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13 異界の神子と異世界人(前)

ちょっとシリアスかな。

「…という事で、カミュ様が望まれている仕事は『異界の神子』様専用になりますので、残念ながら募集はでておりません」


私はがっくりと肩を落とす。


「それに近しい仕事はありませんか?」


担当してくれているお姉さんは私の質問に『髪結い』という仕事を紹介してくれた。


「とは言っても、『髪結い』だけで生活するのは難しいと思いますよ。貴族街へ行けば未だに高貴な方の生活をしている方も残っているそうですが。

全くお勧めしませんが、髪結いに拘るなら隣国のほうが仕事自体は数多くある有ると思います」



◇◆◇


ギルドは、まんま、『職業斡旋所』だった。安定所じゃなくて斡旋所であるのは、作ったのが日本人ならばささやかなひねりであったのかもしれない。因みに『冒険者』という職業はこの国には無かった。少しだけ残念だと思ったが、マリエルはそうでもなかったようだ。というより、最初から本当にあるなんて思っていなかったんだろう。


日本に居たとき、私は美容師をしていた。

社長のスパルタ教育により、勤めて1年半後にはスタイリストとして仕事をさせてもらえ、こちらへ来る前にはまつげパーマ・エステティック・メイクもモノにし、和装花嫁はまだ無理だったが、着付け全般、男女共に成人式から卒業式に七五三・洋装花嫁にも対応できるようになっていた。

社長のスパルタには勿論理由があって、その1つが、女の子はやっと使えるように成る頃には、お嫁に行ってしまったり妊娠して辞めてしまう子や実家の美容室に帰ってしまうから、その後の再就職や自分で店を出したいときに困らないようにという親心らしい。まぁ、そんななので、馴染んでしまえば結果的に辞めるスタッフは殆んど居ないし、愛読書が「美容と〇営」になってしまったりするのだが…。

社長にもお客様にも善くしてもらい、仕事も漸く楽しくなってきたところ……ここにたどり着くまで大変だったのに…そこへ来て、やっと楽しさが分かり始めたところで、まさかの異世界である。

美容師を続けたいと思うのは自然な事だと思う。


なのに。


しかも、マリエルは『美容師』という仕事がないっぽい事を予想していたようなのだ。理由はここでは言えないという事なので後で聞かせてもらうことにした。


「髪を切ったり染めたりするお仕事ですか?

基本的にその様な事はするだけ無駄なので誰もしませんね。するのは『異界の神子』様だけですし」

「えっ?」

「…えっ?って。もしかしてカミュ様は毎日切ったり染めたりするのが主流のお国出身ですか?

私は存じ上げないのですが、そういう地域もあるのですね。失礼いたしました」


お姉さんは頭を下げてきた。

は?毎日切る?毎日染める?いやいや、ナイでしょ。


「髪が不気味に伸びたり、老化現象として髪が白く変色したり抜けて無くなるなんていうのは『異界の神子』様だけですからね。

何でも、神子様の住む世界では髪に限らず体毛が伸びるという現象が起きるそうですし、しかも、大人の証の毛が生えるというではないですか!

本当、異界って不思議ですよね。髪が抜けるなんてまるで呪いです。寿命も私達の3分の1、4分の1…と短くてらっしゃる。

でも、だからこそ、私たちに無い知恵や知識、技術をもたらしてくれるのかもしれませんね」


◇◆◇



とりあえず話を聞いて、「また来ます」とギルドを後にした。ひと気の無い小路にマリエルを連れ込む。


「マリエル~、どういう事~??」

「………」


すいっと目をそらすマリエルの胸倉を掴みユサユサと振ってしまう。首から上がガックンガックンと揺れているがされるがままになっている。

それも、私が疲れて止めるとぽすっと抱き締めてくれた。

入れ直したばかりの気合も希望も脆くも打ち砕かれて涙が流れた。

空回りする自分に対して可哀想と思ったり、もうどうでもいいやと投げやりな気持ちになったり、ねちっこくも、辞令を下した課長を恨めしく思ったり、美容師を真っ当する為に注いだ時間と努力と情熱とお金が無駄になった事を嘆いたり……もう、頭の中も胸の内もドロドロに渦巻いていた。


『元の生活に戻りたい。こんな所になんて来たくなかった。

家族に会いたい。友達と話したい。職場に戻りたい。

帰りたい。元に戻りたい。

他に何も要らないから、心結として過ごしていた時間に戻りたい!』


浮かぶ望みを連ねながら、意識を失った…らしい。

望みの中にマリエルが全く入っていなかった事に彼が心を痛めた事に気が付かなかった。


目を覚ました私は思ったよりもずっと落ち着きを取り戻していた。マリエルに甘やかして受け止めて貰えているお蔭だろう。

何度も何度も崩れ乱される私の精神的な弱さ脆さ。情けない程繰り返している。


「はぁーっ。ほんともう、私って弱いなぁ。自分の事ながら、嫌になる」


希望を持った分だけ、その反動ショックが大きすぎて、また泣いてしまった事を猛省する。


「…やっぱ、そう簡単に未練は絶てないよ。でも。ここは知る外国でもなく異世界なんだもん。いい加減本当に割り切らなきゃなんだよね。

とはいっても、数日じゃ築いたものから離れられないのも当然なんだよね。ハァーッ」


がっくり落とす肩をポンポンと叩かれた。叩いたのは勿論マリエルで、部屋に運んでもらったお礼すら言っていなかったことに気がついた。その彼も疲れているのか表情が抜け落ちているように見える。


「マリエルごめんね。運んでくれてありがとう」


私がベッドから降りようと端により腰をかけた体勢になると、マリエルがベッドに上がり、後ろから私を包み込んだ。顔を首元に埋めてくる。

その人肌の温もりが心地いいのでそのままでいることにした。

時々、熱い息が首や服の隙間から胸の中に入ってくるのにドギマギさせられるが、それもまたくすぐったい感じの喜びが浮き上がり心が温かくなった。

心の中でそっと思う。


『マリエルありがとう、大好きよ』


口に出すのは恥ずかしいので…といっても、かなり今更だが。それでも、だって、ね。

マリエルが反対側の首元に顔を埋めてきたところで声をかける。


「ところでマリエル。美容師の仕事が無い事を予想できていたみたいだけど、理由を教えてもらえる?」


返事の代わりなのか抵抗なのか聞いてないのか、首に吸い付かれた。


「んっ、もうっ、マリエル?」


私を包み込んでいた手が、片方は服の上から、もう片方は服の中へ滑り込んでやわやわと形を変えてくる。

その力が段々強くなり身動きが出来なくなる。


「ひゃっ、いやっ…痛っ」


キツくつままれ、噛みつかれ、手荒な愛撫に戸惑う。

ベッドに腰掛けた状態で抱き込まれ動かせない上半身。足をバタつかせ抵抗すると、マリエルは足でそれを抑え込み、片腕で私を抱きなおしてスカートのすそを捲り上げ、広げられたソコに指を這わせてきた。


「こういうのが好きなんですか?」


わざと音を立てて辱めてくる。いつもの優しく穏やかなマリエルと違う姿に怖くなり、気持ちいいなんて思っていないはずなのに反応している体になんともいえない気持ちになる。経験し開かれた体は気持ちが無くても反応するようになるって読んだ事があったな…なんて、余裕もないのに状況に相応しくない考えが頭に浮かんだ。


「くっ…随分と余裕そうですね。考え事なんてさせない。俺でいっぱいになればいいのです」


その言葉の通り、さらに激しさを増す。それでも相手がマリエルだと思えば抵抗する気も失せて、自然と受け入れていた。

私が抵抗をやめても荒々しいのは変わらないが、受け入れたせいなのか、言葉でなく、悲しさや遣りきれない想いというか━━そんな感情らしきものが伝わってくる。でもその中には間違いなく愛情が感じられた。

苦しいけど熱い。キツい吸い付き、痛いほど立てられる歯、強くこねくり回され、激しく指の出し入れをされる。うごめく指たちに逆らう気なんて起こるはずもなく、マリエル自身を受け入れた後は訪れた快楽に身も心も任せた。


情事の後の余韻に身体を動かすことができない。

始め、感情とか想いしか伝わってこなかったマリエルの心の叫びは、段々言葉に変わっていった。マリエルが無自覚で念話を使ってしまったのか伝える気があったのか、壊れる寸前の自衛だったのか、愛の成せる業なのかはわからない。

完全に身体を重ねるとマリエルの痛みが伝わってきた。

私は自分の辛さと全く思い通りにいかない事へのうっ憤をぶつけるばかりで、懲りずにまたもや自らを悲劇のヒロインに仕立て上げていた。

『異世界に来た』というのはマリエルも同じであったのに自分だけが全てを奪われたような錯覚に陥っていた。よく考えてみればマリエルも同じだったのに。

ただ、覚悟があった無かったかの差はあったが。


マリエルに依存していただけの自分を恥じた。

荒ぶる心のままに我が儘に振舞っていた自分を心底情けなく思った。

甘えの度が過ぎて、マリエルを傷つけたことを深く後悔した。


それでも自信を持って言えることがある。マリエルへの愛は本物であると。これは、元のカミーユの想いの引継ぎっていうのじゃなく、心結の気持ちをもったカミーユである私自身だけのものであると。


『誰よりも愛しているのも本当だよ。またマリエルと出会えて嬉しいし、再びマリエルと生涯を共にしようと思っているけど……まさか、私の一方通行じゃないよね?』


ものすごく聞きたいことだったけど、心で汗をかきながら聞こうか聞くまいか悩んでいた。





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