10 亡骸
漸く本日の外出であるが。
「ねー、着いて早々から精出して任務に励んでいるけどさ、こんなにせっせとしなくていいんじゃない?
まずは生活基盤をさー」
「そうですね。俺達真面目過ぎでしたね。そうは言ってもキリが悪いですし、何処の国、街を拠点にするかを選べる程、この星についての知識がないですしね。
部屋がある御蔭でその辺はかなり疎かになってましたね」
「んー。じゃ、早くキリがよくなる様に頑張ろう!」
「はい」
「そこは『応っ!』でしょう」
今日も「見つからない事」が念頭にあるのでラフな服装でいいと、タンクトップにシャツ、ミニスカート、靴である。マリエルはシャツにベストにスラックスに靴である。
「ウィッグつけとく?」
「そうですね」
私は栗色のリップラインのボブ、マリエルは背中の中ほどまであるストレートの銀髪を被った。
「お互い、任務の時は常にコレも被る?」
「そうしましょうか」
森に行ってみた。匂いの元は、やはり死体だった様で、明るい所で見ると昨日の聖水によって死体が流され、広く散らばっていた。骨になっているものや腐乱しているものも多かったが、何故かきらびやかな衣装をまとった新しい死体が目立った。パッと見、その数は100じゃきかないように思う。
「一応聖光当てるから埋めてもらえる?」
「はい。足下が悪いので、俺と一緒に浮いて移動しましょう」
森の奥の方では遠慮なく聖光を放つ。街から離れているから見えないだろう。お墓は作ってあげられないけど、野晒しよりはいいだろう。
昨日、聖水を浴びて浄霊できていたので、残っているモノは聖光だけで還してあげる事ができた。
二人共既に流れ作業である。淡々とこなしていく。
ほんの2・3日前まで、こんなに多くの死体を目の当たりにする事なんてなかったのに、何も感じなかった。
慣れるには早過ぎると思うが、これが融合のお蔭ならば感謝しなければならない。そうでなければ、『予言の巫女』になるのと同じ位、気が狂いそうになることだと思うから。
森の外へ近付くと、新しい死体が積み上げられていた。森を歩いていて気付いたが、地面は傾斜していたらしく、低地側である森へ、聖水で全ての死体が流されていた様だった。
なのに、また積まれている。昨日の水害で出た死体なのだろう。
マリエルに深い穴を掘ってもらう。私が上に漏れない様に聖光を放つ。マリエルが死体を放る。聖光を放つ。土を薄く掛ける。死体を放る。聖光を放つ。何度も繰り返し、全て埋めた。
「今まで、こんなで伝染病とか流行らなかったのかな。
それにしても、思ったより随分と多く亡くなったんだね」
「違いますよ。気付きませんでしたか?片付けた死体、昨日死んだ人だけじゃないですよ。もっと前に亡くなったのが放置されていたのでしょう。聖光と聖水で匂いが緩和されてますが、昨日より古いものです。環境のせいもあるでしょうが、腐乱が始まってますし、骨が見えているものもありましたよ」
無意識に見ない様にしていたせいか、マリエルと違って死体に近付かなかったせいか、状態の詳細を見ていなかったけど、見なくて良かったと思った。
そして、これらの死体が自分のせいじゃない事に安堵した。
「カミーユ、街に入ってみましょう」
「うん」
私は多くの死体を見て、命を亡くした人に対する悲しみや同情ではなく、自分が手を下したわけじゃなかった事への安堵、死体を死人・屍体という物として感じているという自分の感情に不思議さを感じた。
私って意外と薄情で冷静でいられるんだ。自分じゃなくなりそう。決してそんな事は無いはずなのに、「カミーユに心結が吸収されていく」そんな気がして、気分が塞いでいく。任務をしなきゃなのに、心結が悲鳴を上げそうになっている気がした。心結の事も認めて欲しい。25年間頑張ってきたのは『心結』であって、元は同じであっても『カミーユ』ではない。
マリエルが私と視線を合わせる。その表情はとても優しい。
「カミーユ。姿はカミーユですけど、心結は心結です。
今ではストーカーって言うんでしょうか?ずっと『心結』を見ていました。18才の時に他の男に身も心もゆるしたのをみた時は…張り裂けそうでしたが。………そんな目で見ないで下さい。
ん、んっ、キリのいい所まで任務を先に進めてしまおうかと考えていましたが、やっぱり任務ばかりじゃ俺も保ちません。
初めての街に遊びに行きましょう!!
王国じゃなく聖国へ。そちらの方が発展しているのでしょう?」
「私、初めてじゃないよ」
「でも、俺が初めてなので案内して下さい」
「もうっ、しょうがないなぁ」
マリエルのストーカー発言に百年の恋も醒めるかもってくらい引いたけど前の彼氏との見られてたってのは、もう本っ当に毛細血管が全て破裂して血塗れになりそうな程恥ずかしかったけど、知っていて貰えた、認めてくれた、否定されなかった―――何時のときの自分でも受け入れて貰えた事が凄く嬉しかった。
『記憶が戻らないままマリエルに会っても、きっとまた好きになっていたよ。ありがとう』
堪えきれない嬉しさを隠しきれずに笑顔のままマリエルの手をとってテレポートした。
何度も不安定になるだろうけど、その度にちゃんと立ち直る。いつもこの人が側に居てくれるのだから。
◇◆◇
1度『念話』を使ってから、カミーユの念話がかなりの頻度で飛んでくる。彼女には『ちょくちょく』っていう程度に濁したが。ちょくちょく程度の時もあるが、突然心のドアが全開になって全部聴こえてくる事もある。表情がくるくる変わる可愛さに加えて、心の中で思っているしょうもない事も含めて、本当に可愛らしくて愛しい。
朝も、例えるなら妖精の笑い声の様な楽しそうな声が念話で入ってきた。とはいえ、眠っていたから凄く遠くに聴こえる感じだった。だからこそ妖精の様だったのかもしれない。
楽しさだけじゃなく、感動や驚きも伝わってくる。が、段々体が火照ってきて、眠りが浅くなっていくのを感じる。
浅くなってきたせいなのだろう。いい所を見せようとして失敗した浅ましい俺の淫らな妄想が夢の中で叶えられている様だ。
夢の中だというのに、生々しい刺激が体を襲う。こんな夢をみているなんて知られたら、カミーユは俺に幻滅するだろうか。
夢だというのに突然止んだ刺激に喪失感を覚える。体じゅうがカミーユを欲している。
『ああ…やっぱり夢では物足りません』
そんな事を思うと、再び体を疼かせる刺激がやってきた。
夢の中ならカミーユを激しく抱いてもいいだろうか。
そんな気持ちが抑えられなくなると、体に与えられる疼きだけでなく、腕の中にも本物の感触があった。淫らな妄想が叶えられた夢の中の出来事だと思っていたソレは間違いなく己の身に起きていた。
その衝撃にほんの少しだけだが思考が止まる。直ぐに止まった思考は動き出す。
体への刺激はカミーユによってもたらされていた。
『やだっ、どうしよう。起きちゃった。どうやって誤魔化そう』
焦っている声が念話で伝わってくる。なのに、変わらず舌を動かしているのは無自覚か狙っているのか。
『でも、でも、きっと、あの様子だと気持ち良かったよね。素直に謝ったら許してくれるかも』
気持ち良かったからこそ、責任はとって貰いますよ。昨日ちゃんと約束を果たさなかったのは俺ですけど、この状況を利用しないわけないでしょう。全然怒ってませんから、誤魔化す必要も許しを請う必要もありませんよ。
「誘ってきたのは、あなたです」




