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亡霊の戯れ  作者: 桜坂 高
戯れる・・・
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第1回 事の成り行き

 この国において農村で軍服を着た男が、ボロい服を着た若い女をレイプしていても誰も咎めない。なぜなら、それが当たり前であり、レイプされている女もあとから口封じにはした金とは言え、幾ばくかの報酬をもらえる。つまり、ちょっとした売春婦だ。

 しかし、今回は違った。まず男は軍服ではなく、労働者風の服装であったこと。その男は「腰をふる」のではなく頭から女に「くらいついていた」こと。そして女には、喘ぐと言うより絶え絶えの声で「・・・し、しぬっ・・・・たす、け、て」と言っていたこと。


 そして、もっと不思議なことはそういう行動をとっているものが男女関係なく多数いたことである。

 2017年 9月2日 現地時刻00:30 中国のとある田舎町にて



 「たく、嫌になるな。毎日毎日、越境者の監視は」と男が言う。

 ここの田舎町・・・遼寧省丹東市を管轄する瀋陽軍区の陸軍部隊(第39集団軍)に所属する白上等兵がぼやいていた。ここには大きな川が流れ、その川の上には対岸とを結ぶ道路橋と鉄道橋がある。とは言っても、鉄道橋を通る列車自体が極端に少なく運行しているのを見る機会は少ない。車両橋は二年前から悪化した両国の関係から頻繁に封鎖されることが多く、通行する車両も少ない。

 「来るわけないと気を抜けば、闇夜に紛れてやってくる。最近は昔よりもマシになったらしいがどうなのかね」。

 「あそこは、もうわけわからんですからね。ま、最近は"将軍様"のおかげで極端には来なくなったらしいですけどね」と一緒に警戒する列兵(日本風に言うならば「二士」相当)が言う。

 確かに、最近「川を越えてくる」者は少なくなった。しかし、近年良からぬ噂が立ち始めている。

 「なんだよそれ」、白は聞く。「いや、隊の同期が言っていたのですけども『あそこの国は、今度は国民全員に人体実験を始めたらしい』って」。

 「なんだよその『人体実験』って?」と白。

 「さぁ・・・」と列兵。「本当に噂で、世間話的な形で聞いたのですよ」。

 「ふぅーん」と上等兵。

 彼らは暇な巡回時間をそのようにして過ごした。時が来て、屯所に戻って寝るだけのはずだった。



 同日 日本時間05:02 能登半島沖上空


 東の空が明るくなりつつあるが、西側の空はまだ星達が輝いていた。その天空の下を海上自衛隊航空集団第31航空群 - 第81航空隊に所属するEP-3が飛行していた。任務は「人民解放軍瀋陽軍区の陸軍部隊の全ての交信を傍受せよ」であった。

 詳細は知らされなっかたが、どうせまた中朝国境沿いに軍を進出させてきたのだろう、と機長は考えていた。

 このところ「共産党首脳部のご意向に従わない」ことによほど怒りを覚えたのか、人民解放陸軍を主体とした部隊が中朝国境に展開するという事態が頻発していた。これに対し、当初外務省は「大規模な軍事侵攻の可能性」として政府に報告していたが、防衛省や内閣情報調査室(内調)は「装備や部隊、展開位置からして、単なる演習」としていた。

 結果、単なる演習で政府は誤った情報を寄越した外務省に厳重なる注意を行ったらしいが、「あの時はこっちが正しかった」の一点張りであるという。まぁそれは別の話として・・・。

 しかし、さっきから傍受していてもまともな通信がない。この傍受内容はリアルタイムで市ヶ谷(防衛省情報本部)に送られているはずだが、そこの解読員も頭を斜めにしているに違いない。せっかく解読しようとしてもすべてが平文(暗号なし)なのだから。おまけに雑音が多いことなんの。

 しかし、その中でも強烈だったのは、




「・・・た、たすけてくれ!!、あいつらに襲われる!!」

「・・・の奴らは、腹が減りすぎてまともな思考力も無くなったのか!」

「・・・です。はい、次々と・・・れて、もう壊滅状たうわっ、やめ・・・なせ、あ、あぁぁっ!!」



 だった。一体なにが起こったというのか。






 同日 08:30 宮城県多賀城市仙台港中野埠頭


 葉巻を吸いながら立つその姿は、ある意味この場所とあいあまって「海の男」を彷彿させる。水色の半袖開襟シャツに黒いジーパン。サングラスをかけたその男は獲物に近づくと、ためらいなく注射針を男の首筋に刺した。

 刺された男は暴れ、その反動ですぐに針が折れてしまったが、一滴でも体内に侵入していれば問題なかった。

 案の上、刺された男はすぐにサングラスの男が持つ「注射機」の意味を知ったらしく、顔面が蒼白となる。

 「案ずるな、貴様が作った兵器はすべての”忠誠者”にいきわたり行動を開始した。お前が最後だよ。まったく手間をかけさせやっがて」。そういうサングラスの男の表情はどこか楽しそうであった。

 「い、今に見てろ。そんな兵器が拡散すれば人類は終わる。そうすれば祖国が生き残ったところで意味はないぞ」と刺された男。

 「少なくてもこの兵器の情報を米帝に売ろうとしたお前の人生よりは、輝かしい未来が待っているはずだ。それに祖国を妬む者よりも忠誠を誓った怪物達で溢れる世界のほうがましだと思わないか」。

 サングラスの男がそう話しているうちに、刺された男は衰弱し倒れてしまった。本来の予定よりも効き目が速すぎるが、一撃でやれるように10倍の原液を入れておいた。

 「東海を渡り、あえて太平洋沿岸から船で逃げようとしたのは正解だけど、それよりも幸運なのは我々の行動目標に無かったこの地を追加出来たことだ」。

 そう残し去る男の背後では、口から血を流し白目を剥いて倒れている男の姿があった。

 そう、単に「姿があった」。 

 「おら早く乗れ」と朝鮮語の声が響く。

 「ダメだ、一杯だ出発する!」 

 

「乗せてくれ!置いてかないでくれ!!」

「欲しいものはなんでもやる!!のせろっ!!」

「待って!私を置いていかないでっ!!キャアー!!」

 

 そう言って多くの人が船を追うように海に飛び込み、人の上に人がのり我先に船にしがみつこうとしても、体力の無い彼らはすぐに落ちてしまう。それでも何とかしてしがみついても、また一人と落ちていく。悲鳴が聞こえた、殴りあいが始まった。その姿は、まるで地獄の蓋が開いたかのようであった。


 このボロい木造船舶も船室にまでぎゅうぎゅうに人を積めた。もちろん全員から金を船長は貰っている。おまけに俺も怪物から脱出できる、と船長は一石二鳥に考えていた。

 その船倉では栄養があまりにも無くなっていたため、発症が送れて今まさに発症し隣の男の肩にかぶりついたことも知らずに。

 本当の地獄はここからだ。

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