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亡霊の戯れ  作者: 桜坂 高
戯れる・・・
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第12回 空白へのカウントダウン

 「「目標発見に努めよ。撃沈やむ無し」か...どうも韓国の(ふね)は魚雷による轟沈が続くね」

 「艦長、どういたしましょう?。本艦はアスロックを装備していません。短魚雷も」

 「搭載する暇無かったもんね~」

 「まったくです」

 「でも、こっちには他の艦じゃ真似できない芸当できるだろ」

 「それもまだ来てませんがね」

 「まぁ、総監命令で格納するように言われてんだ。とっとと来てもらって、燃料補給したら飛ばして近くの艦に撃沈してもらえばいいっしょ」

 「それもそんですね」

 「とりあえず、舞鶴からのお客待ちだな」

 09:40 塩竈市 国道45号線港町付近の信号


 支倉恒見は絶望していた。巡回中に見たあの光景は二度と忘れられないだろう。人が人を食べる。あんなの映画やテレビの中だけだと思っていたのに。なんでよりによって...。

 しかし、俺はついていたのかもしれない。もし交番にいれば、きっと仲間入りしていたはずだ。

 パトカー(PC)で巡回中に緊急通報が入った、「男が中野埠頭で血を流し倒れている」と。偶然にも交番管轄範囲の端の方を巡回していたので、即現着は出来なかった。

 しかし、急行中に「倒れていた男が見物人と警官を襲った」とか「集団で襲いまくっている」などと情報が錯綜し始めた頃に、現場付近に近づいてようやく気付いた。

 人の血や肉片をこの目で見たことは一度もなかった。いや、昔警察学校で解剖資料を読んだが、目の前で見るのは初めてだった。

 吐き気も通り越して、ただ呆然と見つめていた。人が人を襲っていることに。腕に噛みついたり首筋に噛みついたり。阿鼻叫喚の風景をただただ見ていた。

 しかし、肝心なのはこの時止まっていたとはいえサイレンを鳴らしっぱなしであったと言うことだ。

 案の定、音につられて感染者が近寄ってくる。

 フロントガラスを感染者が叩きつけるようになって、ようやく恐怖を覚えた。

 ギアをバックにいれ、アクセルを勢いよく踏む。エンジンが鳴いた、しかし構っていられない。

 旧型デミオタイプのミニパトの最大の評価点はハンドル性能が良いことだと思った。片側2車線道路をバックで走り、一気にハンドルをきりブレーキを踏む。体勢が建て直さないうちにギアをドライブに突っ込む。そしてアクセルを踏み込む。とにかく走る。走る、走る、走る。

 と、目の前に子連れの親子が飛び出してきた。慌ててブレーキを踏む。運転席側の窓ガラスを開けて叫んだ、「乗れっ!」。


 そこから安全圏へ脱出するまで5分もかからなかったが、体感では1時間以上の気がした。

 すぐに無線で宮城県警本部に報告、現場一体の封鎖を要請した。


 腕時計を見るとあれから1時間30分あまり以上の時間が流れたことを示していた。あの光景は二度と忘れられないだろう。

 仙台市の一部と多賀城市全体を囲むように設置されている封鎖線は主に管轄警察署が各主要道路に検問を設置し、感染者の襲来や流出に備えている。

 しかし、主要道路はともかく、裏道までは所轄の人員だけでは絶対に無理だ。そのため仙台警察部を中心とした比較的人員の多い警察署や機動隊、交通機動隊、機動捜査隊、機動警ら隊から増援がきている。

 ここで特筆すべきは彼らの武装だろう。交通機動隊員を除く各警官は小口径の拳銃を1挺のみ武装しているにすぎない。最大で機動隊の銃器対策部隊や県警本部刑事部捜査1課特殊捜査班のSIT(エスアイティー)が所持する機関拳銃MP5-F程度だ。交通機動隊に関しては普段から拳銃携帯していないため、今回一度仙台市泉区にある交通機動隊本部に立ち寄った者以外は警棒以外武装らしい武装をしていない。

 そのため交通機動隊単体での検問ではなく、少なくても機動隊編成における1個分隊(5名程度)の銃火器武装警官が配置できるように検問が置かれていた。もっとも交通機動隊のほとんどの隊員は白バイやPCでの車両による封鎖線外の遊撃警戒に当たっていたが。

 感染者を見分ける方法はただひとつ。噛まれてないか傷がないか、だ。残念ながらこれしか方法がない。避難者が来れば検問で止めて確認する。最初の頃は検問で長蛇の列ができ、「早く通らせろ!」と危うく暴動が始まりかねなくなった。だいたいの避難者はおとなしく検査を受けてはいたが。しかし、途中からほとんど検査を行わず、ただ感染し発症した「感染者」の侵入を拒むための検問となっていた。

 この事案が発生してから、各所の報告により真っ先にわかったこと。それは「発症が異様に速い」ということだろう。だから噛まれていれば、あっという間に死にいたり発症する。だからここまで逃げてこられた者は自然と「噛まれちゃいない」ということになるのだ。

 しかし...と俺は考える。あいつは無事かな....。同僚で部下のあいつ...年が2個下の柏木は今日非番だった。昨日、出掛けると聞いたとき「なんだ~デートか~」と茶化すと「違いますっ!」と怒っていた。去年の春から配属されている彼女を妹のように可愛がっていた。

 彼女といえば、俺の「彼女」の無事を早く確認したい。まぁ昨日LINEしたときは今日出掛けないといっていたし、住んでいるところも秋田県大曲市だ。逆に俺のことを心配しているだろう。

 とりあえず、俺は任務に集中するか。

 と、その時、ヘリコプター特有の音が聞こえた。上をみると、小さくて青色の機体が飛んでいくのが見えた。県警航空隊のヘリであることは明らかだ。そして海側を飛ぶ海上保安庁と思しき白いヘリコプター。

 そう、今や陸空もとより、海上には海上自衛隊と海上保安庁の各艦(船)艇が展開し、多賀城市と仙台市の一部を完全封鎖していた。



同日同刻  七ヶ浜


 平田麗佳は画面を睨んでいた。第22普通科連隊本部管理中隊所属の彼女はついさっきまで多賀城駐屯地にいた。しかし、多賀城全域が危険と判断された今、部隊運営に必要な機能のほとんどをここ七ヶ浜に移されていた。

 今、第22普通科連隊を代表とした多賀城駐屯地駐屯の各部隊の多くは七ヶ浜に指揮所を設けた。運河を挟み、橋で多賀城と繋がれるこの地域はまだ感染者の発生が確認されないないが、逆に「いない」という確認もなされていなかった。しかし、橋で結ばれている以上、警備体制は容易かった。

 駐屯地を放棄することが決定したことを無線が告げていた。連隊本部はここだが、駐屯地業務隊や警務隊は、まだ駐屯地で籠城していた。が、それも止めるらしい。22普連連隊長は駐屯地司令を兼任しているため、彼もそこにいるのだろう。

 


 多賀城駐屯地


 三宅辰徳は、正門の衛士を担当していた。本来は普通科中隊が行うべきだが、治安出動命令発令の時点で交代していた。衛士、と言っても実際には警務隊専用の73式小型トラック(ジープ)に乗って、同僚の陸士長と2人で門を監視している。

 三宅の目の前には1体の感染者がいる。頑丈な門のおかげで侵入を拒んでいるが、門の隙間から腕を前につきだし、唸り声をあげて体を門にぶつけてくる姿は不気味だ。

 三宅達2人の任務は「門の監視」であった。武装はしているが、発砲は不可。今後に備えて極力弾薬を温存するためだ。

 すでに駐屯地からの撤退準備は進んでおり、ヘリによる移動か車両移動が決定していた。

 しかし、装甲車両の殆どは既に重要施設防護や駐屯地司令命令(を出さなくても、部隊自ら勝手に救出しに行こうとする勢いであったが...)で地域限定の市民の救出任務で出動した部隊に割いていて。

 ちなみに、この市民救出任務は「少数の装甲車両と非装甲車両で部隊を編成し、生存者が一人でもいる可能性がある地点を選定し、汚染地域に突入する」という難題任務であった。しかも、よりによって分が悪いことに、軽装甲機動車装備の22普連4中隊は訓練で一部が出動している。

 そのため「軽装甲機動車2両、高機動車1両、73式大型(1両、特型か中型)トラック3両」編成のを4隊出したに過ぎなかった。それでも、思っていたよりの成果は挙げた。

 その一方、駐屯地から脱出するための装甲車両がほとんどない。そもそもこの駐屯地には軽装甲機動車と指揮用の82式指揮通信車、16式装輪装甲車ぐらいしか装甲車両がない。

 そのため16式1両を先頭にし、非装甲車両によるコンボイを組んで脱出する腹であった。

 そろそろ脱出準備は整ったのか?、と考えつつ三宅はひたすら門を監視していた。感染者が3体に増えていた。

 「...分かりました。失礼します」

 「どうでしたか?、司令官」

 「決まりだよ、1時間後にヘノコの保管庫にあったやつが届く。それを同じくらいに到着するJAF(JASDF→航空自衛隊)の輸送機に乗せる」

 「彼らは出来ますかね...自らの国土と国民を失う兵器を落とすことが」

 「まぁヒロシマ、ナガサキとは違うんだ。単なる大きい爆弾と捉えて良い代物だ」

 「きっと今の政権は崩壊ですね」

 「参謀長、軍人が政治に口を出してはならない」

 「問題発言でした、撤回します」 

 「よろしい、君はこの基地の警備を確認し、部隊の到着に備えて準備の監督をしてくれ」

 「Yes sir」


 司令官は参謀長が立ち去ると、司令室から外を眺めた。そして、一言呟いた。

 「我らの父なる神よ、貴方はこのあと我々に何を望むというのですか」


 在日米軍司令部から在日米軍各部隊に指令がなされた。そして「Defence Condition(戦闘体制)」は上から2番目の「デフコン2」に上昇した。



一語用語解説


機動警ら隊→管轄にとらわれず、所属するその府県警全体の地域を警備する遊撃警戒部隊。「自動車警ら隊」と任務内容は同じ。類似組織として「機動捜査隊」があるが、決定的な違いは巡回車両(パトカー)が「白黒パトカー」か「覆面パトカー」かであることだろう。

 ちなみに、機動捜査隊の覆面パトカーは、多くは「手で屋根に乗せる(刑事が窓ガラスを開けて赤色回転灯を屋根に乗せるような)」タイプである。真ん中から自動で出てくるのは「交通機動隊」の覆面に多い(もちろん、一概には言えない)。

 「自動車警ら隊」を組織しない地域(宮城県、群馬県、岡山県、大阪府)において編成されている。

 反対に、「機動警ら隊」を組織しない都道府県は、すべて「自動車警ら隊」を編成している。

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