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18 イチョウとネコ

「まだ携帯電話は要りません」第36話「イチョウとネコ」の別視点になります。


ああ、これは夢だ。そうだと理解できるのは、100年以上前にやり取りした事だと覚えているからだ。

特務課にエンジュが来ている。

そう…私はカミーユ。


◇◆◇


「カミーユ、今回もまたお願いっ!」

「えーっ。エンジュの引継ぎしたら、また一緒に下界に下りられないじゃないの。つまんなーい。

しーかーもー、また!また!!ユリウスも一緒なんでしょ?

毎度毎度お熱いことで。ぶーぶーぶー!」


真っ黒な長い髪がサラサラと流れる度にキラキラとした光が見えるようだ。

金髪と銀髪の子供達がエンジュにまとわりつく。


「ねぇねぇエンジュ様ぁ。またボク達、エンジュ様のところに生まれていい?」

「いい?」

「駄目です。二人には私が抜けた穴をカミーユと一緒にしっかりとお願いします」

「えーっ」

「えーっ」

「「エンジュ様のけちんぼー」」


エンジュは真顔を崩さない。


「ケチで結構」


そう言い終わると、また私に頼み込んでくる。エンジュたっての頼みである。私はそれを渋々了承した。


「もうっ、貸しイチよ」

「ふふっ、ありがとう。ホント、誰にでも頼めるわけじゃないから助かるわ。

また、リーヤ課長も一緒だからマリエルに掛かる負担も大きいと思うんだけど。カミーユにはジルとリコルをつけるからイタズラする気が起きなくなるくらいこき使ってやって!で、マリエルのフォローもよろしく!」

「了解」


リーヤ課長、ユリウス、エンジュの三人は、どういうわけか毎度毎度、ほぼ三人セットで下界に下りる。

この三人の代わりができるほどの実力者となるとそう多くはいない。仕事内容の向き不向きもあるから仕方ないことなのだが。

リーヤ課長が課長になる前は三人の仕事を私とマリエルでなんとか…ほんっと必死にやって最小限ギリギリだが回すことができたが、『リーヤ』が『リーヤ課長』になってからはさすがに厳しく、私達の他に誰か二~三人つくようになった。そうしてもらわなければ滞るのだからこれも仕方ないのだが、留守を任される方の身にもなって欲しいものである。


エンジュがおもに担当しているのは日本地区の『赤い糸』などの『御縁ごえん』関係である。

現在、神様がからになっているたくさんの神社を回ることや絡まった赤い糸を解きほぐしてあげるなど縁にまつわることの諸々、それらがエンジュの代わりにしなければならない仕事である。その他に、特務課の緊急任務にかりだされる事もあるので尋常じゃない忙しさになる時期もある。


地球の人口は増えた。その上、世界が狭くなったことによって皆が用意して下りる赤い糸の本数が増えた。

昔はよかった。ほとんどの人達が近所や同じ集落、遠くてもせいぜい隣町の人と2~3本、人によっては1本だけしかもっていなかった。…無理やり結びつけたりお膳立てするわけではない!

で、それが今は一人当たり10本前後用意する人が多い。

絡まりやすくなるのも当たり前である。


◇◆◇


ユリウス達が下りてもう20年位は経ったのだろうか。余程のことがなければ知り合いが下りていようとも干渉することはない。

忙殺…予想以上にキツイ。エンジュはさすがだと思わずにはいられない。私と違い、その専門家なのだから当然ではあるのだが。そんなことを考えながら、参拝者の非常に少ない小さなやしろ、つまりはほこらで休憩という名のサボりで自身の回復に努める。部屋に戻らないのは一応まだ就業中だからである。戻っても誰も何も言わないが。

ここで休んでいるのは、この祠から懐かしい気配を感じるからだ。普段は空き社で参拝者が少ない割りに、『善い気』が入っている。

そんな不思議な懐かしさに浸っているとジルとリコルが今日も元気に報告をしてきた。この子達(見た目は子供だが中身は決してそうではない)にもかなりの仕事を受けてもらってるのに驚くほどいつも元気だ。


「ねぇ、カミーユ、見つけたの!」

「何を?」


厄介ごとでなければいい。


「あのね、あのね!リーヤとユリウスとエンジュ!!」

「リーヤとユリウス仲良しだった!」

「リーヤとエンジュも仲良しだったよ!」

「「ユリウス、エンジュにデレデレだった!」」


上手くいっているようで何よりである。ジルとリコルも相変わらず人間の時の彼らに対しては呼び捨てという使い分けだ。器用なことだ。


「そっとしておきなさい。余計なことしちゃ駄目よ」


全部駄目って言ったら余計なことしちゃうかな。


「遠くから見るだけにしておきなさいね。絶対に接触しちゃ駄目よ。上手くいっているなら尚更。

心の中で応援するだけにしておきなさい」

「「はーい」」


◇◆◇


熱い恋の季節が終わり、一段落つける季節になった。

ジルとリコルがまた騒ぎ出す。

今日はまた、懐かしい気配がする祠で休んでいる。マリエルも誘って軽く息抜き中だ。


「二人とも大騒ぎですね。俺とカミーユは二人きりでここで休んでますから、そちらも二人だけでどうぞ」

「「えー」」

「なぁに?じゃ、聞くだけ聞いてみるけど」


マリエルは私の膝枕でまったりしている。


「あのね、あのね、やっぱりユリウスとエンジュとお話したいの」

「会いたいの。近づきたいの」

「「だから閉じ込めた!!」」


マリエルが飛び起きる。私は「えーっっ!!」と叫ぶ。なにやらかしてくれちゃってるの、この二人。


「余計な刺激して二人の上での記憶が戻ったらどうするのっ。接触しちゃ駄目って言ったでしょ!」

「大丈夫。心配ない」

「ボク達ネコになった」

「ネコになったの」

「「ねーっ」」


じゃあ大丈夫かな…んなわけあるかっ。ハァ…。この子達は。


「どこに閉じ込めたのよ」

「季節に合わせてイチョウでいっぱいの空間作ったの」

「エンジュ、イチョウ拾ってた。喜んでいたよ」

「ユリウス、こ~んな顔して歩いていた」

「そう、こ~んな顔」

「「ねーっ」」


そりゃ、いきなりそんな不思議空間に連れ込まれたら困った顔やらあっけに取られた顔やら、真面目な顔になるわよ。


「君達、二人を置いてきぼりにしたのですか?今の彼らは人間なんですよ」


ジルとリコルに二人の様子を見せてもらう。

ユリウスはさすが男の子って感じで平気そうだが、エンジュは膝を抱いて泣きそうになっている。


「私達も入ります。ジルとリコルはユリウスを連れてエンジュと合流。早く二人を会わせてあげなさい。その後、社に連れてくる事。余計な事は言わない事」


マリエルと顔を見合わせ溜息をついてしまう。


「やってくれましたね、困ったものです。ユリウスとエンジュにはお詫びが必要ですね」

「そうね。二人には要らないものだろうけど『縁結びの御守り』でもあげましょうか。

あ、葉っぱ拾ったって言ってたっけ。それにも御守りの力込めておこうかな。ついでに劣化しにくいようにしておこうか」

「それ以上、加工しては駄目ですよ」

「わかってまーす」


二人がやって来た。厳かに演出してみることにする。


【約束を果たすことができた幸運な結ばれし者たち】


言っていて恥ずかしくなってくる。…相手が彼らだし。


【愛しい子達。愛に溢れる世界を】


きっと二人なら今世も作ってくれるだろう。

特別に見せてあげた赤い糸。

それを見て彼らは何を感じるだろう。


【忘れてはいけない。持ってかえれるのは愛だけ。心だけであることを】


物欲に塗れないで欲しい。負の感情に飲み込まれないで欲しい。幸せだったと思える人生を送って欲しい。

神の仕事をしている二人には大事なことを忘れないで欲しい。

ジルとリコルがタイミングを計って彼らを元の空間に戻した。戻した先は私達が休憩に使っている祠だった。

懐かしさの理由がエンジュとユリウスだったんだと知る。こっそり彼らの会話を聞く。


「神様の祝福?」


そう受け取ってもらえたのかと安心する。「本当はお詫びなんですけどね」とマリエルが苦笑している。

赤い糸を見せたが、太くなったのは彼らの愛の力だ。元々は全部同じ太さであるのだから。


「ねぇマリエル。二人があの世に戻って来た時この様子見て怒ると思う?」

「ジルとリコルが叱られるだけで済むんじゃないでしょうか」

「だといいなぁ」


懐かしい姿の二人の夢を見て口許がほころぶ。

夢の中なのに、心も体も温かく感じた。


◇◆◇


「どんな夢を見ているのでしょうね。幸せそうな顔をして」


先に目が覚めたのでカミーユを見ている。目が覚めたとき、眠った時と同じで抱き合ったままだったのを嬉しく思った。

起こさないように頬と唇をそっと撫で、キスをする。


「俺も出ているといいのですが」


夢の中で出会う男も俺だけでいい。

他のところにも触れたい気持ちをぐっと我慢して再びキスをする。止められないかも、と思うがそれも今は、そう、い・ま・は抑える。

抑えた気持ちを力に変える。

カミーユの笑顔は俺が守ってみせると一人ひそかに誓った。






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