表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽る者  作者: 雪 渓
13/19

翌日

お久しぶりです。長らくお待たせいたしました。

春休み中に完結できるようにがんばります。

 湖底にできた泡が水面にあがってくるように、意識はごく自然と覚醒した。

 ――――全部、夢か。

 自分の頬に触れた。涙が伝っていたのがわかった。

「おはようございます」

「あ、おはよう」

 美咲は、もう起きていたようだ。まどから差し込んでくる光が眩しい。時間は七時半だった。

「お母さんは、もう出ていきました」

「そっか」

 部屋は暖かった。きっと、自動で暖房がつけられていたのだろう。一般家庭でも、これくらいのことは当たり前になっている。

「あとは、学校に休むって電話しなきゃいけませんね。でも、もう少し時間がありますし、ご飯でも作ります」

「悪いな」

「いえ、趣味みたいなものです。それに、母は仕事柄家を空けることがよくありますから、自分でご飯を作ることも多いんです」

「そりゃ、頼もしいな。んじゃ、頼んだ」

「はい」

 美咲はそう言って、部屋を出て行った。足音が遠くなる。

「はぁ、あんな夢。久しぶりに見ちゃったな」

 強がってはいても、意識の下ではまだ、不安なんだろう。そりゃそうだ。相手は、生まれてこの方、ずっと恨み続けてた場所で、それは俺なんかよりも、ずっとずっと大きい。

 考えてみれば、馬鹿なことなのかもしれない。なんにしたって、敵は国家なんだ。例えそれが非公認であり、非人道的な人体実験を繰り返した異端機関であったとしても、間違いなくこの国の一部なのだ。

 それに、優香姉さん言葉が、いつも脳裏をよぎる。

 ――――生きて。

 多分、優香姉さんは俺が戦うことに賛成じゃない……むしろ、反対だろう。もし、俺がいくならば、身を呈してでも止めるだろう。あの人はそういう人だ。

 けど、だからこそ俺は許せない。

 そんな優香姉さんや、他のみんなの、そして、それ以外のたくさんの命を弄んじゃいけない。

 それは、尊くて、決して犯しちゃいけないものだから。

 あの時、すでにどれだけの命が生まれ、息つく間もなく消えていったか。そして、それが成長した後、どんな惨事を引き起こすのか。

 頭の中はパンク状態だ。実験は止めなくちゃいけないけど、優香姉さんが生きてたらは反対するだろうし、今は美咲の命もかかっている。

「はぁ~」

 俺は、迷いを振り払うように起き上がった。

「悪いから悪いんだよ。きっと」

 そして、そんな意味の分からないことを呟いて、背伸びをした。

 新しい朝が始まる。新しい一歩を、踏み出す。それは世界の「悪」なのかもしれないけど、俺の「正義」だ。

 寝袋を畳んで荷物入れの中にしまった。今日からはリビングで寝る。ちょっと寒いかもしれないけど、それへの対策はある程度立てているつもりだから、問題ない。

「さてと」

 とりあえず、美咲と話さないことには何も始まらない。昨日は結局すぐに寝てしまったから、大雑把な話しかしてない。朝食から内容が重いけど、詳しい話をしていく必要がある。

 俺は暖房を切って、一階に人が一人しかいないことを確認してから。美咲のいるリビングに降りることにした。








   ◆◇   ◆◇   ◆◇








 それで、いま青葉家の食卓にはとても美味しそうなご飯が並んでいる。

「なんか……すげーな」

 どれくらいすごいかというと、それ以外に言葉が出てこないくらいすごい。たしか、趣味って言ったよね。さっき。

「ありがとうございます。一日目なので、すこし腕を振るってみました」

 現在、時計が教えてくれる時刻は八時前。美咲は部屋を出てから三十分も経ってない。

「さあさあ、見てるだけじゃなくて、食べてください」

「では、お言葉に甘えて」

 俺は料理を口に運ぶ。

「うまい……」

 一応、俺も一人暮らしだし、自炊する派だから、それなりに料理はできるつもりだったけど、この短時間でこの旨さは、本当にヤバいな。話は、これを食べ終えてからになりそうだ。


 しばらくして。


 すなわち、おいしい料理を残らず食べ終えてから、俺たちは話し始めた。

「この後するのは、とりあえず、学校に電話。これは二人とも。で、午前中は自由行動。午後は作戦会議かな?」

「あれ、紅先輩も学校休むんですか?」

「ああ、俺はここから離れられないからな」

「どうしてですか?」

 とぼけたようにそういう美咲に、俺は口を開く。

「美咲の護衛だよ」

「私は大丈夫ですよ?」

「いや、大丈夫じゃないと思うぞ。よくよく考えてみれば、研究所むこうは美咲の居場所を知ってるんだから」

「まあ、そうですけど……」

「とにかく、俺はここを動けないよ。正確には美咲から離れられないってことだけど」

「なんだか、申し訳ないですね」

 と、美咲はくらい顔をするけれど、これは仕方のないことだった。それに、美咲ばかりが悪いわけではない。

「別に謝ることじゃないよ。話は変わって、これは当日の作戦のことなんだけど……」

「はい」

「美咲は闇属性だよね?」

「そうです」

「じゃあ、夜に行こう」

 属性はその場所の状態に左右される。それは、その属性に関連する幻子が活発化するからだ。このくらいのことは基礎知識で、誰もが知っていることだ。ちなみに俺の幻術は、あまり幻子の種類には左右されない。どちらかというと、幻子そのものの絶対量に比例する。幻子が多ければ多いほど、幻子の特性である「ものを偽る力」は強くなるからだ。

「わかりました」

「ほかに、何かあるかな?」

「あの、これは、作戦とは関係ないことなんですけど……」

「なんだい?」

「幻術のメカニズムってどういうものなのですか?」

「ああ、なるほど」

 たしかに、もっともな質問だ。けど、少し困った。なぜなら、

「えっとね、実は、俺自身よくわかってないんだよ」

 自分で言うのも恥ずかしいが実はそうなのである。これを聞いて、美咲は残念そうにうつむいた。

「そもそも、魔法のメカニズム自体も魔法の発動過程プロセスが知られているわけで、どうして魔法が発動されるのかっていう根本的な部分は、正確にはわかってないから」

「確かにそうですよね……」

「ただ、それとは異なるとはいえ、幻術はおそらくそれに類するものではあるよ。だから、俺の仮説でよかったら、聞かせてあげられるよ

「ぜひ、聞かせてください!」

 そう言った美咲の目はキラキラと光っているように見えた。俺はちょっと考えながら、自分の考える幻術の発動過程を話し出す。

「といってもそんなに難しいことじゃないけどね。簡単に言うと、裏世界リュナルの幻子をいじくって、現世ソルラに影響を与えるってことになるってだけだから。ただし、今の俺の力だと、幻子がもともと持ってる、『すべてを偽ろうとする力』しか使えない。これは昨日も言ったけどね」

「えっと、それは魔法とどう違うのですか?」

「そうだね。魔法っていうのは、自分でためていた幻子のパーツを組み合わせて裏世界リュナルに送って、そこにある幻子を強制的にどかして、新しくはめ込んだ幻子の持つ事象を現世ソルラに引き起こすんだ。けど、幻術は、効果を発動させたいと思う場所の裏世界リュナルに存在する幻子に手を加えて、術を発動させる。きっと、ここが一番大きな違いだと思う」

「事象は幻子の動きが引き起こしているっていう理論と、現世ソルラ裏世界リュナルは表裏一体だっていう考えは一致してるけど、手の加え方が違うのですね」

「そーゆこと。だから、幻術は幻子が多いところの方が使いやすいんだ。その方が、幻子を楽に動かせるからね」

「なるほどー。ありがとうございました!!」

「んじゃ、次に移るか。電話かけないとな」

「そうですね」

 ここでとりあえず、朝の会は終わり。二人はそれぞれの仕事を始めることにした。







   ◆◇   ◆◇   ◆◇






 そして、時間はすぐに過ぎ去っていく。気づけば日は暮れて、いっそうの寒さが襲ってきた。

 美咲は自分の部屋で、俺は寝床をリビングにかえてそれぞれ温かくして眠りについた。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ