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偽る者  作者: 雪 渓
11/19

一日目終わり

 電話がなり終わってからの動きはほぼ計画通りだった。

 美咲の母が神妙な顔をして美咲の部屋を訪れ、これから一週間仕事の都合で家を開けなくてはいけないということになった。と告げた。そして、心配だから家政婦ハウスキーパーを呼ぶことにしたとも。

 美咲はそれに自分で何でもできるくらいの怪我しかしていないからと言って断り、美咲の母はそれを了承。その後、学校と警察には娘が無事見つかったことを伝えた。という話をして部屋を出た。

「とりあえず、これで美咲のお母さんは家を出ることになっちゃったね」

「このまま明日になれば、晴れてこの家は私と先輩の家になりますね。期間限定ですけど」

「なんか、危ない言い方だね」

「まあ、事実は事実です。明日から仮病で三日間学校休みますけど、先輩はその間どうしますか?」

「必要なものは全部あるからね。とにかく、情報集めと、工作かな?」

 全部あるといっても、美咲の家の外にだ。これもまた、見えない状態にして庭に置いてある。寝静まったら取りに行くつもりだ。

「でも、今日は疲れました。とりあえず、もう寝てもいいですか?」

「いいけど、俺はどうすればいいんだい?」

 さすがに、倫理的観点から同じ部屋で寝ることはできないだろう。さすがに、刺激が強ぎる。

「ここで寝ればいいじゃないですか。私は別にいいですよ」

「…………」

「疑ってますね。別に、先輩が寝た時をねらって殺そうなんて考えていませんよ。それに、先輩が私を襲うんだったら、いくらでも機会がありました」

「それまでは俺が襲う気がなくても、突然襲うかもしれないっていう可能性は考えないんだね」

「そうですね」

 そういって、少し考えたような表情をして、だけどすぐに答えた。

「でも、その時はその時です。私は恩人のことを恨むことはしませんし、私の恩人がそんなことをするとは思いません。もし、先輩が変な趣味を持っていても、とりあえずそれを受け入れます」

「はあ……」

 俺は力なく笑うと、思いついたように真っ直ぐに彼女の瞳を見つめた。いや、思いついたようにではなく、本当に「今」思いついたんだけど。

 俺は、幻子の世界へと目を向ける。そこには、美咲を取り囲む。構成する無数の幻子。その中で、彼女の心と起因しそうな部分へと意識を向ける。

「どうしたんですか先輩??」

 美咲が自分の顔をまじまじと見ている俺の事をおかしく思ったみたいだけど、おそらく俺の覗いた彼女の心の状態に対する驚きの方が大きいだろう。どうやったらこうなるのか、まあ、まさかとは思っていたけど。

「やっぱりなぁ……」

「突然、どうしたのですか??」

「いや、美咲の頭のなかがあまりにも『お花畑』過ぎて……」

 よく言えばボジティブ。悪く言えば楽観的。

「えっ? なんですかそれ、幻術って人の頭の中も見えるんですか?」

 美咲が驚いたのは当然のことだろう。そもそも、魔法では人の心のなかなんて見えないし、もしあるとしても、読む魔法は禁忌として用いることが禁じられている。魔素を軸に構築していく魔法では、精神に異常をきたす可能性が高いからだ。けど、俺は仮想世界リュナルでその人と結びついている幻子を細かく見ていくことで、その人の心理状態を少しだけ把握できる。脳波を調べるのと似ているかもしれない。もちろん、詳しくはわからないし、判断を見誤ることもある。けど、美咲はその点とてもわかりやすい幻子の状態をしていた。

「なんかね、すごい感覚的に見て判断してるだけだけどね。美咲の心を一言で言い表すと『お花畑』がちょうどいいかなぁと」

 幻子はほぼ何の関連性も無く動き回っていた。それぞれが生きたい方向へと自由に動き、散らばっていく。なるようになると、大した法則も持つことなく。

 けれど、それですべての幻子がどこかへも行ってしまわないのは「お花畑思想」の中にどこか核となるものが有るのだろう。それが、時々美咲が見せる意志に繋がっているのかもしれない。

「まあとにかく、今日だけはここで寝せさせてもらうよ。明日からはリビングで寝る」

「わかりました。それより先輩、荷物は取りに行かなくてもいいのですか?」

「ああ、みんなが寝てから取りに行くから問題ないよ」

「でも、さっき荷物を置いたとこ、ここの下ですから。窓から降りたらすぐですよ」

「…………」

「冗談ですよ。私がとります」

 美咲は一枚の「カード」笑って窓の扉を開けた。

移動ムーブ

 そして、無属性の単純な魔法を使って荷物をこの部屋に入れた。当然、法律には抵触しない範囲での使用だから、問題はない。ただ、美咲の母に魔法を使ったことがばれないかが気になる。

「さて、今日の仕事はこれで終わりです。あ、私が私的に魔法を使うのは、まあよくあることなので母のことは気にしなくて大丈夫です」

「ならいいけど」

「それじゃあ、私は寝ますね。おやすみなさい」

 服はすでに着替えていた。しばらくして、美咲の寝息が聞こえた。

「まったく、いくらなんでも、無防備すぎないか?」

 とはいえ、今に始まったことじゃない。俺は荷物の中から寝袋をだして寒さに備え、暖房を切った。明日の朝は早い。荷物を取りに夜中に起きなくてもいいのだし、しっかり寝ておこう。

 最後に電気を消して、俺も睡魔に身をゆだねた。


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