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19 銀糸

夢の余韻に浸りほわんとしていた私だったが、今日はマリエルと共にほんの少しだけオーカム王国を見に外出していた。

惨状を見てしまえば私の精神はもたずに、再び泣く事になるかと思ったが不思議と落ち着いたままだった。頭痛もない吐き気もない、そして罪悪感も無かった。

オーカム王国で昨日亡くなった人々の魂はまだ肉体と繋がったままであった。可視化している私達には、あの世から迎えに来ている人(?)達で溢れている光景が視えている。死を受け入れられず説得されていたり、久しぶりに会う故人と楽しそうに話しながら還る気まんまんの人が居たり、痛みや苦しみは感じないはずなのにそれを切々と訴えたり、同じように亡くなった知人を探したり様々だ。


「明日、迷わず成仏させてあげるから」


自分の口から出た上から目線の発言に思わず「あちゃー」と額に手をやる。

人だけど人でない。

あの世で使える力もこの世で使えるが霊体れいたいでもない。

両方を併せ持ち、感情も含め、任務を行う私は「カミーユ」なんだと自覚した。精神が安定したせいなのだろう、能力が上がったというか、本来の力を発揮できるようになってきている。


「やっぱり『カミーユ』と『心結みゆう』使い分けてみようかなぁ…」


どこかで『自分が思う普通』を大事にしたい。『普通じゃない』を受け入れてみて、改めて『普通』を愛しいと思った。もっと心結を大切にしたほうがいいと思った。…この能力を『私の個性』っていうにはずる過ぎるし外れているよねぇ…ね?

マリエルがくすりと笑う。泣かない私を見て安心してくれたんだと思いたい。


「帰りましょうカミーユ。今日はゆっくりと静養しましょう」

「そうだね」


今は難しいことは考えないでおこう。

1つ大きなことを終えたことによって、意識せずとも少しずつ整理されていっているのを感じていた。


◇◆◇


翌日の夜。再び天使コスで訪れている。

オーカム王国に「神様信仰」が無いのは調べて分かっている。だからこそ、悪魔がやりたい放題だったのだろう。

この国では「王様」が絶対であり、だから神子の扱いもあんなに酷いものだったのだろう。神子の扱いが酷いのはこの国においてのみであると思いたい。

神子本人だけでなく神子の子供達も皆酷い目にあっていた事が調べて分かっていた。神子の子達はその能力の引継ぎを期待され生まれたが、誰一人としてその力を引き継ぐことはなかった。母体にしても種として利用しても。彼らが神子から引き継いだ物は、神子と同様の「短命」と「美貌」のみであった。

遺伝子の違いのせいか生殖能力は無く、しかしながら無いのは能力だけで器官はあったのだ。そのせいで、ほとんどの神子の子達はその美しさがあるうちは身体を欲せられ弄ばれた。そのため多くがあっという間にはかなく散らされた。年老いてからは『平民』に落とされたそうだ。次の神子を召喚するときの生贄にされたという記録もあった。


こんな国なのにどうして人口が減らないのか。

ものすごく疑問だった。それも国を偵察してすぐに分かった。

召喚のための生贄のために人が不足するのは困る。だから「最下層」と定められた『平民』にきちんと配給がされていた。それはもうきちんと。取り合いにならないように。きれいな服は着れなくてもお金が無くても屋根も布団も食事も用意されているのだ。そんな平民の楽しみは快楽に溺れることくらい。

だから人口はそれなりに増える…いや、激減しない。

兵士の家からは常に兵士を、農家はずっと農家を。「人の階級」は変わらない。外国の情報を王家や貴以外族が知り革命など起こされたらたまらない。「国の出入りができる商人」は悪魔の下僕のみ。

悪魔に飼われている国。オーカム王国はそういう国であった。


天使コスの私達は上空に出現していた。視ると肉体と魂を繋ぐ銀色に見える糸がプツプツと切れていくのが確認できた。迎えと共にあの世に還っていく魂。彼らは死を受け入れることができた人々。そして、それを受け入れられずさまよい始めた魂を還すために私達は今いる。

天使コスしているし、夜だし。遠慮なく行うことにする。


「カミーユ、お願いします」


私は天に還れと、本来あるべき場所へ帰るだけなのだから怖くないんだよ、安心していいんだよ、幸せのために真っ当に頑張ったのなら胸を張って還りなさいと、お経の代わりに祈りと願いも込めながら両掌から聖光を放つ。夜空は虹色に輝き粉雪が舞って光を反射したかのようにキラキラしていることだろう。

本気を出すと決めていたので国中に行き渡ったと思う。目を閉じて放っているので私には見えない。というか、集中しているので身の安全はマリエル任せだ。

さすがに全力は1日1回しか出せない。今日はもうこれで打ち止めだ。

幻想的にも見えるこのキラキラの空を見上げる人も居たと思うが、そもそもどのくらいの人が生存しているのだろう。


「カミーユ、お疲れ様です。今現在亡くなっている者については全てあの世に還せました。

これから亡くなる方もいるでしょうが、今はこれで十分でしょう。

聴覚強化すると聞こえるのですが、俺達の姿、見えているみたいです。生きる希望を持ち直した人もいるみたいですよ」

「すごいね。切り替え早っ。もう、部屋に戻っていいよね?」


力を使い果たした私の意識は遠のいていく。マリエルが支えてくれているから安心して力を抜いていく。


「いいですよ。今はゆっくり休んでください」


マリエルの声はかろうじて聞こえた。



◇◆◇


わたしは虹色の輝きを魂に抱き込んだ。

この国が滅びることを願ったわたしは天国へ行けないだろう。

この世界を怨んでしまったわたしは地獄へ堕ちてしまうのだろう。

それでも、多くの【日本人】を召喚なんてものを使って攫い、人としての尊厳を奪ったこの国を赦せない。

自分の魂と引き換えにしたって必ず滅してやる。


あの日視た【最後の予言の巫女】はただの人ではなかった。

その神子がこの国を壊すのを視た。それは大きな喜びだった。歓喜に体が震えそうになるのを自らを抱きしめて我慢した。それは『希望』でもあった。

わたしは全てを懸けて実行した。離れたところから神子の行動を見守った。神子が召喚されてすぐにわたしは命を絶たれた。神子は王国の手に入らないというのに。この国にもう予言なんて無い。

ああ、なんて順調に事が運ぶのだろう。

わたしの周りには『同志』が集まってきている。


神子の手によって国は壊れたが、わたしを、わたし達を誘拐した根源が力を減らしながらも、逃れようともがいている。


『コイツだけは絶対に赦さない』


わたしの周りの同志達も同じように魂に虹色を抱き込んでいる。その数はどんどん増えていく。


『お前のせいで』

『よくも』

『消してやる』


同志の魂を目を凝らして見る。実際に目があるわけではないのだが。その魂にアイドルや俳優、モデル並の姿の【日本人】が重なって見える。


『あなた達もやっぱり【神子】だったのね』


わたしの居る場所から見える数だけでも百人くらいはいる。もっと多く居るに違いない。これだけの数が攫われたのか。わたしと同じように迎えも無く輪廻の輪に戻ることができずにこうして残っていたのだろうか。わたしは復讐を終えるまで、見届けるまで戻る気なんて無かったが。

近づくわたし達に怯えている。声は無いがそれが伝わってくる。

わたし達の絶望がコイツを消すことで無くなるわけではない。仲間がいる地球へ、天国へ行けるわけでもない。復讐を遂げてもドラマで言っているようにむなしさだけが残るのかもしれない。

それでもコイツだけは!!!!


『お前のせいでわたしの人生がめちゃくちゃになった!!こんな人生送りたくなかった!!!……消滅しろ……』


わたしは静かに言うとソレに突進する。

囲む同志達も霞の一筋も残さないようにソレを覆い【最後の予言の巫女】から借りた力で消していく。

ソレは、聞こえない断末魔を叫びながら聞こえない醜い言葉を吐いていく。


『その言葉はそっくりそのままお前に返す』


同志の意思も同じようだ。

わたしも同志達も皆、消えそうになりながらソレが完全に消滅したのをしかと目にした。


もう流れるはずなんてないが、やり遂げた・果たしたという想いで涙が出ている気がする。

わたし達ももうすぐ消えてしまう…最期に【最後の予言の巫女】にお礼を言いに行こう。そのくらいの力はまだ残っているはず。

そう思ったとき、黄金の光が消えそうだったわたし達をすくいあげた。あたたかさと懐かしさに包まれた。


「間に合いました!」

「よし、奴らを送るぞ。急げ!!」

「わくわくするねっ」

「失敗する可能性もあるんだ。覚悟しろよ」

「「はーい」」

「こんなだけどきちんとできる子達なので大丈夫ですよ」

「大丈夫だよ~」

「へへっ」

「…」


『ああ、戻れたんだ…』


外はなんだか騒がしいが、同志達からも本物の喜びが溢れていた。力を使いすぎたわたし達は人の形をとれずに光の球の姿だったが心からの喜びが溢れ騒がしさなんて気にならなかった。





次回は彼らが登場する予定です。

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