第23回 突入せよ
富士将生は時速30キロの速度で機関車(DE65)の歩みを進めていた。
どんな姿勢で乗っているのか知らないが、この真上に機関銃を構えた自衛官が乗っているのだと思うと正直信じられなかった。
多賀城市にまもなく入る。そうすれば停車予定のイオン真横まで直ぐだ。橋の上に停車することになってはいるが、橋の上にゾンビはいないのか?、停車中に襲われはしないのか?心配であった。
11:40 七ヶ浜「多賀城駐屯地七ヶ浜指揮所・第22普通科連隊本部」
私はひたすら無線機を睨んでいた。無線から発せられる言葉の一言一句漏れないようにメモをする。時々、本部宛の連絡があると受話器を握って応答する。連絡内容を逐一上官に伝えては、再び無線を睨む。
どうやら、脱出列車(と、自衛隊側は呼んでいる)は無事向かっているらしい。らしい、というのは全て無線から流れてくる話だからだ。5分前に、脱出列車がまもなく多賀城市内に入ることを、そして頼りの救助ヘリ(CH-47JA)が福島県を通過したことをイオンに居る救援小隊に伝えた。
正直、ここからはほとんど私がやることはない。封鎖線は間違いなく成形出来ているし、連隊内で状況(作戦行動)を行っているのは、救援小隊と封鎖線維持部隊だけだ。連隊直轄でわざわざ指揮するようなことは、ある程度片付いた。直に救援小隊は直接救助ヘリと交信するだろうし、封鎖線部隊が救援を求めて来ない限り私は暇になる。ひたすらメモして伝えて終わりだ。私が無線を握って上からの命令を伝えるのはほとんどないだろう。奪還でも命じられない限り。
七ヶ浜の防衛は成功した。橋を落とした以上、感染者は渡ってこないし、七ヶ浜の感染者の存在皆無が確定している。我々は銃後の敵に怯えながら指揮することはない。
しかし、不思議だった。多賀城市は今やゴーストタウンと化し、生存者はほとんどいないだろう。なのに我々は安全な地を手に入れて、虎視眈々と奪還並び封鎖線維持、生存者救出にむけて作戦を立てている。それに感染力の早さから、これ以上の都市間感染は無いと上は見ている。真に恐れるは耐性者の出現だ。噛まれた時は無事で、3時間くらいたってから発症することが最も恐ろしい。それだけ健康的に移動できる時間が多くなるからだ。
ふと、1人の顔が浮かんだ。高校時代同級生だった奴だ。とてもおっとりした性格で、ちょっと驚かすと期待以上に驚くから面白い奴だった。ついでに男運の無さも期待以上だった。なんで、あそこまで変な男しか付かないのだろうか。
私が専門学校に進学し、彼女が4年大学へと行った。LINEやメルアドは知っている。しかし、なぜか疎遠になった。お互い忙しくで連絡を取っていなかったからだ。ただ風の噂で警察官になったと聞いていた。
もし、彼女が警官でこの地にいたらどうだろう。少なくても生き抜きは出来ないかな?と、考える。
「麗佳!、私を守ってね!!」
「なんでよ?、私お母さんじゃないよ」
「だって、お母さんみたいにいろいろアドバイスしてくれるの麗佳だけだもん」
「たまには自分の力で生きてけよ」
「それな」
そんな会話をしていた高校時代。元気だといいな、と考える。
「HQ(連隊本部)。こちら脱出列車。目標現認、まもなく到着する、送れ」
来た。思い出を一旦忘れ、任務に復帰しよう。
11:46 脱出列車(コールサイン「サスケ」)
「サスケ、HQ、了解。突入せよ。周辺には十分警戒せよ。なお1205(ヒトフタマルゴー)時に目標Eに救助ヘリが到着し、生存者を救出する。送れ」
「HQ、サスケ了解。終わり」
左耳につけているイヤホンから無線が聞こえた。目には既にイオンの大看板が見えている。どうやら線路の上には感染者はいないようだ。
5.56ミリ機関銃ミニミの銃口は常に前を向いている。俺は横這いになって構えている。機関車の上に登っているとき、運転手に「マジでのぼんの?」という目を向けられたが、そんなのお構い無しだ。そもそも悪路を運転手判断でハンドルを捌かれる軽装甲機動車に乗って銃を構えるよりは、線路という決まった道をひたすら突き進む列車の方が遥かにましだった。
そのとき、線路(と言っても橋の上だが)の先に一体の「人」がいた。機関車が警笛を鳴らす...というかモロに聞いてしまう位置だからうるせぇっ!!。鼓膜が破けた、わけじゃないが耳が聞こえなくなる。
それは、警笛に反応するかの用に両手を前に突きだした。言うまでもなく感染者以外にないだろう。
しかし、撃てない。撃てば間違いなく殺れる自信がある。しかし、線路に倒れられたは邪魔だ。いっそ、このまま....。
「運転士さん!」と大声で叫んだ。
「な、なんですか!?」と大声で運転士が返してきた。
「速度あげて突入してくださいっ!!」
「しかし!!」
「弾き飛ばしてください!」
「えええ!!?」
「お願いですから!!」
「.....罪にはなりませんよね!!」
「なるとしても、私は引く瞬間を見てません!!」
「相手が突っ込んできたことにしてください!」
「了解しました!!」
速力が上がり始めた。感染者は物怖じせず突っ込んできた。十メートル、五メートル、目の前。
さすがにぶつかる瞬間は目を閉じた。「ブチャ」という音を放って、感染者は飛んでいく。血飛沫が飛び、鉄帽に打ち付けられた。
「....気持ちの良いものではないな」
俺は、なんだか非道な男の気がした。
第1ヘリコプター団に所属するCH-47JAチヌークは多賀城に向かって飛行していた。任務はイオンに居る生存者達を救出するために。
突如そのとき、左エンジンが異常燃焼を起こした。異音が響き渡る。
「こんなときにっ!」とパイロットは叫んだ。
しかし、運命は決まった、このまま行くことは出来ない。
エマージェンシーを宣言したチヌークは仙台空港に緊急着陸する他無かった。




