表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/109

1 予言の巫女

話が暗いのは第一話のみです。次話からは主人公が登場します。



もう…いやぁ。誰か助けて。お願い…もう殺して。いいえ、駄目よ。このままじゃ終わらせない。まだ正気を手放してはいけない。必ず滅ぼしてやる。


《予言の巫女》と呼ばれる女の心と身体はボロボロだった。地球からこの世界にさらわれて27年の月日が過ぎていた。

頼る者もなく身を守る術も持ち合わせていない彼女は言いなりになるしかなく、お偉方に逆らう事などできなかった。

保護という名の軟禁…城の中は自由に動けるものの、一歩も出してもらえる事もなく、トイレ以外は入浴中も着替えも常に男の護衛と侍女が複数一緒だった。情緒不安定になり泣き叫ぶ事も多かった。さらわれた当時12才だった彼女は不安と恐怖と寂しさから、その環境を全くおかしいと思う事が無かった。それだけ精神的に極限の日々だったのである。判らなかった異国語、言葉や文字も大人達が根気強く教えた。まだ若い彼女に優しく接する大人達は彼女の言う事を理解しようと努めた。

日に何度か視える映像を伝えると殊更喜んだ。同じ映像が何度も視える時もあった。それが何かは解らなかったけど、視える事が此処に居る人達にとって善い事なんだと理解できた。

城の外を何も知らず、外からの情報も何も入って来なかったが、ほんの少しずつ自分自身の立場を知り、己を不利な位置に追いやらない振舞い方を模索しながら身に付けていった。

言葉を完全に覚えると、閲覧規制がかかるし監視もされるが書物に触れることを許され、相変わらず少ないが情報を得る事ができるようになった。解ったのは、視えているのはそう遠くない未来であるらしい。外を知らない彼女には検証の仕様がないが、何か法則があるようで、お偉方は政治に利用している様であった。

色々知っていく中で、自分はこの世界に召喚されたという事実がわかり、大きなショックを受けた。家に帰してと泣き叫ぶ彼女に大人達はその術は無いと冷たく告げた。15才の時だった。


どんなに優しくされ厚遇されようとも、彼女のストレスは緩和される事はなかった。それでも彼女は故郷へ帰るという微かな望みを失うことなく気丈に振舞っていた。

その気丈な姿に慣れた大人達は、巫女は漸くしっかり落ち着いたのだろうと判断した。そして今まで以上に栄養を摂る事を勧めてくる。15才なのに未だ豊かに成りきらない胸と腰を見て女らしい体型を作る事を求めていたのだ。豊かに成りきらないとはいっても地球でいうC~Dカップはある―スレンダーでモデルのような体型である事に本人は不満は無かった。帰る希望を捨てていない彼女にとって、無理に食べて太る方が嫌だった。美的感覚はそうそう変わるものではない。しかも若い侍女達は彼女とそう変わらない体型であるのだ。女らしい体型…太る事を求められる本当の理由がわからなかった。



12才の頃はほぼ毎日視えていた映像は、15才になってからは週3~4日になり、視えない日もあった。その代わり、視える時は若い頃よりハッキリと視える。時には音までも聞こえた。17才に近付くと1週間に数度しか視えなくなってしまった。しかしながら、外れる事が無くなり信用度が上がっていた。そして17才になってしばらくすると、地球に居た頃は既に始まっていたが、こちらに来たショックとストレスで止まっていた月経が始まってしまった。

彼女はそれをとても恐れていた。

彼女が完全に一人になれるのはトイレだけである。一人の時間が欲しい時に長く入っている事は彼女に付く任にあたっている誰もが知っている事だった。武力・武器を持たない女一人が閉じ籠った所で何もできない。

だから侍女達もその時間は油断して話し込む事が多くなっていた。


「まだ月のものはないのかってお偉方がうるさいのよね」

「本当まいっちゃうわ。料理長も医師も私達のせいみたいに言って来るし」

「待ちきれないならさっさとしてしまえばいいのよ。意外といい刺激になって始まるかもよ」

「そうよね。それで出来ちゃうかもしれないし」

「神子っていうだけであの素敵な方々に抱かれるなんて、なんてうらやましい」


話の内容に耳を疑う。似た様な話を幾度も耳にしていたが、ここまであからさまなものは初めてだった。そんな恐ろしいことあるわけないと思いつつも、栄養を摂る事ふくよかさを求めること…月経を起こさせる為。それが嘘ではないと告げていた。


誘拐されたと知ってから、何とか脱出方法、帰還方法を模索し続けていた。召喚なんてものをしておきながら、魔法は存在していなかった。他国はわからないが、この国、この城の文明は未だ科学が未発達であった。

よくよく調べてわかったのは、《予言の巫女》が『新しい《神子》が無事に召喚される』ことを予言するのに合わせて多くの生贄を捧げることで呼び寄せるという、まるで悪魔の儀式、それが召喚だった。

そして、帰還の手段が無いというのも、認めたくはないが、探しながらも心の奥では諦めてしまっていたのかもしれない。


そして更に、侍女の話の他に、最悪なことにその映像を視てしまったのである。それは見目の良い、少年から壮年の男達が部屋を訪れ代わるがわる精を注ぎ込んでいくという(おぞましいものだった。自らの大きな腹を涙ながらに撫でる姿も視た。生まれた赤子に対面することなく奪われ泣き叫ぶ姿、再び月経が始まると喜ぶ男達。《予言の巫女》に嫉妬し罵ってくる令嬢達。

この悪魔の様な国は、様々な人―――《神子》が男性の時は女と―――交わらせて、何とか《神子》の資質―――国産の神子を得ようとしていたのだ。未だ誰一人として特殊能力を受け継ぐ者が生まれたことはない。それでも悪しき慣例は続けられていた。《神子》がいずれも美男美女ばかりだったのも慣例になっている理由の1つだろう。


初めて視えた己のことが悪夢であって欲しい内容であり、かなり先まで視えてしまったという事は、絶対に変えることができないのであろうと思えた。

そんな映像が視える様になって、更にストレスはかかり精神は病むのに……それなのに、無情にも来てしまったのだ。


数年ぶりに感じる腹痛と違和感。トイレで太ももを伝う経血を見た時、無意識に自らを守るために、恐れ・恐怖は憎しみ・憎悪に変わる。ギリギリだった正気は狂気に。


『自身の唯一の武器、予言を使ってこの悪夢の国をなんとしても滅ぼしてやる』


《予言の巫女》は心に誓った。



しかしながら実際に視えた生活が始まると何度も心が折れた。死にたいと、数えきれない程思った。

死にたいが殺してに変わってしまう程の苦痛を受けるが、身体は生きようとする。宿った命を育もうとする。それが彼女を完全に狂気に飲み込まれる事なく理性をのこさせていた。

巫女は39才になっていた。少女だった時の可憐さはどこにもなく、いかめしい顔つきになったが、それがまた美しさを際立たせた。

予言の映像は7~10日に1度しか視えなくなっていたが相変わらず精度は良かった。

勿論、強突く張りなこの国のお偉方は自分達に都合が好く成る様に映像を使っていた。危機を回避したり利益を得たり、実行中の作戦の成功の確信を得たり様々。この国の暗部の映像も随分と視た。


そして遂に待ち望んでいた映像が視えた。

それは粗末な服を纏った最下層に住むと思われるを、特別な礼拝堂に集めて毒殺するという残酷な映像。それには続きがあった。どの位後かはわからないが、森と隣接している草原…麦畑に少女だろうか?…が墜ちてくる?のである。少女の安否が気になるが振り払う。

《予言の巫女》は映像に真実と嘘を混ぜる事にした。

1度きりのチャンスである。

悪しき習慣により、新しい神子が召喚されると殺されてしまうのだから。




巫女が新しい映像を視たという事でいつもの様に、王・王妃・大臣達・騎士団長・王太子など腐敗した上層部が集まっている。


「《予言の巫女》よ。視えた未来を申せ」

「はい、国王様。

教会、いえ、礼拝堂。とても大きな礼拝堂に貧しき民が集まっています。国王様の施しを受ける為に老若男女集まっています。そこで施しを受けた民達は次々と眠りました。閉じ込められた彼らは煙が充満した中で眠り続け二度と目を覚ましません。

『まだか、何故来ない。失敗したのか』という言葉を発し、騎士様達が右往左往しています」


巫女はそこで1度言葉を切った。

息をのむ音がする。動けない者がいる。落ち着きなく目玉をキョロキョロさせる者もいる。

それはそうだろう。状況が召喚の失敗を現しているのだから。グラスに注がれている水を口に含んで潤わせると続きを話し始める。


「私が皆様に詰め寄られています。私は言います。『私が視えたのは礼拝堂に集まるのは高貴な方々でございました。国王様王妃様国の要職に付く方をはじめ、まるでそこで夜会でも開かれているかの様に着飾った皆様方と私が存じ上げない貴族様騎士様がたくさんでございますと』

そして、皆様が礼拝堂で永遠の眠りにつくと、森と隣接する黄金の草原に少女が落ちてまいりました」


いつもの様に必要なことだけ言って自室にさがった。侍女が淹れた薬草茶を飲む。早くホルモンバランスを整え、次の子を産むために備えるという意図がみえみえである。

巫女が退出した後の場は、さぞ楽しい事になっているだろう。

口の軽い侍女達に先程話した予言を話す。

今まで善意…であの場でしか話さなかっただけで口止めはされていない。

彼女達に話した事によって、この部屋に居る護衛の騎士達の耳にも入れることができた。

話を広めてもらう為にトイレに行くことにする。


「お手洗いに参ります」


ドアが閉まると、ドアの向こう側が慌ただしくなるのがわかる。


「あっ…」


《予言の巫女》の口から小さな声が漏れる

何も無いどこかをジッと視ている。巫女は涙を流していた。口許は僅かだがほころんでいる。嬉しさに自らを抱きしめる。


数年ぶりに続けて発動した未来視の力は、巫女が望み続けていた未来をハッキリと視せていた。

次話から『まだ携帯~』位軽くなっていきますので、今後もよろしくお願いします。


数日前の活動報告にも書きましたが、まだ携帯~の様に本編完結までの毎日更新は無理ですので、それと比べたらゆっくり更新にします。


本日、まだ携帯~の番外編も久し振りに更新します(完結はずします)ので良かったらお読み下さいませ。


ここまで読んで頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ