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長男の失恋。



「おかあさん、あのね、そらちゃん、ゆうとくんとケッコンするんだって」


 ある日の保育園からの帰り道、はるきくんはしょんぼりと言いました。


「ふぅん、ゆうとくんはなんていってるの?」

「ゆうとくんはななちゃんとけっこんするって」

「……ななちゃんは?」

「けいちゃん」

「けいちゃんは?」

「んー、わかんない……」


 あぁ、全員片思いですか。

 少女マンガか恋愛小説のごとき複雑さ。あなどりがたし、保育園児。


「じゃあさ、ゆうとくんがそらちゃんを好きになるまえに、そらちゃんがはるきとケッコンするっていってくれるようにがんばればいいんじゃない?」

「………うん」


 はるきくんはしょぼんとしたまま、一応返事をしたのです。

 けれどもその夜に布団に入って電気を消して静かになってからのことです。


「……おかあさん」

「なに?」


 いつもなら「電気を消したらもうおしゃべりしないお約束だよ」と叱るところなのですが、しょんぼりとした声に話を聞いてやろうと思いました。


「あのね、そらちゃんね、ゆうとくんがすきなんだって。ぼくとけっこんしないんだって」


 ふるえたかぼそい声。でもまだ泣いてなくて、懸命に堪えていて。

 きっと何度も考えたんでしょうね。でも、好きって言ってもらえる未来を思い描けないほど「ゆうとくんが好き」の一撃の痛みが強いのでしょう。

 なんだか無性にぎゅうって抱きしめてあげたかったです。実際には次男を抱っこしていたので無理でしたけど。


「んー……そらちゃんの他にもかわいい、いい子はいるよ?」

「そらちゃんじゃないとだめなの!」


 はるきくんの良さをわかって好きと言ってくれる子がきっといるはずと慰めたつもりだったのですが、怒ったはるきくんはそのまましくしくと泣き出しました。布団を頭まで被って、小さくうずくまって。


 あぁ、失敗しました。

 純粋な恋の芽に、恋の諦め方を教えてしまうところでした。


「……そっかぁ。じゃあ、諦めずにがんばりなさいね」


 頭のあるであろうあたりをポンポンと叩いて、このかわいいかわいい恋をちゃんと本気で応援してあげないといけないなと、静かに心に誓ったのでした。






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