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あらすじ必読な突発短編

続・シンデレラっぽいもの

作者:

タイトル通りに、『シンデレラっぽいもの』の続編です。

本編中、『シンデレラっぽいもの』の要素は限りなく少ない(多分)です。

「ようやく気付かれたようですが、ご自分の立場を今一理解し切れていらっしゃらないようですね。全く、嘆かわしい。

 僕は国を出る際に言いましたよ?

 僕を国外に出せば後悔することになりますが、本当によろしいですか? 国外に出すことでどのような事が起こるのか真実の意味で分かっておられますか? 貴方にとっての利と国にとっての利をちゃんとわかっておられますか? 貴方がとるべきがどちらであるべきか、その為には僕を国外に出すべきではないと分かっておられますか? と。

 すべて無視して、貴方は僕を国外に、この国に送られました。

 つまり、全ては貴方の選んだ結果ですよ?

 それなのに、どうして僕を責めるように睨まれるんでしょうか?

 母上とは政略であったことは知っています。ご側室を寵愛されるのもかまいませんとも。

 ですが、規律、順列という物があるんです。しかるべき理由があって、それらは存在するんですよ?それらを無視したら、混乱と不利益が降りかかることなんて容易に想像できるじゃないですか。

 思いつかなかったとでも? あきれ果てるほどの愚君ですね。

 いいですか? 良くお聞きください。

 貴方は婿養子です。たとえ、王族の血筋と言えども、貴方は臣下でしかなかったのです。

 我が祖国は女性に王位継承権がありませんから、祖父の唯一の子である母上が婿を取り王位を継いでもらわなくてはならないのは当然でしょう。

 お分かりですか? 貴方は確かに王です。王族の一員となりましたが、それは母上との婚姻があってこそ。母上亡き後も貴方が玉座に在ったのは、僕が成人していなかったからです。

 僕が18になったら、然るべき地位と後ろ盾を持つ姫君を娶って即位する手はずだったんです。

 まぁ、それらの為に動いていた者達を貴方は目障りで鬱陶しい奸臣と思い込んで遠ざけましたけどね。結果、貴方とご側室におもねるバカばかりが宮廷に残ってしまいました。当時、僕が子供でなく、ちゃんと発言することのできる機会と知識を持っていれば、こんなことにはならなかったと思うと、何とも悔しい事ですね。

 バカばかりになって腐敗した宮廷ですが、それでも、貴方が僕を第一位王位継承者から降ろさなかった為、決定的な揺らぎとなることはありませんでした。

 去年、貴方が僕をこの国に婿にやると言うまでは。

 僕がここに来てから、何人の貴族が宮廷を辞しました? 故郷に帰る軍人はどの程度いましたか? 官吏達の不穏な動きは増えませんでしたか?

 …気付いたのはつい最近、と言った所でしょうか。まぁ、それらはどうでも良いです。

 その理由がなんであるか分かってますか? ……あぁ、分かってないんですね。まぁ、分かっていたら僕に抗議になんてきませんよね。

 僕が婿に来てから、そちらの国と直接やり取りしていた国がこの国を介してそちらと交渉するようになったそうですが、それが何故か分かってます?

 これも、同じ理由ですよ。分かりませんか?

 他でもない、貴方が自らそうしたんですよ?

 正当なる王家嫡流唯一の子である僕を他国の女王の伴侶として送り出した、と言うことはその国への従属と併合を示したようなものです。

 諸外国が有する地図はすでに書き換わっています。そちらの国の名は既に存在せず、貴方は領主となり果てた。玉座に模した椅子に座り王のようにふるまう愚かな道化者と蔑まれている事を知らないでしょう?」


 にこやかにとうとう言いつのったジルードに、彼の父はポカンと間抜け面をさらしている。

 分かっていないのだろう。

 何一つとして。


 ジルードが言ったように、彼の祖父には王女が一人しかいなかった。王妃をことのほか愛していた祖父は、早くに王妃を亡くしても後添いを持たず一人娘を厳しくも慈しんで育てた。

 賢王と呼ぶほどではないにせよ、決して愚かではなかった。

 戦が失われて久しいこの時代においては、十分に名君と言えただろう。

 その唯一の失策は、婿の選出だったに違いない、と現在、国内外で大いに嘆かれている。


 ジルードの父は、祖父の叔父の孫、という王家に連なる高貴な血筋に生まれた。ジルードにとって大叔父に当たり、また、曾祖父にもなる彼は臣下に下る際に王位継承権を放棄している為、子孫であるジルードの父が王位継承権を有することはない。

 すなわち、彼が王でいられたのはジルードの言う通り、先王の一人娘の夫だからである。

 王命による婚姻。明らかな政略結婚。

 それにより、寵愛する側室を後宮に入れても誰も不平不満を口にする者はいなかった。

 主家の姫を娶り、家督を譲られながら不誠実な、と陰口は叩かれたかもしれないが。

 ジルードの母である王妃ですら、ため息一つで黙認した。

 それが悪かったのか。

 ジルードの父は、王妃を疎み始め王妃が病死するとジルードを厭い始めた。

 王妃とジルードは、自らの地位の後見そのものであるにもかかわらず、だ。

 ついには、ジルードを他国に婿養子にとまで言い出し、実際にやってしまった。


 先王から使える老臣達は何度も諭した。彼らは宮廷より強制的に排除された。

 真っ当な見識を持つ者達は遠まわしながらに諫言した。彼らは不敬罪として投獄、最悪、処刑された者もいた。

 そんなことをすれば、常識を持つ者達は王におもねるよりも身の安全を選ぶに決まっている。

 何より、ジルードを追い出した時点で王ではなくなったのだから、忠義を尽くす意義もない。


 ジルードの祖国は、王位継承権に対して厳格な取り決めがなされている。

 爵位を得た、もしくは貴族に婿入りした王族は、婚姻と同時に王位継承権を放棄する。さらに、王に子が生まれれば、臣籍降下していない王族はその時点で王位継承権を失う。

 なら、女でも王位継承権を持てるようにしておけよ、とジルードは思ったが口に出しはしない。今更だからだ。

 そんな取り決めがあるから、ジルード以外に王位継承権を持つ者はいなかった。

 ジルードの父は、継承権を持っているわけではない。

 正しく王位にある王の娘を娶り、生まれた子へと確実に王位を譲渡する為の、中継ぎでしかない。正当な王位継承者が成人するまで、王冠と玉座を管理し守る番人のような立場だ。

 それが、便宜上、王と呼ばれていたに過ぎない。

 立場を確かとする根拠は、王妃とジルードの存在であると王宮の生き字引である侍従長から幾度となく言い聞かされていたはずだが、どこでどう思い違ったのか甚だ見当がつかない。

 ちなみに、その侍従長は老臣達と共に強制排除され、ジルードを頼ってやって来た。現在、女王の従兄である大公の屋敷で家令として雇われている。


「ご側室に子が生まれ、健康な男児だから跡取りはいる、と思われたのでしょうが、それこそ愚の骨頂。王とは名ばかりの貴方とご側室の間に生まれた子供が、王族として認められると思う方がおかしい。現に、大神殿は王族としての祝福を与えなかったでしょう? つまり、貴方が僕を排除したことでこの国に自国の正当な王家を捧げて臣に下ったということですし、何より、貴方とご側室のお子を王にしたら、それは王家の交代です。完全なる反逆ですよ」


 血筋は王家の物と言ってもいいかもしれない。

 だが、親から子へと継がれる継承権を持たない以上、玉座に在ることは許されない。

 権利と資格を有しない者が王になることを、反逆と言わずになんというのか。しかも、れっきとした権利と資格を有する者がいるにもかかわらず、だ。


「で、ご理解いただけましたか? 周辺国が貴方を無視して貴方の国と取引する為に我が国へやってくるのは当然で、何もおかしくないんです。だって、この国は貴方の国に対して宗主たる国なんですから。あぁ、そうそう。貴方の国に関する統治権限は僕にありますから、近い内に貴方は処分します。ご側室もそのお子も、です」


 宗主国に居丈高に乗り込んで王配たるジルードに罵詈雑言を浴びせたのだから、当然だ。

 大義なく歯向かう臣下は、不敬罪など生ぬるい。立派な反逆罪だ。

 一族郎党、首を落とされるのは必然。


 子供はジルードにとって弟であるが、感慨はない。

 見下しきって蔑み接する側室とそれに感化されていた弟に、情がわくはずもない。


「元王宮にて、どうぞわずかな平穏をかみしめておいてください。ご安心ください。僕も悪魔ではありません。処断を先延ばしにしたり嫌味を言ったりして精神的に痛めつけようなどと思いません。えぇ、本当ですよ。準備が整い次第、即刻、執行して差し上げますので」


 どこまでも晴れやかな笑顔で言い切って、ジルードは部屋の隅に控えていた護衛に連れていくように指示を出す。


「冥府にて、お祖父様と母上にどうぞよろしく」


 底冷えするような眼差しとこの上ない皮肉で、父であった男を見送ったジルードは、足早に王族の私室空間へと飛び込んだ。

 仕事を終えて戻って来たばかりの妻である女王を見つけると、無言で抱きしめる。

 女性としては背が高い女王の方に額を預けるようにして腕に力を込めると、ジルードは肺を空にするかのように息を吐いた。


「……癒される」


「……お疲れ」


 疲れ切った呟きに、女王は苦笑を浮かべながらその頭を撫でる。


 微笑ましい限りの主君夫妻の姿を見ていた女官や侍従、兵達は思う。


 似たもの夫婦、と。


 …どう似ているのかは、語らずとも、ということで…。



※※※



「ジルード殿下は、大丈夫そう?」


「何故だ?」


「だって、どんな関係だったとはいえ、父親でしょう?」


「あぁ。大丈夫みたいだ。親子としての情自体、育つ素地すらなかったらしくてな」


「それはまた、なんと…」


「多くの貴族は同時に処断されたが、残った貴族の多くはジルードの直轄統治を望んでいるらしい」


「慕われておいでなのね」


「さすが陛下のお孫様、と老臣達が手塩にかけて鍛えた秀才だからな」


「…彼らにとって、陛下はあくまでジルード殿下の祖父君なのね」


「当然だろうな。実質的な問題として、あの男は『王』ではなかったんだから。まぁ、あんなバカをやらかしたらなけなしの忠誠心も消え失せて当然だろう」


「…致し方ないわね」




「すべては自業自得、あの男が背負うべき罪であり業だ。君はそんなことを気にせず、元気な子を産んでくれ」


「えぇ、もちろんよ。今の状況を考えたら女の子がほうが都合が良いでしょうけど、男の子っぽいのよね」


「気にしなくていい。ヴィクトリアもジルードも喜んでくれるだろう」


「ふふ、そうね」




ジルード…16歳。隣国の唯一の王位継承者だったが、父の愚策によりヴィクトリアの王配に。

     国の事を多少は気にかけていたが、自分が絶対王になる必要はないとも考えていた為、現状に不満はない。

     ヴィクトリアにべた惚れ。


ヴィクトリア…25歳。『シンデレラっぽいもの』で両親と弟を蹴落とした女傑。

       近隣国にそれとなく婿候補を募ったら隣国の次期国王がやってきて、結構驚いた。

       王の愚策と理解しているが、まぁいいか、と投げやりに受け入れた。

       ジルードを可愛い弟的に思っているが、最近男として意識し始めた模様。実は初心だったと判明し、王宮全体が生暖かく見守っている。


ジルードの祖国…ジルードという最後の王族がヴィクトリアの婿となったことで、ジルードの持参金扱いになっている。


ジルードの父…王族ではなく貴族から婿養子になったのだと、国民全てが知っているので、彼らは側室の子を王位につけようと画策した反逆者と認識している。


※最後の会話文の二人

ユリア…22歳。『シンデレラっぽいもの』の主人公。

    現在、妊娠7か月。ジルードとは姉弟のように仲が良い。


クロード…27歳。ユリアの夫であり、次期大公。

     至福の時を満喫中。かつて(前作後書き参照)の仕返しに、さんざんからかい、ジルードの積極的攻勢の後押しをしてうろたえるヴィクトリアをニヤニヤと見ている。


※ヴィクトリアとジルードの結婚で、大陸でも指折りの大国となった。

 元々、周辺で随一の大きな国だった。


※前作の他の登場人物は鬱々とした人生の中で無気力に日々を過ごしています。



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