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亡霊の戯れ  作者: 桜坂 高
戯れる・・・
6/38

第4回 パンデミック

同日 同時刻 愛知県名古屋市

 

 「キャァァァッ!!!」

 「た、助けてくれぇ!」

 「死にたくない、どけっ!!」

 

 ここは、阿鼻叫喚と化していた。人々は、我先にと走り出した。

 最初の頃は怖いもの見たさなのか、野次馬が集まり、携帯電話で写真を撮りつつなんの責任感からかSNS等に画像を投稿する者もいた。

 しかし、そういったもの達は真っ先に逃げ遅れ、感染していった。

 だからといって、早くに逃げ出した者が無事であったかというとそうでもない。逃げ道を塞がれそのまま感染した者やこの混乱から道路に飛び出し車両にひかれた者、そのままひき逃げをしてその先の信号機で正面衝突し死んだ者など様々いた。

 なかには、近くの建物に立て籠る者もいたが、少なくとも時間を先伸ばしにしただけで、危険地帯のど真ん中にいるのだから、無事とは言えないだろう。

 ほんの数十分前までは日常であったのに、たった数分で非日常・・・、いや、まるで何かの映画の世界に放り込まれたかのようであった。本当に映画の世界ならば良いのだが。これは現実だ。

 感染者・・・焦点の合わない目に、身体のどこかに大きな傷を抱え、涎を垂らしながら歩くその姿はまさに「ゾンビ」という表現が正しいだろう。

 そのゾンビ集団は真っ直ぐ、名古屋市役所へと続く大通りを闊歩していた。まるで、なにかにか導かれるように。

 名城公園に差し掛かったとき、前方には愛知県警察の警官隊と道を塞ぐパトカーが現れた。

 当初、「大規模な騒乱が発生し、多数の死傷者が出ている」という第一報を受けて急遽、現場に急行し、封鎖線を築いた警官隊であったが、それは名古屋市役所へと向かう片側だけで、もう片方は放置車両が邪魔でパトカーで近づくことさえ叶わず、仕方なく放置車両を盾に警官隊が配置された。

 しかし、状況は確かに「騒乱」していたが、まさか人が噛み殺され、噛まれた人間が一度倒れた後、噛んだ人間と同じ行動をし始めるとら誰が予測したであろうか。このため救援にあたった警官や消防、民間人が犠牲となった。愛知県警察は複数での対処を決定。機動隊に出動を下令しつつ「対処」を命じた。

 しかし、拳銃の使用許可はおりていなかった。単純に責任転換で上層部が混乱していたからだ。機動隊もデモ対策用の装備を除けば、ほぼ丸腰であった。現状、便りになるのは常に拳銃携帯が認められている所轄制服警官と自動車警ら隊、機動捜査隊ぐらいだ。現場では、正当防衛の範疇内での使用を固めていた。でないと、自分達が殺される。それでも認めないやつは、そいつが対処するばいい!!。

 避難して(というか単純に逃げて)くる市民を後方へ誘導しつつ、警官隊は拳銃を構えた。「射撃用意っ!!」とこの場を臨時に取り仕切る巡査部長が叫ぶ。まだ、目の前には避難民がいる。しかし、彼らの多くは大きな傷を負っていたり、目が虚ろになっている。間違いなく感染している。事態発生の一報を受けてからまだ40分。それでも彼らは「ある程度」の見分け方は身に付けていた。

 「撃てーっ!!」。「パン」と乾いた音が連続する。腕前の良し悪しはもとかくとして、大方命中したように見えた。が・・・。

 「なぜ死なない!?」と巡査が呆然とする。感染者は足や腕、胴体を撃たれても倒れなかった。

 これが、お話なら「そのまま、警官隊はなすすべもなく食われていった」などと終わるが、実際は違った。日本語訳にするならば「生物災害」と言える映画など、数多くのゾンビ映画が公開されているのだ。だから、警官隊の中にも「もしかしたら・・・」と考える者もいたわけで。「パン」と発砲する。今度は頭を狙って。

 すると、見事に感染者は行動を停止。それをみた同僚達は同じように頭を狙って撃った。

 今回も射撃技術の良し悪しはともかくとして、発砲した内7割方は命中した。そして、被弾した感染者は行動を停止した。

 しかし、警官隊の善戦は長くは続かなかった。一人5発程度しか拳銃弾を装備していないのだ。しかも、外れたりしていれば・・・。

 「退避っ!」の一言で警官隊は現場から後退した。各員がそれぞれの車両に乗車し、中には乗り合いする形で退却する。

 一度後退し、立て直し再び対処する。この事態にはもっと多くの人員と弾薬が必要とされていた。



同時刻 総理大臣官邸 危機管理センター



 報告を受けて閣僚達は地下の危機管理センターに場所を変えた。「多賀城」の場所がわからず聞き返すところもあったが、「仙台市近郊にあり工業が主力の街で、国際貿易港湾である仙台港が近く、6年前の震災で津波被害を受けた場所」と説明を受けていた。

 内閣危機管理監の報告をまとめれば「多賀城、新潟、東京、さいたま、名古屋、高知、福岡」でパンデミック(感染爆発)が発生したことが確認された。

 「まったくもって、完全な人的攻撃であると考えます。大規模都市部ばかりを狙うのではなく、地方都市も狙うことにより、避難先の限定化や国内不安の助長、また地方都市となれば対応できる治安維持力も限られてきますので、これは完全な軍事作戦であると考えます」と統合幕僚長は自からの見解を述べる。

 「これは化学テロだというのか」と岸。「一般的なパンデミックですとこうまで急激な感染には至らないでしょうし、感染場所が限定的です」。

 「総理、そこでお願いがあります」と宇多津防衛大臣。「自衛隊に出動命令をください。今後の治安維持、除染等を考えれば早急に対策を・・・」

 「ことが速すぎます!!」と茶々を入れるのは渡辺厚生労働大臣。「せめて事態の把握が済んでからにしてください。災害派遣ならともかく、治安維持ということは少なくとも治安出動が発令されるということですよね。そうなれば戒厳令と同じです。いたずらに国民の不安を煽るだけではなく、周辺諸国にも影響が出ます。総理はそこまでの決断があるのですか!?」

 「そして、出動が遅れていたずらに国民や警察官、消防などに被害がでたら貴女は責任が取れるというのですか」。菅官房長官が言った。

 「辞任だけでは済まされませんよ」とくぎを刺す。その一言が効いたのか渡辺は黙ってしまった。

 「それに外交問題は外務省の領分です。厚労省は国内の感染拡大阻止と原因究明に力を注いでいただきたいですな」と言うのは沢田外務大臣だ。

 「ならば外務省としては、どういった意見ですか」とふる岸総理。

 「もちろん自衛隊の出動には賛成です。官僚どもは何というか知りませんが、大臣としては国内事案を速く処理していただき、対外支援を行える状態に回復していただきたい。それだけです」。

 「これでも反論はありますか」と岸総理。渡辺厚労相と同じ創価党の国交大臣を睨みつつ”決して反論は許さない”という目で見まわす。そう、事態はそこまで切迫、いやパンデミックまで起きているのだ。もしかしたらもう遅いかもしれない。

 それでもこの二人は自衛隊出動をなんとか阻止しようとしてきたが、最後は「じゃぁ、別に独裁的と言われても構わないから君たち二人を罷免してもいい」というと黙り込んでしまった。今後の与党運営を考えれば、創価党に抜けられると痛いがそれよりも”今最善を尽くす”ほうが大切だ。

 「野党、国会対策は後で考えましょう」と吉田副総理。「こうなってしまっては野党もすぐにはとやかく言ってこないでしょう。ただ反対さえしていれば、こっちの揚げ足を取るためだけにいるような政党ばかりですが、こんな時までそんなことは言わないでしょう」と報道がいれば絶対に言えないひとことを言う。

 しかし、野党のせいで折角まとまりかけた法案や審議が台無しとなったり、国政そっちのけでひたすら与党批判を繰り返す野党。税金かけて審議そっちのけで与党批判するのであれば、野党の個人的金でテレビ番組でも放送し批判すればいい。

 「それでは、決定ですな」。



09:20 パンデミックが起きた各都市


 Jアラートを通じて防災無線が鳴り響いていた。ゆっくりとした機械的な声であるが、それがかえって不気味であった。


 「ゲリラ攻撃情報。ゲリラ攻撃情報。当地域にゲリラ攻撃の可能性があります。屋内に避難し、テレビ・ラジオをつけてください。」


 政府は、この「同時多発的感染者襲撃事案(今回発生したゾンビ事件に対しつけられた名称)」を「ゲリラ攻撃と同等である」と考え、この放送を流した。確かに中にいたほうが安全だし、少しは治安が保てる。

 しかし、政府が対策を含め会議を行っている間に事態は進行し、そのような放送を流しても市民は我先にと市外への脱出を目指し混乱していた。

 少なくとも、ゾンビ以外にも問題は山積みであった。

 

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