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100 再び神子

時間は少し前に戻る。



緊張していたのだろう。四人共無意識に余計な力が入り、ガチガチだったようだ。あの状況で緊張しないはずもないのだが。部屋で大きく息を吐きだす。ジルは胸を抑え膝をついている。リコルは仰向けでぜえぜえと荒くなっている息を整えている。そんな中俺はカミーユを胸に抱き込み座り込んでいた。


何が起こったかなんて分かっていたが、いや、確信はないが多分こうだろうと予想は出来ている。

そんな中、のほほんとした声が入る。


「いや~、無事にやり過ごせて良かったぁ~。また召喚されるとは思わなかったよ。神子の能力って何だったのかなぁ?ちょっと気になるかも。四人の誰に付いたんだろうね?」


のほほんとした声に誤魔化されそうだが内容は現実的だ。

能力は付いたのか?多分付かなかったのではないか。いや、遺伝子に付くのではないみたいだし、魂に付与されるものなのか?それとも地球人の肉体が陣を通ると付くものなのか?よく分からないが確かめる術もない。


「私の勘、命綱だよねぇ。鈍ったら本当にあっさり死んじゃいそう。それにしても、捕まらなくて良かったよぉ。経験が役に立ったね」

「本当ですわ」


その通りだ。つい、カミーユを抱く腕に力が入ってしまい、カミーユの口から女性らしくない「グェッ」という音が洩れたのが聞こえたが、聞こえなかったふりをした。リコルの表情がもの言いたげであるがそれも見なかったことにする。それと共に少しだけ気持ちも体も余分な力も抜けた様だ。


「は~い、注目してくださ~い」


俺の腕から抜け出たカミーユが気が抜けそうな軽さで俺達を呼んだ。息を吸い姿勢をただす。髪を耳に掛けカミーユに並んだ。カミーユが自分も含め全員を座らせる。話が長くなるのだろうか。飲み物を用意しようと立とうとする俺をカミーユが抑える。


「一息吐いた所で」


いや、吐けてないから。


「まず、速攻でやります」


何を。


「破壊します」


え?


「まず、任務果たします。全て後で話すから今は何も言わないで」


急ぐのか?


「この後すぐマリエルと出るよ」


結局説明が足りていないが。確かに一緒に出てと言われていたけど。






そして、俺は言われたように力を振るう。

カミーユが特大聖水の塊を放つ。それを俺が位置と距離を見定めて打ち出したり蹴り飛ばしたり、この国を水浸しにしていった。

うっすら残る血の匂いと燃えた匂い。


カミーユは気付いた。

召喚が起こったということは多くの命が失われたと。

一度目は分からないが、二度目だったからカミーユだから気付いた事があったのかもしれない。

再び召喚に巻き込まれたことに対する怒りもあったのだろうか。

命の扱いの軽さにキレてしまったのだろうか。

何にしても、今は言われるがままに体を動かす。


召喚陣の資料も消すことが出来たのだろうか。

カミーユが人ではないものになってしまったと一瞬だけ考えてしまい、それを振り払う。

カミーユだけではなく、俺だって人ではないのだ。


何で自分達の事を特殊能力があるだけのそこらへんに居る人と変わらない存在だと思ってしまったのだろう。神子でさえまだ人だが、俺達はもう人とは違う。

ただの、守護サマ付きの人はまだ、ただの人だ。とはいえ、その多くが本来何かしらの役目を負っている事が多いが、それでも人だ。


今更だが、普通の人は聖水を物理的に作り出すことは出来ないし、瞬間移動もできないし、部屋も持っていないし、空間収納も持っていない。まぁ、視えたり聴こえたりというのは普通の人でもできる者がいるが。


カミーユに、人であることを忘れずに夢を追い楽しく生きる事を望んだ。しかし、力を振るえば振るう程力を取り戻し離れていく。何より、この世界が考えていたよりも悪く、想定していた様に任務を行うことがこの世界にとって良いのか悪いのかすら考えさせられる。


どんどん雑に力技で攻める浄化作業が、カミーユの心情も俺とそう変わらないのだろうと予想させる。

カミーユの中で何か片がついたのだろうか。

世界が違う事で生まれた差。この差は大きかった。

寿命と成長速度。


『うん、そう』


突然の念話に聖水球の軌道が狙いを外す。


「カミーユ、あなた」

「なんか、ごめん、聞こえちゃった」


俺の制御ミス?


「ううん、違うと思う。多分だけど、偶々だと思う。もう聴こえないし」


もしかして。考えるのはまた後でと思ったら。


「増した力に呼応してるのかも。あ、それか召喚の影響かもね。なんかさぁ、もうこんな感じで、パパってやっちゃって、さっさと帰っちゃうのがいいと思わない?」

「そうですね」

「でさ、四人で長期休暇取って文字通り羽根を伸ばして、邪魔が入らない所でイチャイチャまったり過ごして、あの世でも青雲の志で天国ツアーとかしたいな」

「いいですね」


水びたしの地上を見下ろすといい気分が沈む。


「さぁ、挑戦してみよう!」


カミーユが視ている。探しているのは何だろうか。


「見つけた」


そう言って構える。


「後ろから支えて。肩、お願い」

「はい」


上から抑える。


「そうじゃなくて横から。あ、ずれた。一度緩めて。そこ。うん。そのままで」


カミーユの構えは撃つ構えだ。指先に聖気が集まる。


「素人だもん、一点集中は無理ですよぉ~っと、えいっ!」


球体が円錐になりドリル状に変化し飛んで行った。着弾箇所が物理的にどうこうなったわけではないが、視覚的には中々凶暴で。


「詐欺です」


だったら、亀の老子直伝のポーズで放ってもらった方が視覚の暴力を受けずに済んだ気がする。霊界探偵のポーズで指先から出すなら、その様な、ああ~、ああ。素人。でも。いや、うん、漫画で有名な殺し屋やスナイパーじゃないし。あんなに遠くに当てるつもりなら。


「そんなに軽い掛け声で、トラックよりも大きなドリルを指先から出さないで下さい」


色々おかしいから。


「すっごーい。予想よりずれが少なかったよ。マリエルがしっかり支えてくれたからだね。ありがとう」


いい笑顔にがっくりとする。俺はやっぱりこの笑顔に癒される。長くいつまでも見ていたい。


「どういたしまして。カミーユの腕も素晴らしいですよ」

「ふふ、そう?」

「それで、上手くいきましたか?」

「うん。禍々しい濃いのも浄化したよ」

「それって」

「きっと悪魔の書的なヤツ?」

「でしょうね」


カミーユが「あ」といい再び構える。


「バンッ、バンッ、バンッ、っと、あ、もう一つバンッ、でどうかな。うん、終了!」


被害を気にしなければこんなに早く終わってしまう。

俺達は二人が待つ部屋へ戻った。




もう聴こえない、そう言ったカミーユ。でもそれは、俺の制御ミスかという心の中での問いへの答えではなかっただろうか。

ふと思い出した俺はカミーユの力の強化を知り、それを隠そうとするカミーユの不安を想い、気持ちを引き締めた。



いつもお読み下さり、ありがとうございます。

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