20 商工会
オーカム王国は驚くほど早く消滅した。
私達の力だけでなく何か不思議な力が働いたと想像してしまう。…王家の血筋と貴族の生き残りは皆無だった。彼らの言いなりだった商人達は商機無しと判断し誰よりも早く国外へ逃げた。残された兵士達は知恵に乏しかった。判断力が弱かった。
つまり、国を復興するにも指揮を執る頭がいなかったのだ。
隣国を見張っているものからの報告で、緊急性が高いと判断した最も近い隣国である聖国ショイホーチは同日中に先遣隊を派遣、オーカム王国の惨状をみて直ぐに手を入れた。聖国のトップの行動は早かった。
王国に王やそれに代わるものが居ないとわかると即、整備が整っていない道の舗装と同時に多くの人を送り込み、生存者の保護として実質的な聖国ショイホーチの拡大を図った。聖国に住み着く人口が私が思うよりも多く、いろいろ飽和状態だったのかもしれない。
他国は少しばかり苦々しく思いながらも、聖国が元々はオーカム王国であったこと、すでに聖国が多大な支援を行ったこと、復興支援の負担を計算すると簡単には手を出せなかったこともあり、決定的なのが致命的なほど時間的に大きく出遅れたこと、それを考えると文句を言えなかった。
それぞれ自国にも地震の被害が大きくあったので、王国に目を向け手を差し出すのがかなり遅かったのである。
他国でそんな有様なのだから、同じように少なからず被害があったはずの聖国であるが…。
なんてご都合主義であろうかと言いたい。
大きな被害にあったのは貴族街だけであった。やった私が保証しよう、決して狙ったわけではない。
お高くとまった貴族達は素直に助けを求めることができず、一般の聖国民との仲違い状態が深まり、貴族街は小さなオーカム王国のようになっているらしい。人間のすることだ、こういうことが起こるのも仕方ない。
私達がオーカム王国を崩壊させたことは誰の耳にも入ることはなかったようだ。
こちらに渡って見た限り、全体的に今まで「神」の存在について否定的であった風潮は、このオーカム王国崩壊を機にやや変化があった。それは、『神の御遣い』が現れたことに由来する。
もちろん、私達のことである。「悪いところ」に天罰が落ちたという認識らしい。
そして、神子も神の御遣い同様『神から遣わされた尊き人』と再認識され、あらためて厚遇することが推奨された。
当然私達は、名乗り出るなんていうおろかなことはしない。
国中に放った聖光は他国からも目撃されていた。ちょっと考えれば、そりゃそうだよねと笑うしかない。
幸い聖国はほぼ無事だった。私達はいよいよ本格的に生活のために活動しようと、度々ギルドを訪れていた………が。
「やっぱり求人ありませんか。そうだとは思っていてもがっかりです」
すっかり顔なじみになったお姉さんも申し訳なさそうにしている。
「正直言って不人気な職業ですからねぇ。カミーユさんならそれにこだわらなければ紹介できるお仕事たくさんありますよ」
「ですよね。それはもう嫌って言うほど分かってます」
バイトしているときに何度勧誘されたことか。お姉さんが続ける。
「で、ですね。どうしても髪結いをしたければ、思い切ってご自分で会社を興したほうが良いと思います。
以前と違ってここに知り合いも増えたし、伝手もできてきたでしょう?」
「…」
「ということで、起業するなら隣の『ギルド商工会』へどうぞ~」
他の仕事に就く気がない私に困ったお姉さんはついに職業斡旋することを放棄し、ニコニコと私を追い出した。
不動産屋と反対の隣にある商工会を覗き込んでみる。受付のお姉さんとばっちり目が合う。逃げられない。聞くだけ聞いてみることにしよう。
「あのー」
「はい、何でしょうか?あ、『ギルド商工会』へようこそ。いらっしゃいませ」
「…」
「いらっしゃいませ」
なぜもう一度言った?
「あのー、自分で商売始めるにはどうすればいいのでしょうか?」
うん、聞くだけ。聞いてみるだけだ。うん。
お姉さんが引き出しから何枚か紙を出してきた。
「とりあえず、お入りくださいませ」
お姉さんがこいこいと手招きする。
入口から声をかけていた私だったがそろそろと入っていく。
「こちらを記入していただいて、ここに提出していただければ、即日開業!即日開店OKです!」
軽っ。早っ。なんか超テキトー。用紙を見てみると、こんな店しますよー・誰々がやるんですよーっていうわざわざ提出する必要があるのかっていう内容であった。
「あのー、これ、あの…。どのような、えっと、何か特典があったりするのでしょうか?」
「えー、商工会では運営について相談にのったり、あまりに無茶な方には廃業を勧めたり、資金が必要な時に銀行への口添えをしたりなどいろいろいたしております。困ったときは、困って無くても商工会!です!!」
うん、マリエルと相談しよう。そうしよう。用紙だけ受け取り、笑顔をキープするお姉さんにぺこぺこと頭を下げ商工会を出た。
私はマリエルと住み始めたアパートへ帰った。
不動産屋には、二人で住むには狭いのではないかといわれたが、家賃の都合で1DKの部屋を借りた。家賃のためにマリエルと二人でアルバイトをした。旧オーカム王国の復興のために仕事がたくさんあったのだ。
正直、お金の実物を見た後、部屋に入って複製…コピー、つまり偽造通貨…とはいってもできるのは本物であるが…そういうことをしようと思ったが、仕事に困らなかったおかげで、道を踏みはずさずに済んだ。
うん、本当に魔が差さずに良かった。
お金って大事だとつくづく思った。
アパートに帰って部屋に入る。結局本拠地は部屋のままだ。アパートに見せ家具として置く家具などはリサイクルセンターから安く購入し、とりあえず生活している風にみえるようにしてある。
風呂無し・トイレ共同…のところを探したので、「寝るためだけに帰ってきているので水道もガスも電気も使ってないんですー。灯りはろうそくやランプでも足りちゃうしー」で通用すると思いたい。あれ?ここってガスあるんだっけ?
尤も、多く稼げるようになればちゃんと引っ越して、もっと土地のものを利用するつもりではいる。…あまりにも部屋が快適すぎて、部屋の利用を止められる自信も無いというのが本音だが、マリエルはどう考えているのだろう。
「俺は正直、この快適さを手放したくないですね」
「ですよねぇー、やっぱり」
一生懸命考えすぎたせいで念話を送っていたらしい。ま、いっか。その時考えよ。
マリエルと「商売を始める事」について少しばかり相談してみた結果…。
「いいんじゃないんですか?止めるのも簡単そうですし、何事も経験です。二人で手を取り合ってやってみましょう」
そう言って書類をさらさらと書き上げた。マリエルが。
きちんと書いてくれただろうかと確認しようとしたら隠された。
何か企んでいるのかな?私達二人に不利益になることはないだろう。うん。
出す予定の二人、次回は出せるはず。
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