第15話
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ユトナとキーゼが謎の人物と接触した場所からさらに森の奥深くへと進んだ箇所にて。
此処には街の人達も近寄らないようで、人影どころかここ数日誰かが此処へ立ち入った形跡さえ見当たらない。
時折動物の遠吠えが聞こえる中、辺りは重苦しいまでの静寂に包まれていた。
そんな不気味ささえ感じる空間に、人影が二つ。
一つは先程ユトナとキーゼが接触した人物に違いないが、もう一つの影は目深にフードを被り裾の長いローブを着こんでおり、年齢どころか性別さえも判断し難い風貌であった。
どう見ても胡散臭い人物にしか見えないが、先程の人影はまるで気にする素振りも無い。
「……遅かったな」
「済まない…色々と予想外の事態に遭遇してしまったせいで、予定より手古摺ってしまった」
どうやら、この二つの人影は此処で落ち合う約束をしていたようだ。
責めるような眼差しを受け、球体を手にした人影の発した言葉は弁解にも似ていて。
しかし、その弁解さえローブを着た人物の耳にはあまり入っていないようで、
「そんな事は如何でも良い。それよりも、首尾は如何だ? あれは持ってきたのか?」
「それは勿論だ。言われた通りの事はしたし、あれも持ってきた」
「そうか。ならば今直ぐそれを渡して貰おうか」
ローブを着た人物はぶっきらぼうにそう言い放つなり、ずいっと片手を差し出してみせる。
まるで、何かをさっさと寄越せと言わんばかりに。
一方、もう1人の人物は懐にしまった球体を渡そうとするが、その前に何か確認したい事でもあるのかこう切り出した。
「その前に…本当に我が望みを叶えてくれるのだろうな?」
「当たり前だ。貴公とはそういう契約であっただろう? 互いに利害が一致したのだから、こうして協力したのではないか」
「……、では、渡す前に我が望みを叶えるのが先だ」
「ほう…よっぽど私が信用ならないか。ならばそれでも構わん」
相手を信用しきっていないのか、訝しげな眼差しを向けるのは球体を所持する人物。
一方、ローブを着た人物はやれやれ、と小さく溜息を零してみせた。
「さぁ…早く、我が望みを……」
「ちょーっと待ったああああぁぁっ!!」
渇望する声を遮るように放たれた、雄叫びにも似た声。
しかもそれは、2人の人物の頭上から降り注ぐ。
一体何事かと頭上を見上げると同時に、日の光を浴びて煌めく一つの刃。
…と同時に、何者かが手にした武器を2人目掛けて振り下ろさんとしている姿が映り込む。
咄嗟に身を捩ってその場から離脱する2人。
その直後に凄まじい音と共に、地面が深々と刃によって抉られた。
「よっこらしょ、っと…。折角の奇襲だったのになー惜しかったな」
地面に深々と突き刺さった刃を引っこ抜くと、それを握り直してから2人へと向き直る一つの人影。
その人物こそが奇襲を行った人物──ユトナその人であった。
ユトナは2人のうち球体を持った人物と視線が合うと、急にカッと目を見開いてから、
「オマエいきなり辺り爆発させて逃げるとか何考えてんだよ!? お陰でこっちは黒焦げになる所だったじゃねーかこの野郎っ!」
「チッ…もう此処まで追って来たか。すばしっこい奴め…」
ビシッと人差し指を指しながら啖呵を切るユトナ。
一方、球体を持った人物と言えば口惜しそうに舌打ちをしてみせた。
そして、ユトナから遅れて遅れて漸く獣道の向こうから現れたのはキーゼだ。
やっとこさ彼女に追いついたようで、額の汗を拭いながら肩で息をしている。
「ぜぇ、ぜぇ……やーっと追いついた…。ったくどんだけ足速いんだよ野生児かよワイルドだな」
そんな不満を零しつつも、漸く追いついたキーゼはユトナの側へと駆け寄る。
だが、キーゼには興味が無いようで、ユトナは僅かに彼を一瞥しただけであった。
「さっさとさっきの球体、渡して貰うぜ? そうすりゃ街の人も元に戻るだろうからな」
「全く…何者かは知らんが、厄介なのが纏わりついてきたものだ。…おい、早くあれを私に寄越せ。貴公には此処で足止めをして貰う」
「……断る。そのままそちらが逃げるとも限らん」
ローブの人物は心底鬱陶しそうにユトナ達を一瞥してから、次いで球体を所持している人物へと視線をずらす。
しかし、その人物からの返答はローブの人物が想定していたものとは異なっていた。
「そんな事を言っている場合か。もしあれを奪われでもしたら、すべてが水の泡だぞ。良いのか? 貴公の望みが叶えられなくなっても」
「……、了解した。背に腹は代えられん…。私には、何を犠牲にしても叶えなければならない事があるのだ…」
意を決したように声を絞り出すと、懐を探って先程の球体を取り出す。
「あ、それだそれ! それがねーと街の皆が困るんだよ!」
「…これは貴様らには渡さない。諦める事だな」
ユトナは球体を渡すように再度説得を試みるも、相手の意志は固くまるで聞く耳を持たない。
それどころかユトナ達に鋭い視線を投げかけるなり、手にした球体を傍らに控えるローブを着た人物へと手渡そうとした。
──が。それはすんでの所で阻止される事となる。
突如一同の元に降り注いだ、一つの声によって。
「その宝玉で何するつもりだい? そんな事したって、息子さんの病気は治らねぇと思うけどな」




