第13話
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シグニスとは時間を別にして。
ユトナとキーゼもまた、犯人を捜し出すべく街中を疾走していた。
「えーっと…そういや何処行きゃいーんだっけ?」
「それマ? 思いっきり一点の方向向かって走ってるからちゃんと把握した上で動いてんのかと思ったぜ。ほら、さっき街の人が言ってただろ?」
そういえば、ときょとんと首を捻るユトナに対し、え、と目を丸くしてから盛大に溜息を吐いて見せるキーゼ。
それでも素直に街の人から手に入れた情報を再度ユトナに話して聞かせるキーゼ。
「異変が起こった直後、皆まともに動けない中1人だけ平然と動いてる奴がいるってさ。そいつはやたらと急いでる様子で…街の人とぶつかっても碌に謝りもしないでそのまま向こうに行ったってな」
「あー…そーだそーだ。そいつが何かしら関わってる可能性は高いだろうしな」
キーゼに説明して貰って漸く思い出したらしいユトナは、ガッツポーズをとりつつやる気満々の様子。
そうこうしているうちに2人は街外れの小さな林に差し掛かる。
誰かが隠れるには格好の場所だろう…そんな事をぼんやり考えていたキーゼの視界の隅に、一つの影がちらついた。
「……! シッ、林の茂みに誰かいる」
「え、マジかよ!?」
「マジマジ。だから静かにしとこうか」
相手に感づかれては全てが水の泡と化してしまう、それを懸念して努めて静かに、そして気配を消すように振舞おうとしたキーゼであるが、全く分かっていないユトナにあっさりぶち壊しにされそうになり口調は穏やかながらもさりげなくユトナを窘めるキーゼ。
自分達の姿を隠すべく適当な茂みに自らも身を隠せば、その人影の様子を窺う事にした。
その人物は中年の男性であろうか、魔術師風のゆったりとした法衣を身に纏っている。
恐らくはこの街の人間と思われる。
だが、2人が瞠目したのはそこではない。
その人影が手にしている、一つの球体であった。
それは手のひらに収まるくらいの大きさで、断続的に虹色の淡い光を放っていた。
「……っ、あの球、どう考えても怪しい。こっから結構距離あるってのに、あの球からすげぇ力感じてオラわくわくすっぞ」
「確かに空気がピリピリしてやがる……って、最後の何だよソレ」
「ん? ただのギャグ的な何かだから気にすんな。さーてと、どうしたもんかねぇ…?」
ひそひそと耳打ちしながら球体から溢れる凄まじいエネルギーに眉をしかめる2人。
恐らく、その球体に何らかのからくりがあるのは間違いないが、真正面から切り込んで素直に情報を得られるとも思えない。
此処は慎重に行くべきか──あれこれ思案を巡らせるキーゼの視界に、不意に予想だにしない光景が映り込んだ。
「おいオマエ! オマエだな? 街の皆から生気を吸い取ったのは!」
「…って馬鹿正直に聞きに行くんかいっ!」
わざわざその人影の眼前に飛び出し、馬鹿正直にもそう問い詰めるのはユトナだ。
反射的にツッコミを入れつつ、そこではいそうですかと答えてくれたら苦労などしないのに…とキーゼは心の中でやれやれ、と溜息を零す。
人影に掴み掛らんばかりの勢いで捲し立てるユトナとは対照的に、人影と言えばほんの僅か彼女の姿を一瞥しただけでまるで興味は無い様子。
しかしそれでもユトナはめげない。
「無視すんなよ! つーかその球体何なんだよ? さっきからすげーエネルギー感じるんだけど…ソレ、街の人から奪い取った生気を封じ込めてあんじゃねーのか?」
「……、仮にそうだとしたら…それがどうしたというのだ?」
「決まってんだろ、それ返せ! 皆苦しんでんだぞ!」
ユトナは相も変わらず直情的に声を荒げる。
その一方で人影と言えば、一瞬だけ眉をしかめるものの、一切感情を見せる様子は無い。
「そのくらいの苦しみ、……」
「はぁ? 何か言ったかこの野郎!」
「これは渡さない。目的の為にはどうしても必要なものだからだ」
「…ま、そう簡単に渡してくれるなんざ思ってなかったけどな。そんなら力付くででも奪うだけだぜ」
最初から交渉が出来る相手とは微塵も思っていなかったのだろう、さほど動揺した様子も無く、さっさと話を進めると忍ばせていた武器を鞘から抜くユトナ。
すると、傍観している間にあらぬ方向へ展開していく事に焦りを覚えたのか、茂みに隠れていたキーゼが痺れを切らして飛び出してきた。




