16 崩壊‐2
退院したのに、また別の病気で散々な連休でしたが、皆さんは、楽しく過ごせたでしょうか。
お待たせいたしました。続きです。
マリエルの結界のお蔭でサクサクと進んでいく。
『偉い人って高い所が好きなのね、エレベーターもエスカレーターも無いのに。上り下りを考えるとこんなに高い所になんて住みたくないわ』
『偉い人は人を動かすので、自分では上下にはあまり動かないのではないのですか?』
『そうかも』
城の中に悪魔がいるかもと考え探しているが見つからない。少しばかり悔しく思うが、見つからない事で直接対峙しなくていい事にホッとしていた。
正直、もう少し任務を要領よくこなせるようになって、そして力もしっかり使いこなせる様になってからの直接対決にしておきたい。
私、言い訳ばかりだ。
やっぱり…怖いんだろうな。
そんな心をマリエルに見透かされ失望されるかもしれない事を恐れ、マリエルの目を見ることができない。
だから、私は必死を装って視続けた―――マリエルの静かな視線を感じながら。
『この部屋だ』
悪魔の力が大きく作用していたと思われる部屋の前に着いた。
後手である。悪魔の残滓は感じられるが禍々しさはもう少なく、悪霊の巣窟になっているだけである。
いくら結界を張って移動しているとはいえ、戦闘に長けた強い者が揃っているはずの建物の中、誰も違和感を持つ事は無かったのだろうか。
あまりにも順調に城の中の目的地を探し出し辿り着けてしまった事が不安である。…実は感づかれていて、既に見つかっていて、泳がされていたのではないか―そんな慎重とも臆病ともとれる考えが浮かんでくる。
緊張で手が自分の胸の上に伸びる。ドキドキと落ち着かない心臓の辺りをギュッと掴む。すいとその手が掴まれる。勿論マリエルだ。
『えっ、何?』
何も言わずに私の手をどけると、マリエルの手は私の胸に戻ってきてやわやわと揉み始めた。
『ちょっ、何なの?』
突然の場違いな行動に戸惑う私に答えは返さず、行動は更に激しくなり耳をはむはむちゅっちゅと攻めてくる。敵地に居るのに、こんな状況においてもだんだん甘い声が出てきてしまう。それをまた塞ぐように深い口付けが重ねられ、服の上だった手は生肌に触れている。
息も絶え絶えになり、部屋に戻って続きをしたくなったらどうするのよと思う頃、漸く口付けから解放された。
潤む目でマリエルを睨む。
全然効果を発揮していないのは、彼のさわやかな笑顔を見れば一目瞭然である。
『自分で揉むなんて。そういうのは俺がしますから。数回分もったいない…惜しいことをしました』
『いや、違うから。揉んでないから!』
子供っぽく頬を膨らませた私の顎を軽く上向けて目を合わせてくる。
『大丈夫ですよ。上手くいきます』
『ん。ありがとう』
やっぱり場違いだけど、私も気持ちのままに笑ってしまう。
『俺の結界の性能はいいですからね。聴こえることはないでしょうけど笑いすぎですよ。何のために念話で話しているんだか』
「だって~。くすくす、ははっ、あーもうなんだかなぁ」
たった今、言われたのに思わず声に出して話してしまった。
どんなに隠したってマリエルに全部筒抜けなんだもん。
一人でバカみたい。けど本当に一人じゃないんだね、私。
『マリエルって凄過ぎっ。神様みたいっ』
『何言ってるんですか。形ばかりですが、カミーユも俺も神様でしょう?』
『そうだったね。皆がお祈りする神様がこんなだって知ったら誰もお参りに来てくれなくなるかもね』
『ちゃんと仕事だってしてるんですからいいんですよ』
余計な緊張と不安はとれた。残っているのは作業するのに丁度いい程度の程よい緊張感。
『じゃ、いきますかマリエルさん』
『さぁ、今日中にやってしまいましょう』
ここからしばらくはマリエルの番だ。軽い衝撃くらいじゃ建物が崩れない程度にこの部屋の周りを含め亀裂を入れ、目立たない様に幻影をまとわせていく。
王城の中で一番やばいこの部屋の周りで私が危ないと感じないってことは、城には召喚に関するものは無いのだろうか。
あの屋敷で感じた危機感は、やはり神子に関するものだったのだろうと、今は自信を持って言える。この後訪れる『礼拝堂』に近づいた時に、あの時と同様のヤバさを感じたからだ。それを考えると身が引き締まる。
『カミーユ?どうしました?ここはこれでいいでしょう』
『あ、そうだ。私の持っている小説によると、お城って隠し通路とか隠し部屋があって、悪いやつらって、そういう所から逃げちゃうんだよね』
マリエルはいい笑顔を見せると、私を一緒に屈ませて床に手を着いた。
『探索』で探っているようだ。この男、本当に何でもありだ。
『大した数はないようです。全て壊れるようにしてしまいましょう』
マリエルとテレポートして次々と細工していった。…ここもてっきりひびを入れて回るのかと思ったら、大きな衝撃で爆発する小型爆弾を埋め込んでいった、なんて容赦ない…。
『こちらのほうが手っ取り早いでしょう。きっとこの世界にだって爆薬くらいありますよ。証拠を残さないようになんて気をつけなくても、どうせ証拠なんて残りません。大災害起こすんですから』
つまり、手間をかけるのが面倒になってきたということですね。
細工しながら気付いたのは、王城関係者も知らないでいる通路や部屋だらけだったことだ。人が居る部屋沿いにある場所への作業、人目のある廊下での作業はどうするのかと思っていたが、そんなのは無視して細工をしていく。
はっきりいって、それなりの音も出ているのだが…。パシッとかピキッとか音が出る度、心臓がバクバクである。しかし、城の住人や働く人は、なんと『ラップ音』で片付けてしまったのである。どうなっている防犯。
『予言の巫女』頼りだけで、国ひとつが維持できるわけがない。知恵者に悪魔が憑いていて、国として維持しながらも悪魔側においしくなるように操っていたのだろう。
『逃がした悪魔が力をつけなおす前に浄化できるといいね』
『そんなに気負う必要はないですよ。本当に危ないところは生粋のこの星の者が行えばいいのですから。
課長達だって、カミーユと俺が危機にさらされることを善しとはしていません』
『うん』
『さぁ、次に行きましょう』
次の目的地は『礼拝堂』である。
ここばかりは、ある程度まで近づくと足がすくむ。
マリエルから離れると彼の結界で姿を隠すことができないので、マリエルに聖水を飲ませ、聖光を身体全体にに纏わせ、更に結界を重ねるという思いつく完全装備で送り出した。私は一人、部屋で待つ。
この装備に決まる前、以前のように具合が悪くなることを心配した私は、聖水でビショビショに濡らしたマスクに同じくビショビショにしたガーゼを当てて、マリエルの耳にかけてあげた。きちんと隙間が無いように鼻や頬にしっかりフィットさせて。
「殺す気ですか。俺に死ねと?」
どす黒いオーラを出しながら凄まれた。この世が終わるかと思った。その位怖かった。
リーヤ課長とユリウスの顔が思い浮かぶ。あの二人もどっちが悪魔かわからないと思うほど黒いときがある。類は友を呼ぶ…恐ろしい三人組である。
そんなことを思い出しながら一人待つ部屋。
マリエルは礼拝堂にも王城と同じ様な処置をすることになっている。
近づきたくないカミーユの出番は、破壊した後にも待っている。
その時には本気を出すことになるだろう。
今は近づくその時に備えて、深呼吸とともにイメージトレーニングを行い、精神を落ち着かせ集中力を高めることにした。
「崩壊」が終わった後、マリエル・カミーユ・ユリウス・エンジュの話を入れる予定ですので、神様云々についてはそれまで突っ込まないでおいてくださいませ。
とはいっても、きっと容易に想像できているとは思いますが。
いつも読んでくださりありがとうございます。




