17 崩壊‐3
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俺は一人、礼拝堂に来ている。
カミーユの持っている浄化力に比べたら微々たるものであるが、これでも彼女の相棒でもある。
カミーユがこの世界において「神並み」であるのに対し俺は「対抗するものが存在しないずば抜けた天才」という人の基準の中に、感情的になんとか納得することができる範囲の中に納まる。つまり、人の基準の最上位、最高位である。カミーユを比較に出したらその程度である俺もそれなりに力を持っているのである。
昨日のことを思い出す。今日に備えて完全装備を考えているときの事だ。
虫も殺せませんみたいな表情で近寄ってきた来た彼女は、「丁度水滴が落ちない、濡らし加減が絶妙」なガーゼ布付きの不織布マスクをグイグイと押し当てた後キラキラと目も眩むような笑顔を向けてきた。そんな物体だと気がつかずに普通に呼吸をしたら鼻と口が塞がれた。
まさかカミーユに殺されそうになるとは思わなかった。思わず自分から剥がしたマスクを床に投げつけた事を責める人はいないだろう。
今まで俺が見てきたカミーユは実のところ本心では…という思いが心中を駆け抜けて…そんなわけない、天然だと…実感させられた。
一瞬でも疑った事と笑えない天然ぶりに、怒気と八つ当たりしたい気持ちを込めて、少々お仕置きをしてみた。とてもよく効いた様子である。
危険な場所に来ているのに思い出し笑いをする俺は結構余裕なんだろう。
礼拝堂なのに誰の出入りも許さないとばかりにどこもかしこも施錠されている。開けることは容易いことだが、ステンドグラスに張り付くと中が見えたので、テレポートして中に入る。浮いて高い所から中の様子を観察する。俺の聖気を感じとれるのか、近付いてくる成仏できないでいる霊たちを次々と浄化させ成仏させていく。カミーユなら聖光や聖水の放出で一発だが、今の俺は1体ずつ触れながら還していくやり方だ。これも、工夫してなんとかしたいものだ。
群がる霊がいなくなり、見下ろしてみて気付く。
発動する気配は全く感じられないが、魔法陣だと思われるものが描かれていた。
「ファンタジー要素がこんなところにありましたか。…『コレ』でしょうね」
正直、この魔法陣の要はわからない。
でも、『コレ』が心結を異世界へ連れ出した憎きモノであり、俺達を会わせてくれた感謝すべきモノであると直感でわかった。カミーユもそうなのであると思う。だから、魔法陣がある今の状態に本能的に恐怖するのであろう。
ここも爆発させてしまいたいが、今ここでそれをすると人が集まってくるだろうと思われる。
空間収納からビービー弾を出す。やらないよりマシって程かもしれないが、それに聖気をまとわせ指で弾いて飛ばしていった。
パシィッ、パシィッと次々に地面・壁面に突き刺さり奥深くもぐりこんでいき小さなヒビをそこかしこに入れていく。
「おや。少々無計画に入れすぎたようです」
カミーユの施してくれた完全装備のお蔭で今日の作業は滞らない。快調である。
「目的を果たしましょう。崩れやすいように仕込みますか」
俺は万が一にもジグソーパズルのように繋ぎ合わされ復元されるのを防ぐため、なるべく細かくなるように、王城にしたのと同じように細工していった。
もしかしたら、この建物の中に諸々の資料があるかもしれないと探してみたが見つけることはできなかった。
「この世界の人間にもっと働いてもらわないと困りますね」
俺の呟きを神に拾って欲しかったが届いただろうか。
期待をせずに部屋へ戻った。
◇◆◇
十分イメージトレーニングはした。体に力もしっかりと感じる。
これからやることの結果に後悔はしない。
星が自らやることに比べたら遥かに小さな被害で済む。
むしろ私達がこうやって星のガス抜きをしていくことで、大陸が沈んだり浮いてきたり、海の水位が大きく変動したり、人が住めなくなるほどの気温の上下などを防ぐことができるのだ。
何より、今現在、自分達二人だってこの星に生きるものなのである。巻き込まれて早死にしたくない。少しでも快適に生活したい。だから、自分の身を守るためという意味でもやらなければならない。
「マリエル行こう」
「はい、行きましょう」
私達は決意を新たにして部屋から踏み出した。
最後の一撃を入れる場所は、私が最初に落とされた麦畑である。すでに刈り取られていて、そこに黄金色はもう無い。
この国の人々には悪いが、今はもう夕方である。これからどんどん暗くなっていく。外気温も下がっていく。目を細めてオレンジ色に目を向ける。夕日の美しさは、どの世界でも共通のようだ。ただ、月も太陽も地球よりも大きくみえる。満月の夜なんて映画でも観ているようだ。それほど幻想的であった。
あまりの美しさに、ここが異世界であると改めて感じさせられ涙を流したこともあった。…今はそんな感傷に浸っているときではない。
私はその場所に立つ。集中して感じながら自分の「気」と星の「気」を練り合わせていく。両手を左右にしっかり伸ばし、手をくるくると回して集めていく。集まる量が思っていたより多い。重い。地面から集めたものと手に集めたものを胸の前でよく練り合わせていく。重くて汗が流れる。
「マリエル、ちょっとヤバイかも。一発にすると特大になっちゃう。っていうか、全部まとめて一発にするの無理だわ、体力的に。しかも、一発にすると被害が半端じゃなくすごくなる。陸が割れちゃうかも?」
「数回に分けて流せますか?」
「問題ない、できる。その方がいいよね」
今練った分はこれ以上大きくしない。
まず、一発目を撃ち込んで流す。
「まず第一弾!いっけぇ~~~!!」
利き腕である右手に持ちポイントに撃ち込む。大地を駆け抜けて繋がっていくのを感じる。それと同時に地面が揺れ始める。
揺れるのを堪えながら再び集めて練り合わせていく。そして二発目を撃ち込む。地面は更に大きく揺れる。
夕方である。あちこちで火事が起きているに違いない。人々の怒号・悲鳴が飛び交っているのだろう。
容易に想像できるが、集中している今は聴こえない。
「これがラストだよっ、第三弾!!」
気合を入れて三発目を撃ち込んだ。
揺れが大きすぎて、さすがに立っているのがキツイ。
マリエルと二人、低くなり揺れる中で耐える……なんてことはなく、気を放ち終えた私をマリエルがさっと抱き上げて浮く。マリエルの腕の中で脱力しまくりである。
「休ませてあげたいところですが、もうひと仕事です」
「私のこれからやること、鬼…だよね」
「いつでも俺の可愛い天使ですよ」
「そう?」
「では、急いで着替えに戻りましょう」
そして着替えたその姿は・・・。
二人とも天使コスである。顔の判別ができない高さまで上がるが、誰に見られても困らないように、私達が誰であるか特定されないように、金髪のロングヘアに白い大きな羽根をつけた真っ白いウェディングドレスとタキシード姿の天使である。少しでも顔から注意を逸らすための演出である。
まずは王城の上空である。
「ちゃんと城は崩れていますよ」
「じゃ、今度は本気でやっちゃうよ。前みたいに多少の手加減もしないからね」
聖水の大きな塊を作り上げる。
「う~ん、洗濯中の水流をイメージして…」
水の固まりはグワングワンとものすごい勢いで回っている。せっかくの天使コスであるが、自分達の真下に聖水を出してしまったのできっと地上からは全く見えていないだろうということに気付いてしまい、ほんのちょっとだけ残念に思ってしまう。
そもそも、あれだけ大変なことになっているんだから、誰も上なんて見ないか。
「カミーユ、こちらもOKです。いきます!」
マリエルが風を…暴風を作り上げ、操り、再び聖水の雨を降らせていく。前回の比ではない。
城は更に崩れ、瓦礫が土砂と人を巻き込み流れていく。あちこちで上がっていた火もあっという間に沈下していく。火事でいつもの夜より明るかった城周辺は、暗さを取り戻した。
空の私達の姿は見えているのだろうか。
「カミーユ、次に行きましょう」
移動先は礼拝堂である。結界で隠してもらい二人で建物だったものがある場所にに接近する。
「うわぁ。見事に粉々だ。すごーい」
感心する私の声に乗ることなくマリエルは言う。
「とっととやってしまいましょう」
「はぁ~い」
あれだけ怖かったその場所に対して、もう何の危機も感じなかった。それを確認したところで上空に戻り、
同じように豪雨を降らせていく。
「本当、我ながらやってること、人じゃないね」
「だから、天使だと言っているでしょう」
マリエルのぶれない発言に心が救われた気がする。
普通の人には視えていないだろうがオーカム王国を覆っていたものもピキピキと音を立てて砕けて消えた。
オーカム王国だけでなく隣接している聖国ショイホーチにも多大な被害にあい大わらわだろう。
でも、今日はもう疲れて、力を使い果たして何もできない。
「俺達は帰りましょう」
「ん。疲れたね。帰って寝たい」
マリエルに支えられながら部屋に戻る。何とか自分で着替える。マリエルが気力を振り絞り『清浄』の浄化をかけてくれて、お互い温もりを求め合い抱きつきそのままベッドに倒れこんで、すぐに意識を手放した。




