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煌天の蒼月 第2部  作者: 天空朱雀
第2章 訪れる災厄
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第18話

「貴様はもう用済みだ」


「──っ、く…」


ルアンの父親が必死に痛みを堪えつつ背後を振り返れば、そこにはフードの人物が狂気の刃を突き立てる姿が映り込む。

そのフードの隙間から、妖しい光が仄暗く煌めいた。


渾身の力を振り絞ってフードの人物を突き飛ばし腰に刺さったダガーを引き抜くが、だからといって痛みから解放される訳でもなく。

しかも、栓の代わりをしていたダガーが抜かれた事で、傷口からはまるで蛇口を捻ったように鮮血がとめどなく溢れる。

咄嗟に傷口を押さえつつ止血を試みるが、その程度でどうにかなる筈も無い事は、本人が一番よく分かっていた。


視界がぼやける。足元がふらつく。

必死に意識を保とうとするがそれも叶わず、白んでいく視界の中彼はその場に力なく崩れ落ちた。


「──! おい、大丈夫か!?」


反射的にルアンの父親へと駆け寄るシグニス。

それに続くようにしてユトナとソルマもルアンの父親の様子を窺った。


その一方で、キーゼはフードの人物の正体を探るべくそちらへと駆け出していく。

フードの人物と言えばルアンの父親を刺した後どさくさに紛れて宝玉を奪い取っていたようで、それをまじまじと眺めてから心底煩わしそうに溜息を零した。


「愚かな…もうほとんど力が残ってはいないではないか。まぁ良い。これだけあれば……フン、もう此処には用は無い」


キーゼが自分の方へ向かっているのにいち早く気づくと、すかさず呪文の詠唱に入る。

そして、キーゼがフードの人物を捕えようと伸ばした手は空を切るだけに終わった。

空間転移の術が発動したようで、フードの人物の足元から光り輝く魔法陣が生み出されたかと思えば、一瞬にしてその人物の姿は掻き消えてしまったから。


「ちょ、反則だろそれ。あとちょっとの所だったのに…しかもあの球体も持って行っちまうし」


悔しそうに歯噛みしながら先程までフードの人物がいた場所を見遣るキーゼ。

結局、フードの人物が何者だったのか、一体何の目的で人々から生気を奪い取っていたのか…それは分からず仕舞いで終わってしまった。


そんなキーゼの耳元に、シグニスの切羽詰った声が飛来する。


「おい、しっかりしろよ! こんな所で死ぬんじゃねぇぞ!」


いつもちゃらんぽらんな態度を取ってばかりのシグニスにしては珍しく、その顔には必死さが滲む。

彼もまた、何とか止血しようと傷口に布を押し付けるが、傷は思った以上に深く収まる気配すら無い。


「いや、もういい…。私は…愚かな過ちを犯してしまった…。私のせいで、ルアンが…。だから、もう…」


「…はぁ、アホかアンタ。アンタまで死んだらアニスちゃんはどうすんだよ?」


せり上がって来るものを堪えきれず血を吐き出すルアンの父親をよそに、シグニスは静かな怒りを湛えた言葉をぶつける。

アニスという単語を耳にして、ルアンの父親──ルアンの姉であるアニスの父親でもあるのだが──は申し訳なさそうに眉をしかめた。


「アニスにも…済まない事をした…げほっ、合わせる顔は無い…」


「だから死ぬのか? 無責任すぎるだろ」


シグニスは苛立ちを呆れを孕んだ声色で遠慮なくそう言い放つ。

すると、ずっとシグニスの背中に隠れるようにして様子を窺っていたソルマが、おずおずとルアンの父親の傍に歩み寄ったのだ。


「おじさん、だいじょうぶ…? ちがいっぱいでてるよ…?」


「……っ、君は…そうか、生気を奪い取った副作用で…。君にも…ごほっ、申し訳ない事をしたな…」


ソルマの、子供が着るにしてはあまりにもぶかぶかすぎる服装を見て、すぐに元々子供の姿では無い事を察すると済まなさそうに眉尻を下げた。

勿論、元々の記憶を一時的に失っているソルマには何の話なのかさっぱり理解出来ずにいたが。


「…? おじさん、いたくない…? ぼくがいたいのいたいのとんでけーってやってあげるね」


ソルマは悲しそうに今にも泣きそうな表情を浮かべると、どうにかしてやれないかと幼い知恵を何とか絞っているようであった。

そんな様子を見て、ルアンの父親の胸にはさらなる罪悪感がまるでナイフのように突き刺さる。


「ありがとう…だが、私の事は気にしないでくれ。どうせ、もう助からん…」


「え…? おじさん…しんじゃうの? しんじゃダメだよ…しんだらみんなかなしいよ?」


ソルマの涙で潤みつつも真っ直ぐな眼差しがルアンの父親の心を掴んで離さない。

その純真無垢な思いが、どす黒い感情に塗り潰されてしまった彼の心を浄化するかのように。


「そう…か…私が死んだら、悲しんでくれる者が……っ」


ルアンの父親の言葉が最後まで紡がれる事は無かった。

全て言い終わるより早く、彼は意識を手放してしまったから。

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