第12話
◆◇◆
「──っ、やっぱ街もひでぇ事になってんなー」
シグニスは街を疾走しながらも、街の様子をさりげなく観察する事も忘れない。
街中の人達が生気を吸い取られ苦しむ姿に思わず眉をしかめつつ──当然、シグニス自身も先程の異変により生気を奪われ暫くまともに立つ事さえままならなかったが──それでも目的の為に彼は駆ける。
「オレ達だけじゃなかったか…もし、犯人がアイツだとしたらそこまでしても手に入れたかったって事、か」
不意にシグニスの脳裏にルアンとの会話が過る。
彼の願いを叶えるならば──早くしなければ。手遅れになる前に…。
「早い所見つけねぇと……ん?」
辺りをキョロキョロ見渡しながら駆け抜けていたシグニスであったが、そんな彼の視界の片隅を何かがちらつく。
それが何かはシグニス自身さえ分からなかったが、何故か彼の心を捉えて離さない。
だからなのか、ほぼ無意識のうちに足を止め何かへと視線をずらした。
「よう坊主、こんな所で1人でどうしたよ? 親は?」
「……っ! おにいちゃん、だれ…?」
ニカッと爽やかスマイルと共に声をかけた相手は、まだ年端も行かぬ小さな男の子。
しかし、何故だかその男の子の顔つきには面影があった。
こんな小さな少年に知り合いなどいない筈なのに…。
「オレ? オレは基本的に女の子にしか名前名乗んねぇけど、今回は特別に教えてやるよ。オレはシグニスってんだ」
「シグニス、おにいちゃん…」
彼の名を聞いてもピンと来ないのか、きょとんと首を傾げる少年。
今度はシグニスが問いかける番であった。
「そうそう、そんじゃ坊主の名前も教えて貰っていいか?」
「ぼくは…ソルマっていうの…」
「……へ?」
それはとてもよく見知った名前。
しかし、まさか此処で来る羽目になるとは──否、心の何処かでこんな結末を予期していたのかもしれない。
改めて少年──ソルマへと視線をずらせば、確かに年齢さえ幼いものではあるが、髪型も顔つきも確かにソルマの面影があった。
目の前にいる小さな男の子がソルマだとして、何故彼がこんな小さな姿になってしまったのか。
もしかして、先程の異変が原因なのでは──…? そんな仮説に辿り着いた。
「そういや、お前何で1人でいるんだ? えー…ほら、聖女サマと一緒じゃねぇの?」
「せいじょさま…? えっと…いっしょにいたけどきがついたらぼくしかいなかったの…」
「あぁ何だ、やっぱ一緒にいたのか。けど…その様子だとはぐれたか何かで迷子になったってか」
「ぼく…まいごなの…?」
合点の言った様子のシグニスとは対照的に、今更自分が迷子である事に気づいたらしいソルマの胸には一気に不安が押し寄せると、その大きな瞳からは今にも涙が零れ出さんばかりの勢いだ。
うるうると目を潤ませるソルマに、シグニスが慌ててフォローを入れた。
「大丈夫だよ。オレが聖女サマの所まで案内してやるから。ただまぁ、オレもちょっと今立て込んでっから…悪いんだけど、暫くオレと一緒に来てくれるか?」
「え…つれてってくれるの? うんっ! お兄ちゃんといっしょに行く!」
シグニスに懐いている訳では無かろうが、優しい言葉をかけてもらって純粋に嬉しさを覚えているのだろう。
故にパッと目を輝かせて純真無垢な眼差しをシグニスに向けるソルマ。
その可愛らしい仕草にシグニスは内心ぐらりと心揺れ動きつつ、何とか理性でそれを押し留める。
(くっそ小せぇソルめっちゃ可愛いじゃねぇか……ってそうじゃなくて、何にせよ此処に1人放置する訳にはいかねぇからな)
「聞き分けが良くて助かるぜ。もしかしたら危険な目に遭うかもしんねぇけど…その時はオレが守ってやるからな」
「危険なめ…? でも、お兄ちゃんがまもってくれるなら大丈夫だよね…?」
「おう、勿論だ。オレが来たからには大船に乗ったつもりで安心していいからな」
けらけらと笑いながら軽口を叩けば、はぐれては大変だとソルマの手を引いて再び駆け出すシグニス。
ソルマも一瞬驚いて目を丸くするものの、すぐににっこりと満面の笑みを浮かべ黙ってシグニスの後をついていった。




