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亡霊の戯れ  作者: 桜坂 高
戯れる・・・
11/38

第9回 善きサマリア人~旅人~上

とある2ちゃんねる掲示板



「やばいよ、うちの近所の街でゾンビでたらしい」


「えー、それやばくないwww」


「てかゾンビてマジもん( ; ゜Д゜)」


「バーカ ゾンビなんて非科学的生物いるわけ無いだろ」


「政府の陰謀だ。原発の次はバイオハザード」


「黙れ放射脳」


「てか政府はゾンビとは言ってないんだろ( ゜。゜)」


「Twitterじゃ人食ってるっていってんだし人食ってらゾンビだろ」


「↑カニバリズム」


「ゾンビ乙」


「カニバリズム天国」

 同日 09:43

 

 「ドンッ!」と頭上で鈍いが物凄く大きな音がした。上から生温かい液体がポツポツと降ってくる。そのまま目を閉じて恐怖に耐えていた。まるでいつまでも続くような時間の遅さを恨みながら。

 たまりかねて、恐る恐る目を少しずつ明けながらゆっくり頭を右側に回して上を見る。そして思わず小さな悲鳴をあげる。こんな近くで見たのは初めだろう。きっと二度と忘れない。

 白く濁り焦点が全くあっていない目に、半開きの口許。その回りには赤い血の塊がついている。髪は乱れ肌は黒く変色している。

 しかし、なぜか襲っては来なかった。よく見るとトイレットペーパーの取り付け器具のせいで頭が引っ掛かっている。ちなみに私の今の態勢は洋式便座よりも低くうずくまっている。自慢じゃないがEカップの胸が両足にぶつかってつぶれる程低い姿勢だ。その真上に「顔」があるのだ。

 だから、その顔が後ろにとは言え、動いたときは悲鳴どころか恐怖で声もでなかったし「大丈夫かい?」と男の声が聞こえたときはもっと驚いた。


 「ごめんね、驚かせてしまって。でも間一髪だったよ。まさか人生でこうもどうどうと女子トイレに入るとは思わなかったけど」。

 彼...といっても遥かに私より年上だし、中年の男性であることには間違いなかった。高いが大きな鼻をして、黒く細い眼鏡をかけ、髪も少し茶髪で肩よりも上だが髪も長めだ。

 「とりあえず立てる?無理だよね、こりゃ怖かったもんな~」

 とフレンドリーながらも私の精神状態を見透かした一言に、普段だったら「んじゃ聞くなよ」と思いそうだけど、何も言えない。

 「とりあえず、ここは危険だから少し移動しよう。失礼だけど体重は君から見て僕より軽いと思う?」

 言われたことに一瞬戸惑うが、そりゃあんたよりは軽いはずだと思って首を縦にふる。

 彼は「だよな」と笑うと、なにやら棒のような物(というか見覚えがある)を短くして、ポケットに突っ込むと「よし、じゃあ乗りな」と突然しゃがんだ上で私に言った。私は意味がわからなかった。

 「おんぶ、するから。ほんの少しだけど、さっさと行きたいし、乗りなさい」と少し命令口調で言われれば、少し拒否もしたかったが根が警官なのだろう。瞬時に「どちらが良いか」と考え、お言葉に甘える。

 「そんじゃ、行くよ~」と、彼は立って小走りに歩き始めた。



 (少し時を戻して)同日 08:35 

 

 悲鳴に気づいてエスカレーターから下を覗くと、一回で人が人を食べ始めていた。咄嗟に「うわっ!すげぇ!!」と好奇心が現れたのもつかの間、すぐに防衛本能に目覚めた。エスカレーターを逆送し、2階へ戻った。そしてリュックサックから伸縮式警棒を取り出す。旅を始めて5年。ドンキで買ったこの警棒は必ず持ち歩いている。

 それを「ピシッ」と伸ばすと、とりあえず安全地帯を探した。下で異変が起これば、きっとみんな上に上にと逃げるだろうし、階段やエスカレーターにエレベーターはアウトだろう。もし、これが逆なら下に逃げても良いが、下で物事が起こっているのに下に行ったら馬鹿だろう。反対に上に行けば逃げ場がない。人に翼があるのなら別だが。

 そこで俺は真ん中=平行移動、つまりその階に留まることを選んだ。

 下を覗くとゾンビが1階で開催されていた骨董市のテーブルをなぎ倒していた。骨董品が床に落ちて割れる。あぁもったいない、と思ったがそれ以上に気づいたことがあった。一体もそのテーブルを乗り越えようとしないのだ。むしろテーブルが邪魔でつかかっているように見える。

 ゾンビは以外と単純な生き物なのか、俺は思った。

 騒ぎを聞き付けたのか状況に飲み込まれたのか、店員は上に行くよう告げていた。それに逆らって行く俺に誰も注意しない。というかみんな我先に上に行っている。

 と、若い女の店員が客に突き飛ばされて転んだ。そっちに向かうと店員は立ち上がりかけていた。

 「怪我は?」

 「大丈夫です。それよりお客様も早く上に」

 「それよりあんただけでも僕と一緒に来て」

 「え?」

 と答えも聞かずに俺は店員の腕を引っ張った。「お、お客様!」と店員は動揺しているが無視する。

 「店員さん、この階で中から開けられても外から開けられ無い扉はある?」

 「え、そんな扉なんて...」

 「んじゃ、外から入るときは引いて、中から出るときは押す扉は?」

 「え.....あ、従業員控え室なら」

 「そんじゃ、そこに案内して!!、言い訳無用!早くっ!」

 ゾンビが階段を上ってくる、というより這ったり転けたりしながら上がってくるのが見えた。

 呑み込んでくれたのかどうかは知らないが、彼女はそこへ俺を誘導してくれた。従業員専用の扉を開けて通路を進む。すると従業員通路奥の左側に「従業員控え室」と上に書かれた部屋があった。扉を引くと中はロッカーとパイプ椅子、なが机にホワイトボードなど業務用品で溢れていた。

 俺が「ありがとう」と言うより彼女の質問の方が速かった。

 「すみません、このあとどうするか私には解らないのですが?」

 「携帯持っているよね?それでとりあえず104に電話して、塩釜警察署の電話番号聞いて。そして分かったら塩釜警察署に立て籠っていることを伝える。場所も位置も詳細にね」

 「110番じゃ駄目なんですか?」 

 「君1人が電話するなら良いけど、一体何人が110番すると思う?」

 「待ってください!、一体外で何が起きているんですか?!私何も知りません!」

 「僕もよくは知らないんだけど、人が人を1階で食べてたよ」

 「へっ?」と彼女は悲鳴にも似た声をあげる。

 「知らないで「上に行け」って言ってたの?」

 「業務連絡で、そう言えと」

 「そうか、とりあえず相当外はヤバイからとりあえず俺が言った通りにしてね。ちょっと外見てくる」

 「危険ですっ!、まずはもっと情報が無いと」

 「だからこそだよ、店員...堀さん」

 彼女が一瞬驚く、がネームプレートにはしっかりと「従業員 堀真希(ほりまき)」と書かれていた。

 「....分かりました」

 そう言うと彼女は中にあったパイプ椅子の上に腰かけた。

 と、思ったら突然立ち上がり「そういえば、お客様のお名前は?」と聞いてきた。

 「こんな状況じゃ店員もお客様も関係ないよ。坂崎幸二、って言います。みんなからよく「こうちゃん」なんて言われているけど」

 「坂崎様...」

 「坂崎、さんね」

 「...坂崎さん、お気をつけて」

 「堀さん、すぐに戻るから、電話したらなるべく静かにしているんだよ」

 「はい」とこの時始めて不安そうながらも笑顔を見せた。

 俺は扉を開けた。


 

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