第19話
「……っ!? おいちょっと!? しっかりしろっつの!」
「……、いや…大丈夫だ。気絶しただけっぽい」
ハッとなって必死に肩を揺さぶるユトナをよそに、ルアンの父親の手首に指を当てて確かな脈拍を確認するシグニス。
とは言え、以前予断を許さない状況であることに代わりは無いであろう。
「何にせよ、早い所手当した方が良さそうだな。どっちにしろこれ以上此処に居ても意味ねぇだろうし」
「なーんかすっきりしねーけどな。街の皆も、元に戻ってくれりゃいーんだけど」
「力は解放されてたっぽいから、そのうち戻ると思うぜ? さーてと、ソルも連れて帰らねぇと。…ソル?」
改めてソルマの方へと視線をずらしたシグニスであったが、いち早く彼の様子がおかしい事に気づく。
不安を覚えたシグニスが彼の傍へと駆け寄るより早く、それは起こった。
「……っ、ぐぅっ…」
苦しげに呻きながら自分の身体を両手で抱えるような仕草を取っているソルマの姿が、徐々に大きくなっていくように見える。
それはまるで、一気に子供から大人へと変貌を遂げるかのように。
「も、もしかして…」
固唾を飲んで一部始終を見守るソルマ以外の一同。
漸くその急激な変化を終えたソルマの姿は最早子供のそれではなく、元の大人の肉体へと戻っていた。
子供の頃の記憶を全て失ってしまっているのだろう、ぼんやりした頭を必死に働かせながら状況を判断しようと辺りをきょろきょろ見渡すソルマ。
しかし、幾ら考えを巡らせた所で納得のいく結論を導き出せる筈も無く。
「う…何か頭がボーっとする…ってか、此処何処だ…? それに…シグ? 何やってるんだよこんな所で」
「おいおいマジかよソル、元に戻ったのかよ良かったな」
「元に…? 何の話だ?」
久し振りに目の当たりにした懐かしい姿に思わず顔を綻ばせるシグニスであるが、彼の言葉の真意も状況もさっぱり掴めないソルマは、ひたすら頭上に“?”マークを乱舞させるばかりであった。
◆◇◆
「一応は一件落着、という訳ですか」
「ええ。一応は…ですけれどね」
此処は聖堂の一角にある客室。そこにテーブルを挟んで対峙するのはミトネとロゼルタだ。
彼らは時折テーブルに置かれたティーカップに手を伸ばしつつ、一見すると優雅にお茶会を催している…ように見えた。
「ところで…“彼”は一体何をやっているのです?」
「ええ…幾ら不可抗力とはいえ、皆さんの前で幼少の姿を見せてしまったばかりでなく、本当の子供のような態度を取ってしまった事に恥ずかしさを覚えているようですわ。まぁ、気持ちは分からなくもありませんし…暫くはそっとしておいて差し上げましょう」
チラリと2人が図ったように視線をずらしたその先には、部屋の隅っこで頭を抱えて悶々としているソルマの姿。
どうやらあの後、一同に事情を全て教えて貰ったようだ。
「彼も随分ととばっちりで大変な目に遭いましたからね…落ち込むのも無理は無い。それより、犯人はどうなったのです?」
「重症は負ったものの、命に別状は無いようですわ」
「そうですか…それは良かった」
「けれど、問題はまだ山積みですわね…。犯人とは言うものの、彼は誰かに唆されたようですし。その唆していた者の正体を暴かない限り、完全に解決したとは言えませんわ」
ふぅ、と溜息を零すミトネの双眸は、不満と猜疑に支配されていた。
しかし、ミトネの杞憂も無理は無いであろう。根本的な解決は何一つしていないのだから。




