12 心残り
「ハイ、ハ~イ!マリエル先生」
「…何ですか、カミーユ」
ピクッて動いたよ、眉毛が。
「あの、やっぱり、私が思うに、その土地柄とかを知るのには地元の人と交流を持つべきだと思います」
静かに首を縦に動かしたって事は続きを促されているんだよね?
「思い切って素の姿をさらして隠し事は少なくし、世の中に溶け込んでみてはいかがでしょうか?
なんて思ったんだけど、どう思う?
私の性格だと、隠し事多いと直ぐにボロを出すと思うの。だから、部屋と能力だけ全力で隠して、後は人並みってのでどうかなぁ?」
マリエルは肘を着いた手で髪を耳に掛けながら視線をテーブルに落としている。
「ほら、小説だと召喚されると冒険者になって活躍したりするじゃない。私は冒険者向きの性格だと思わないけど、マリエルならやれるって。
私はやっぱり、できたら、ここに来る前にやっていた美容師の仕事続けたいなって思ってる」
私の話を聞いていたマリエルは、小さくだけど微笑んでいた。
「そうですね。『冒険者』という職業があるかどうかは分かりませんが。それでは、その方針で進めてみましょうか」
「へへっ、ウィッグ、蒸れて思ったより不自由だったんだよね」
ぬっと腕が伸びてきて、私の長い髪にマリエルの指が入って行く。ウェーブのある髪は、マリエルの髪ほどじゃないがサラサラと指からこぼれていった。
ちょっとくすぐったいが、ほんわりと温かくなった。
癒しの音楽CDをかけながらベッドにゴロリと寝転がる。まだ寝るには早すぎる時間だから眠るつもりはないけど、だらーっとしたかった。
天井を見つめながら、こちらへ来てから数日、ずっと気になっている事を考えていた。
私が消えたことは、どういう風になっているのだろう。
戻れないことは決まっている。
知りたい。マリエルは知っているのだろうか。
私が忘れているだけで、あの世ではどういう扱いになるか決まっていることだっただろうか。
「心結がどうなったか知りたいですか?」
真面目な顔をしたマリエルが枕元に座り、私をじっと見ている。
「どうして?……あっ」
無意識に念話を送っていたのだろうと至る。
「知りたいですか?」
再び問われる。体を起こすと、その問いに肯定の意をこめて頷いた。
「教えて。私がどうなったのかを」
◇◆◇
「まずは、あちらで最後に身に着けていた物を見て下さい」
言われた通りに見てみようと空間収納の中を探すがどこにも無かった。
服もコスプレ衣装もウィッグも靴も籐のバッグも水筒も全部無くなっていた。
「あのイベントの帰りに事故に遭って亡くなったことになっています。
実際、肉体はこちらに在るので、葬儀等は家族や関係者に対してだけ事故と葬儀の記憶を刻んであります。言ってしまえば、記憶改ざんです。
心結の持ち物は俺の転移と同時に地球に戻りました。
事故後の遺品にしてはきれい過ぎると思うかもしれませんが、打ち所が悪かっただけということになっているので不自然じゃありません」
「そっか」
元々居ない存在にされなくて良かった。
体がぐちゃぐちゃになったわけじゃないなら、お母さん達の記憶に残る私の姿はちゃんと私のままなんだろう。良かった。自分のことなのに他人事みたいだ。そんな自分はおかしいのかなと思ったりもする。
そういえば、DVDやテレビなど私の荷物がこっちにきているがそれっておかしくないのかな?
「全てコピーなのであちらで無くなってませんよ。
荷物がまとめられていた事についてもにも同僚の方々が引っ越す予定でいたという話をしてくれていたので、間違っても自ら命を絶ったとは思われていないので大丈夫です」
「うん、良かった」
私、幸せだったんだよ、毎日充実していたんだよって知ってもらえていると良いな。日記を書く習慣でもあればよかったな。
いつの間にかマリエルの胸に顔をうずめていた。
自分が泣き虫な自覚はあるが、本当によく出るものだ。
「あまりにも急に様々な事が起き、変化したんです。
そんなに簡単に落ち着けるわけがないんです。今、不安定であることは当然のことなんです。
それでいいんですよ」
こんな時なのに、涙だけでなく、やっぱり鼻水も出てきてキレイに泣けない自分がおかしく思えて、思わず口許が弧を描いてしまっていた。BOXティッシュを差し出してくるマリエルの顔もほんのり笑っている様に見える。
「出ちゃうんだもん。しょうがないでしょ」
鼻をかむ音が男らしくて恥ずかしい。1回じゃかみきれずにもう1枚もらってかむ。マリエルも、もう声を隠そうともせずにクックッと声をたてて笑っていた。
「むぅー。泣いたらお腹空いたっ。夕飯はマリエルが何か作って?
あ、ケチャップ味のオムライスがいい!ウズラのゆで卵でヒヨコ作って。あと、カニさんウィンナーつけて。チキンライスの鶏は、ちゃんと皮剥いで間の脂もとってね、鶏皮苦手だから。カリカリに焼いてくれたら食べられるよ」
「注文が多いですね。お任せ下さい、お嬢様」
「うん、よろしい。頼んだよマリエルくん」
二人で声を出して笑った。笑ったらまた涙が出ていた。
ご馳走になったマリエルのお手製オムライスは絶品であった。ヒヨコはちゃんとカレー粉できいろになっていた。カニさんの足も見事で、私が作るより形よくできていた。
◇◆◇
街のおばさんからの助言を生かして、今日はちゃんと下町?の人混みでも浮かない服装で来ている。
「マリエルって典型的な美形だよね。何着ても格好良く見えるって、世の中不公平だわっ」
「それをあなたが言いますか。カミーユだって人のこと言えないでしょう?」
「あ、そういえば。てへっ」
そうよ、今は私にだって立派なお胸様がちゃんとあるのでした。
昨日みたいな好奇の目にさらされることの無い私達は、数日前に見た案内板を目指して歩いている。
案内板に職安みたいな機関が載ってないか見るためだ。載っていればいいが、なければ警察にでも訊きに行こうと思ったのだ。
ということで歩いているのだが、案内板に着くより先に交番らしきものを発見した。
「行っちゃう?」
「行っちゃいましょう」
交番を覗くとおまわりさんが居た。この国のあちこちに『異界の神子』の影響っぽいものがあることが分かる。『警備兵』とかじゃなくて良かったとほっとする。鎧装備に槍や剣を持っている人が居たら怖くて話しかけずに逃げ帰ってしまうかもしれない。
「どうかしましたか?」
書き物をしていたおまわりさんが立ち上がって中に入れてくれた。
「お尋ねしたいのですが。この街の仕事を斡旋してくれる所を探しているのですが、ご存知でしたら教えて欲しいのです」
「私達、旅行で来たのですが、気に入ったのでこの街に住もうかと思ってるんです」
「はははっ、そうでしょう、いい街でしょう?ここほど発展している街は無いからね。
移住する人は多いんだよ」
内心、この街のレベルが最上級なのかとがっかりする。
おまわりさんは続ける。
「この通りをこのまま真っ直ぐあっちへ行けば『ギルド』、あ、職業斡旋所って言った方がいいかい?
ギルドがあるから、そこで仕事を紹介してもらうといい。
住む所が決まってないならギルドの隣に不動産屋があるから『アパート』も紹介してもらうといい」
中途半端にファンタジーだ。もしかしたら本当に『冒険者』という職業もあるかもしれない。
期待と不安に胸を膨らませながら、教えてもらったギルドへ行くことにした。




