第8話
◆◇◆
「…ったく、この騒動の原因調べるだけでも大変だってのに、何で迷子になったソルマまで探さなきゃなんねーんだよ」
「あーめんどくさ。おれなんか今日休暇使って此処に来たのに王子サマにこき使われるとかありえなくね?」
所変わって此処は街の表通り。
ロゼルタから命を受けて街へ繰り出したユトナとキーゼであるが、イマイチやる気が伴っていないのは否めない。
…と、改めて街の様子を目の当たりにしてみれば、思った以上に酷い有様であった。
「…にしても、ひでーなこりゃ。街中皆こんな状況かよ」
「中にはあのイケメン…ソルマだっけ? あいつみたいにガキになっちまった奴もいるみたいだからなぁ。…ってか、おれもまだ全然体力回復してなくて怠いんだけど」
「あー…まぁオレもまだだりーんだよな。ったく、こんなふざけた事したヤツとっちめねーと気が済まねーよ」
気怠そうに肩を回すユトナの視線の先には、街の至る所で力なく項垂れる者、子供の姿になってしまったらしく途方に暮れる者、立ち上がる気力も残っていないのか塀に寄りかかって座り込む者…様々だ。
あまりの惨状に眉をしかめていると、不意に視界の隅にふらふらと力なく歩を進める街の人の姿が映り込む。
顔面蒼白で立っているのもやっとといった様子だったが、遂に限界を迎えたのか一瞬気が遠のく。
そのまま意識をもぎ取られそうになりその場に力なく崩れ落ちる──…
──…事は無かった。
「おい、大丈夫かよ!? しっかりしろ!」
すんでの所で鉄砲玉のように飛び出したユトナに抱き留められ、なんとかその場に踏み止まる事が出来た様子。
街の人は覇気のない顔つきでも必死に作り笑いを浮かべようとしていた。
「す、済まない…ありがとう」
「オマエも生気を吸い取られたってクチか。あんま無理すんなよ」
「はは…俺だけじゃない、この街にいる人達は皆こんな感じだよ。突然の事で何が何だかさっぱりだ」
「やっぱ皆こんな感じか…。オレ達もいきなり身体が怠くなるしワケわかんねーよ。…なぁ、何か気になった事とかねーか?」
苛立ちを孕んだ声色でそう呟く街の人であるが、ユトナに問いかけられると暫く思案を巡らせるように視線を宙に彷徨わせる。
暫くそのまま沈黙が続いていたが、やがて何か思い出したようにあ、と小さく声を上げた。
「あ、そういや…皆から奪われた生気が光のエネルギーみたいになって、どっかに飛んで行ったのを見たような…」
「それ本当かよ!? んで、どっちに行ったんだ!?」
「うーん、どっちだったかなぁ…あっちかな?」
胸倉を掴み掛らんばかりの勢いで捲し立てるユトナに若干気圧されつつ、必死に過去の記憶を手繰り寄せる。
しかしどうにもうろ覚えの情報しか出てこない。
街の人はあっちこっちを指差していたが、やがて漸く考えが纏まったのかとある一点を指差した。
「多分…そっちだったと思う」
「成程、あっちだな? よっしゃありがとな、助かったぜ」
曖昧なものではあるが、何もない手探りより一応は情報があった方が探しやすいというもの。
ユトナはパッと顔を輝かせて礼を言うと、街の人を近くの壁に寄りかからせてやった。
「じゃ、オマエは少し此処で休んでろよ?」
「ああ…本当に助かった。そういえば…君達はテンプルナイトか? 見ない顔だけど…」
「いや、オレ達はちげーよ。別の国の騎士。…あ、そういやテンプルなんちゃらがそのうち街の人助けにくんじゃねーのか?」
テンプルナイトの本来の役割は教会を守る事。
けれど、もし街に何か危機が迫れば、テンプルナイト達は命を張って街の人々を守るであろう。
ならば、今まさに街に危機が訪れている現状でテンプルナイトが警備に当たらない筈がない。
「でもさ、それっぽいのいなくね? フツーなら部外者のおれ達が調査してる事自体おかしいしさ、常識で考えて」
キョロキョロと辺りを見回しながら訝しげに首を傾げるキーゼの言葉の通り、テンプルナイトがこういった時に率先して街の混乱を鎮めに来ないのは不思議に思えた。
ただ単に教会も混乱していて指示系統が上手く行っていないのか、それとも──…
幾ら詮索しても詮無き事。
元より頭を使う作業が何より苦手なユトナは、訝しげに眉をしかめるキーゼとは対照的にけろっとした顔つきで、
「別にどーでもよくねーか? オレ達が考えたってどーにもなんねーし、とりあえずあっち行ってみようぜ」
「せやな、ってか清々しいくらい何も考えてねぇなあんた」
「よーしそんじゃ行くか……って、ソルマも探さねーとな。おーいソルマー、何処行った~?」
2人はとりあえず街の人の言葉に従い、人々のエネルギーの束が向かった方向へと駆け出して行った。
勿論、道中ソルマの捜索も怠る事は無かった。
残念ながら、ソルマらしき子供を探し出す事は出来なかったが。