だったマリエルは、びっくりするほど外で稼いでくる。もちろん髪結いではない。他の仕事、バイトのみでだ。どこで何をしているのかは知らない。
ということで、私の中でももうすでに「廃業してしまおうか」という考えも度々頭をよぎっている。
「あ~もう、本当辞めちゃおっかなぁ…」
「とりあえず問題なく生活できてますし、どちらでもいいですよ」
おおっ、いつの間にかマリエルが帰ってきていた。私の隣に腰をかける。
「ねぇ、カミーユ。残念ですが、ここではせっかくの技術も活かせません」
「そうだね」
私の気が済むまで静かに見守っていてくれていたのだろうと、今なら分かる。
始めたはいいが正直くじけている。私に商才が有るわけじゃないので、いいアイディアも全く浮かばない。
このままバイトで生活もいつまで上手くいくかわからないし、なんだよなぁ…と小さく息をはきだした。
「カミーユの夢は何でしたか?」
突然のその質問に首を捻る。私の夢って何だたっけ?やりたい事はたくさんあった。なりたいものもたくさんあった。
どうしてその中で美容師を選んだんだっけ?
………あ。
そうだ。特になりたいわけじゃなかった。
「仕事」として親から許可が下りたのが美容師だけだったんだ。
親は大学へ行けって言った。その学力は十分にあった。近い友人以外の誰もが大学に進学すると思っていただろう。そして、その後は公務員になれと言った。夢に挑戦したかった私は妥協案として、親の希望通り進学し国家試験にも合格したら自分のやりたい事のために自由にさせて欲しいと持ちかけてもみた。家を飛び出そうと思った。親に泣かれた。近い友人は、時機を待てと励ましてくれた。
両親は私のことが可愛くて大事で、でもきっと、私のことを自分達の思うようにしたかったんだろう。
私は本当は夢があったはずだった。
『何、夢みたいなこと言ってるんだ』
『そんなんじゃ食べていけないわよ』
『金で苦労させたくない親の気持ちが分からんのかっ』
『成功しているのなんてほんの一握りだけなのよ』
『お前が思っているほど甘くない』
『そんな職業に就くなんて恥ずかしくて表歩けないわ』
『小さな子みたいな事をいってないで、せめて、手に職つけなさい』
『公務員がいやなら、お医者様でもいいのよ』
『おまえは、声優やらアニメーターやらそんなくだらんものばかりつらつらあげおって!!』
なりたいと思ったものは尽く反対された。
ああ、そうだ。それで美容師に決めたんだった。
新天地。ここでなら親に心配も迷惑もかけない。
『挑戦してみよう』
そう思ったらなんだか力が湧いてきたような気がする。
「マリエル、私、お風呂に入ってくる!」
立ち上がった私に「俺も後で入りにいきます」という声が聞こえたような気がする。なんとなく、聞こえた声に考えもせずに「うん」と返した。
毎日贅沢な聖水風呂。
「うーん、今日もいいお湯だー」
目を閉じてぶくぶくと沈む。もうこれも毎日のことである。
「汚れないお湯」なのをいいことに、毎日、髪をまとめることもせず、長い髪をピンクのワカメのように漂わせる。やっていて気付いたが、この聖水風呂、物理的な汚れも落としてくれるようでわざわざ洗わなくても、髪も頭皮も身体もキレイに…それこそ、おへその奥から足の指と爪の間まで細かいところまで抜かりないのである。凄過ぎである。チート部屋万歳。やっぱりもう、他の物じゃ満足できない。
「ぷはっ」
お湯から顔を出す。
夢、夢、夢…。
気分が良くなっている私はこちらに来る前にお気に入りだったアニソンを歌う。
「そうだよ!夢をかなえる努力をしたっていいんだよね!!」
ぎゅっとこぶしを握る。
「そうですよ。その歌の通りに行動してもいいんです。
俺が応援も協力もしますから一緒に頑張りましょう」
「…」
ヒクッ。
「…っ、キャア~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」
『静かに入ってこないでっ!心臓に悪いわっっ!!
隅々まで見られていたって恥ずかしいのよっ。もうっ、もうっ、もうっ!!』
心の中で喚きたてる。
「そういうものですか?この後また隅々まで見させていただきますよ」
「そういうことを言っているんじゃな~い!」
私はお湯のなかをザップザップ波立てながら大股で歩いて先に上がった。後方からマリエルの笑い声が聞こえた。
◇◆◇
入浴前は上がったら眠る気満々だったが、ああ言われてしまったので眠ってしまっては悪いなと、ベッドの上で時間を持て余している。ちゃんと服は着ているといっておこう。
時々ふっと眠りに落ちそうになる。…が、何か少々、私のアンテナに引っかかる。
「何だろう…?」
特別悪い予感でもない。けど、こう、何かチリチリというか、『何か』感じる。
「う~ん。悪い感じじゃないし、いっか」
独り言に、「何ですか?」と返事が来る。
タオルを腰に巻いただけの、肌がピンク色に染まった色気駄々漏れの男が近付いてくる。
それを目に入れた途端、先ほどの予感めいたものが、ほんの毛ほどだが、悪いほうに傾いた気がする。
「う~ん…う~ん?何だろう。自分でも何だか分からないんだけど何か引っかかったんだよね」
「カミーユの勘は当たりますからね」
「こう、チリチリって感じはあるんだけど、危機が迫るようなものでもないんだ。…でも、マリエル見たら、ほんの少しだけど悪い予感ぽくなった?かな??でも、うん、大丈夫っぽいんだけどさ」
「じゃあきっと大丈夫ですよ。その珍しく微妙な勘は俺が飛ばしてしまいますよ」
そういうと、「もういいでしょう?」と私に覆いかぶさってきた。
うん、私が(…)危ない感じはしないし、ここにいる分には何か起こるわけが無い。
私は気を抜いて、されるがまま身を任せた。
マリエルがもたらしてくれる刺激に、身も心もすっかり蕩けている。
「きれいですよ、カミーユ。…何度でもっ…」
打ち付けられるそれに嬌声しか出ない。もう、何度目か分からない。声が出るのと同時に足が伸び、腰がガクガクとする。
「俺も…っ…」
それは、突然だった。
頭の中に場違いな「チーン♪」という音が聞こえた瞬間、ぐきっ…という感触。
目を見開いた私。
「やっと来れた!」
「久しぶりっ、カミーユ!」
目の前には金髪と銀髪の子供。並ぶ二人の間の向こうに見えるのは、股間を押さえてうずくまるマリエル。
彼を気遣い心配する余裕も、裸を隠す冷静さも無く、私はその光景に「ハハ…」と渇いた笑いしか出なかった。
気付いたところだけですが、修正しました。




