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亡霊の戯れ  作者: 桜坂 高
戯れる・・・
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第2回 闇の手前の一寸

 2017年9月2日 08:30 宮城県多賀城市陸上自衛隊多賀城駐屯地


 国旗掲揚の前に非常呼集がかかると同時に第3種勤務体制(真にやむを得ない事情を持つ者を除く所属人員全ての陸上自衛官に対し所属原隊へ復帰し、出動に備え待機。遠方に滞在等で直ちに出動出来ない者に関しては、最寄りの駐屯地に出頭しその指示を仰ぐ)に移行した多賀城駐屯地では、多くの自衛官が情報収集と出動準備に追われていた。

 東北方面隊隷下にある第6師団。機動戦闘車・・・いや、正式配備となり名称が「16式装輪装甲戦闘車(別名16式装甲戦闘車 部隊内では単に「16(ヒトロク)」)」となったこの車両は、ここ多賀城に駐屯する第22普通科連隊に4両が配備されている。

 初年度で16両が調達されたこの車両は、普通科教導連隊と武器学校等を主に配置されているが、即応師団化の先駆けである第6師団では配備されたすべてが第22普通科連隊に集中配備された。理由は都市部や沿岸部、山岳部等が他都道府県に比べ非常に近いここ宮城県で、実践的性能試験と研究を行うためである。4両で1個戦闘支援小隊を編制し、それが各即応機動連隊に1個が配備される。即応機動連隊は本部管理中隊と3個普通科即応中隊(重迫小隊等を解体し、各普通科中隊に分散配備、及び各中隊が独立的作戦行動を行えるように改編した)、1個戦闘支援小隊などを配備する。本来なら、16が配備された時点で「第22普通科連隊」から「第22即応機動連隊」と名称を変更するべきなのであるが、しっかりとした改編が行われていないため改名は行われていない。

 「05:00時を以て、第3種勤務体制への移行を命ず」と陸上自衛隊幕僚長直々に発令されたこの命令により、日本全国の陸上自衛隊の部隊が第3種勤務体制に移行していた。

 これまで災害や函館のソ連機強行着陸事案、オウム真理教を始めとした事案、何らかの不測事態が発生する可能性がある場合はたびたび発令されたこの命令。きっと、またどこかできな臭い出来事でも起こったのであろう。それとも今朝速報であった「中朝国境での騒ぎ」に関連したことか。多くの隊員はそう考えていた。

 日本では、「中朝国境地帯で何らかの暴動があり、現地陸軍部隊が対応するも鎮圧に失敗し、中国共産党指導部はこの事態を鎮圧するため付近の軍、および武装警察隊の派遣を決定」と報じていた。

 ネットやツイッターでは



「とうとうきたか、軍の反乱!。」

「民衆が立ち上がったのかな。」

「今この時こそ、積年の歴史問題を解決するため、中国と取引するべき。」

「良かった。いっそこのまま崩壊してくれれば、めんどくさい相手がひとつ消える。」

「こんな時こそ、日中友好のために平和部隊を派遣しよう。」



などと、書かれている一方、中国語で



「助けてください。人が人を食べています。」

「怪物は実在した。まさに「バイオハザード」だ。」

「生きる屍「キョンシー」が現れた。」



と言った書き込みも見られた。もちろん、中国語の書き込みは、ものの1分で削除されたが・・・。

 しかし、周辺国の出来事とは言え、西部や中部方面の部隊ならともかく日本全国の陸自に「第3種勤務体制」発令である。少なくとも上層部ではこのまま終わるとは見ていないらしい。





 同刻


 石川県小松基地から航空自衛隊中部航空方面隊第6航空団第303飛行隊所属のF-15J戦闘機2機がスクランブル(緊急発進)した。そしてすぐに別の2機が同様にスクランブルした。

 沖縄県那覇基地からも南西航空混成団第83航空隊から改編増強された南西航空方面隊第9航空団第204飛行隊所属のF-15J戦闘機2機がスクランブル。そして飛行警戒航空隊第603飛行隊所属のE-2Cホークアイ早期警戒機1機がスクランブル。海上自衛隊第5航空群第5航空隊P-3C3機がスクランブルと続々と発進していった。

 長崎県海上自衛隊佐世保基地でも対空誘導弾搭載型護衛艦(イージスシステム搭載艦)「DDG-174『きりしま』」を始めとした艦艇が次々と出港。佐世保弾薬整備補給所からミサイルや魚雷等を装填し、完全装備となった艦艇は続々と外海へと向かっていく。その合間を縫うように第3ミサイル艇隊所属のミサイル艇「PG-826『おおたか』」「PG-829『しらたか』」が出港する。

 最低限の当直要員しか居合わせなっかた艦艇では、当直要員らが出来るだけ出港がスムーズになるように準備し、情報収集を行っていた。

 この風景は全国の自衛隊駐屯地(基地)で見られ、出動もしくは出動待機していた。ただ政府からの正式命令が下っていない現状、そのほとんどが訓練名目であったり、通常の「警戒監視」や「国籍不明機が領空に接近しているため」といった理由であった(実際、この時点でロシア機と思われる情報収集機が我国の防空識別圏に接近していたが、あえてそれに過剰反応した体で戦闘機や早期警戒機を発進させていた)。


同日 08:45 宮城県多賀城市仙台港中野埠頭


 大きな緑色のクレーンの真下に男の死体はあった。口から血を流し白目を剥いた「死体」はなんともグロテスクであった。数分前にその死体を発見した作業員は、すぐに携帯で仲間を呼び110番通報を依頼した後、死んでいるとは重いつつも、男を詳しく検分した。元海上保安官である作業員は死体は嫌というほど見てきた。ただ、これはある意味奇妙であった。頭を左に向けてうずくまる男の「死体」は大きな刺し傷や銃創がなく、なぜか吐血している。しかし、失血死するほどの量でもない。せいぜい結核患者が吐血するくらいであろう。

 ま、外傷や失血によって死ぬとは限らない。もしかしたら薬を飲んで死んだのかもしれない。しかし、それにしては吐血量が多い気がする。第一薬を飲んで死ぬような輩がこんな場所を死に場所に選ぶであろうか。

 近年テロ対策の一環として、迂闊に民間人が入れないように警備が強化されている。それでも「穴」があることも事実であるが・・・。

 まぁ、とりあえず死体は死体。2分後には警察が到着し、その到着前には港湾作業員や近くの倉庫の関係者らが事情を聞いたらしく集まっていた。

 しかし、残念なことに誰も気づいていなかった。いや、気づくわけもない。元海上保安官の男も「警察が来るまで迂闊に死体に触らない」ようにしていたから。触っていたとしても、その体の暑さに驚き追加で119番通報を行っただけかもしれないが・・・。





 その「死体」は死体に非ず、1秒たつごとに血流速度が速くなっていたこと。直後に「ふらっ」と立ち上がり、一同が驚愕の表情で見守るなか目の前にいた元海上保安官の男に噛みつき、右肩の肉を作業着もろとも喰いちぎると、傍にいた警察官ののど元に噛みついたこと。ほかの作業員が悲鳴をあげて逃げる中、勇敢にも所持していたS&W M360J SAKURAを「止めろ、撃つぞ!」と叫びつつ男の足に向けて発砲し、同僚警官のピンチを救おうとした警官であったがまったく効果がなく、結果それが原因で「死体」の主目標が変わってしまい、逆に自分の人生を短くしてしまったこと。なおかつ、噛まれた3人は一度「仮死状態」に陥ったが、すぐに復活し遠くから様子を見物し、心配で近寄ってきた作業員や増援で臨場した警官を「死体」と同じように襲い始めたこと。そして、あっという間に「死体」と同じ行為を行う者の数が10人を超えてしまうこと。

 これは、まだ始まったばかりであった。

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