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猫が死んでいた。
白くて小柄な猫だった。
うす緑のカーペットに黒ずんだ血が広がり、その上で仰向けに倒れている。真っ白な毛があたりに散らばり、血の中で泳いでいる。目はかたく閉じられ、口は半開きで、まるで、何かを吐き出そうとして吐き出しきれなかった、そんな開き方だった。
死骸は鼻につんとくる酸っぱいにおいを放っていた。腹はぱっくりと割れ、中から粘りけのある細長いものがどろりどろりとはみ出している。
思わず口を手で覆おうとして、手に血がついていることに気がついた。吐き気がした。目をそらしても、血の色が緑の残像となって白い壁につきまとう。
きらり、と太陽の光をうけて何かが光った。
血の中にある。ナイフだ。
元の場所に戻さなければ、そう思うのに体が動かない。
だんだん頭がくらくらしてきた。どこからかハエが飛んできて、猫の毛にそっととまる。
「ただいまぁ」
鍵を開ける音がして高い声が響く。母さんが帰ってきたのだ。