第6回 海の龍
「ここで、最新のニュースです。国境付近において陸軍と朝鮮人民軍における小競り合いにより、我が国で全土において「珍島犬一号」の発令が続いております。国民の皆さんは引き続き外出を控えて、政府からの次の発表に備えてください。また、新しいニュースとしては北朝鮮難民と思われる複数名の男女が不法入国したと見られており、政府は家の施錠をしっかりとするように、としています。また出来るだけ窓には近づかず屋内の避難を政府は勧めるとのことです。また、この混乱に乗じて複数都市において暴動が多発しております。国民の皆さんは落ち着いた行動をしてください。それにはまず外に出ないでください......」
9月2日 09:00 島根県竹島近海
日本国中で、パンデミックが発生しているとき、この海でも問題が発生していた。
李舜臣級駆逐艦DDH-977「大祚栄」艦長は複雑な面持ちで大海原を見つめていた。
艦長は海に憧れて大韓民国海軍に入隊した。しかし、士官学校で受けた教育は「海の男」にする教育というより「いかに日本が憎いか」という教育であった。もちろん艦乗りの基本的基礎も学んできたが...。
彼は幼い頃から対日教育を受け、「日本=悪」と教わってきたが大学生のときに日本へ旅行してから変わった。そもそも何故、あの時の自分が日本へ行ったのかも解らなかったが「敵国を見たい」という心境で行った気がする。
しかし、そこで日本の文化に触れ疑問が浮かんだ。なおかつ、日本の歴史にも。
本来なら、悪事を成した国でも成さなかった国でも自国の事は伝承に良く書こうとする。しかし、日本にはそれがなかったのだ。まるでこの国の歴史を非難するかのごとく。だからこそ日本を知ろうとした。
だからこそ、今我が国で学ばれている多くの歴史が誤った歴史、書き換えられた歴史、反日キャンペーン的話が分かってきた。このままではいけない、と改革を思ってもそれが一個人ではどうしようも無いことにため息をついてきた。
そして今朝、釜山作戦基地から発信された電文は「日本からの脱出船の阻止」であった。
彼は知らなかった、なぜ司令部がこれほど突拍子の無い命令を出したかを。てっきり日本でのクーデターを疑ったくらいだ。
しかし、あそこまで穏和な日本人が果たして反乱を起こすのか。艦長は考え込んでいた。その時ー
「スクリュー音!本艦の2時方向、距離3000!!急速接近中」
近いっ!と艦長は思う。ソナー員は何をしていたのだ!?。
怒りを押さえ「総員、対潜戦闘用意、配置につけ。「リンクス(哨戒ヘリコプター)」の準備でき次第、探知位置方向に向け発艦」と命ずる。
「CICへ下る」と当直士官に伝え、階段を下る。
CICに着くと副長兼砲雷長が「総員配置完了」を報告してくる。
「副長、目標はなんだと思う?」
「静粛性に優れているようで、なかなか掴めません。哨戒ヘリの報告を聞かない限りは」
「して、哨戒ヘリは?」
「まもなく発艦します」
艦後方のヘリコプター格納庫の上部に設置されているカメラからCICの画面に送られる映像には、リンクス哨戒ヘリが今にも発艦しようとしていることを写していた。早く、発艦してデータを送ってきてもらいたい...そう考えた矢先に
「ソナーに感、目標何かを開けま...魚雷発射管開きますっ!!」とソナー員は恐怖におののいた顔しながら叫んだ。
「なにっ!?」と艦長。そして、
「推進音!!急速接近中、数は4、魚雷です!!」
「マスカー(艦周辺に泡を発生させ、艦体の音を包み込む装置)作動!、デゴイ(囮魚雷)発射!!」
すぐにマスカーが作動され、デゴイが発射される。しかし「駄目です!目標進路変わらず!距離1000を切ります!!!」とソナー員。
「目標は有線誘導です!」
「くそっ!取り舵一杯!機関一杯!!」と艦長は有線誘導なら射程に厳格な数値があることから、その射程圏外に逃げることを考えた。なおかつ、「アスロック(対潜ミサイル)発射用意!目標、魚雷発射艦の推進音」と報復を命ずる。
「魚雷までの距離500」とソナー員が報告しつつ、「駄目です!敵潜機関停止、ピンガーを打ちます」
「許可する!」と艦長。もう一刻の猶予もない。
「敵潜再探知、位置をアスロックにインプット!敵魚雷距離100」ソナー員は涙声だ。
「アスロックセット完了!!、発射準備用意よし!」
艦長は「ただでは殺られん」と心に誓い発射を命じようとした。「アスロック!、はな」
「弾着時刻です」と水雷長が言うのとほぼ同時に命中音が響いた。数は4。全弾命中。しかし、誰も喜びを叫ばない。なぜなら、彼らはエリートであり、しっかりと心のバランスのとれた乗組員ばかりだからだ。
「直前でピンガーを敵は打ちました。やる気はあったんですね」と副長。
「まぁ、初戦にしては上出来だ。この調子で奴らの妨害から「万歳作戦」を成功に導くぞ」。
北朝鮮は3代目将軍が就任した直後、「国土防衛の虎の子」としてロシアから超静粛性を誇ることで有名な「キロ級潜水艦」を1隻購入した。艦名を「海龍」と名付けた。高い金を払ったが、それでも海軍の虎の子としてエリートからなる乗組員を育てあげた。そして、今回初出撃においてこの戦果。
魚雷を4発被弾した大祚栄は、ほぼ轟沈した。
今回のこの騒動、厄介なのは怪物だけではなく人間同士の争いにもあった。
「発 第一護衛隊群司令部
宛 第一護衛隊司令
第一護衛隊司令令下にある「いずも」「はたかぜ」「てるづき」「たかなみ」は三陸沖における当初の訓練予定を中止し、仙台湾沖合に移動の後別名あるまで待機せよ」