第20話
「…どうにもきな臭いですね。まぁ、そこから先は私達に出来る事は無いでしょうし経過を見守るより他無いですね」
「口惜しいですけれど…仕方ありませんわね」
「ぬぅ~、何とかなんねーのかよ!? オレちゃんと見たんだぞ! 犯人のオッサンに今回の事全部指示して挙句用済みだからって殺そうとしたヤツ!」
ミトネとロゼルタがあれこれと議論を戦わせている中、突如会話に割り込んできたのはユトナだ。
ダン、と勢い余ってテーブルを叩く様からも、彼女が憤りを隠せない事が容易に推測出来た。
ロゼルタはそんなユトナの様子をチラリと横目で一瞥してから、
「見たなら何か特徴とか覚えていないのですか? 誰か分かれば一番手っ取り早いのですが」
「う~、それは…ローブ着てたし頭からすっぽりフード被ってたし、顔も全然見えなかったんだっつーの。男か女かも分かんなかったしな」
「全然駄目じゃないですか。全く…役に立たないですね」
「なっ、誰が役立たずだよこっちだって色々あんだよ!」
「せめて、犯人を捕まえるくらいはしてくれれば多少褒めて差しあげても良かったのですがね」
「別にオマエに褒められても全然嬉しくねーし。ってか何でそんな上から目線なんだよ」
「上から目線なのは当然でしょう、私の方が上の立場なのですから」
「~~っ、相変わらずムカつくいつかぶん殴ってやる…。フードのヤツは逃がしちまったけど、犯人のオッサンは殺されずに済んだんだから良かっただろ」
「裏切られる事を想定していなかった、彼の自己責任でしょう。まぁ、私としてはどちらでも構いませんけど」
「ちょ、オマエその言い方はねーだろ!」
やれやれ、と溜息を吐きながら身も蓋も無い事を抜かすロゼルタにムキになって反論するユトナ。
そんな2人の様子を、ミトネは微笑ましく見つめていた。
◆◇◆
「本当にありがとう…何から何までお世話になっちゃって」
「いいってアニスちゃんの頼みならオレ何でも聞いちゃうよ~? …あ、お礼に何かしてくれるんなら嬉しいけど?」
「だーめ、今変な事考えたでしょう?」
「あ、バレたかー」
あの事件の後、ルアンとアニスの父親を自宅へと運んだシグニスは、彼の治療を済ませ安静にさせた所で漸くゆっくりと話をするゆとりが出てきたのだろう、こうしてアニスと談笑するに至っている。
アニスも努めて明るく振舞ってはいるものの、顔色は悪く精神的にかなり消耗しているのが見て取れる。
だが、それも無理は無いだろう。
この短期間で弟を失い、そしてまた父親も失いかけたのだから。
「…父さんの事…助けてくれて本当にありがとう。最悪の所まで行かなくて本当に良かった…父さんまでいなくなったら、私…」
「ま、ギリギリの所だったけどな。怪我は確かに酷いけど、命に別状はねぇと思うぜ? アニスちゃんが傍に居れば、きっといつか元気になるだろ」
「でも…ルアンの為とはいえ、街の人達に迷惑をかけてしまったわ。それはきちんと償わないと…」
「それはいずれ考えるとして、今は兎に角ゆっくり休む時間が必要だと思うぜ? 勿論アニスちゃんもな」
「…ごめんなさい、ありがとう…」
へらりと笑い飛ばすシグニスの姿に救われたのか、ホッと肩の荷が下りたような表情を浮かべるアニス。
慰めでも気休めでも構わない…誰かにそっと背中を押して貰いたかったのかもしれない。
…と、そういえば、と顔を上げるシグニス。
「…っとごめんな、もっと話してたいんだけどさ~、ちょっとこれから用事あってさ」
「あ、ごめんなさい引き留めちゃって。何処か行くの?」
シグニスの言葉に引き留めてしまった事を済まなさそうにしつつも、きょとんと首を捻るアニス。
すると、シグニスは冗談交じりにこう言ってのけてから茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせた。
「ん~、ちょっとデート、かな」
目の前に女性がいるというのにこの発言を事も無げに言ってしまう辺り、ある意味シグニスらしいとも言うべきか。
そう言ってその場を立ち去るシグニスの表情にほんの僅かに憂いの色が浮かぶものの、アニスがそれに気づく術は無かった。




