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煌天の蒼月 第2部  作者: 天空朱雀
第2章 訪れる災厄
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第6話

◆◇◆



「……とりあえず、ロゼルタ様は此処でゆっくり養生なさって下さいませ」


「お気遣い、感謝致します。しかし…此処まで手厚い保護を受けても良いものか…。私も大分体調は戻ってきましたし」


「駄目ですわ、油断は禁物です。それに、ロゼルタ様は大切な客人ですもの、どうか遠慮はなさらないで下さいまし」


「…そうですか、それではお心遣いは有難く受け取っておきます」


所変わって、此処は教会の一角にある客室。

その中でも、取り分け身分の高い大事な要人を迎える為の特別な部屋。

そういった部屋と言う事情もあって、部屋の周辺を一般の司祭がうろつく事も許されていない。

しんと静まり返った辺りに空気に若干の重苦しささえ感じつつ、とりあえず此処で休んでいる限り危険に晒される事は無いだろう。


未だ体調が回復しないロゼルタにはベッドで休んで貰い、ミトネが彼の看病を買って出たという訳だ。

恐縮しつつも厚意に甘える事にしたらしいロゼルタと、ベッドの傍らに佇んでにこやかに看病を続けるミトネの姿は遠巻きに見れば何とも絵になるというべきか。

まさに理想の美男美女の仲睦まじい光景と言った所か。


それをユトナも痛い程感じ取ったのか、完全に2人の世界と化した空間にわざわざ割り込むような真似はせず、王子の護衛を任された一兵士として2人から少し距離の離れた所で警備に当たっている。

理解は出来ても納得は出来ない、と言った様子で、終始何とも言えない不満げな表情を浮かべてはいたが。


「…なぁキーゼ」


「ん? どしたん?」


ちなみに、キーゼも非番でこの街を訪れたものの、状況が状況という事で一時的にユトナと共にロゼルタの警備に当たっている。

ユトナの隣でぼんやり部屋を眺めていたキーゼであったが、ユトナに問いかけられてきょとんと首を傾げた。


「やっぱ男ってさ、あーいう清楚で美人なねーちゃんに看病されんのがいいもんなのか?」


「へ? 何でソレおれに聞くワケ? シノアだって男じゃん」


「え、あ…いやそーだけどさ、オレあんまそーいうの興味ねーしよく分かんねーんだよな」


キーゼに鋭い所を突っ込まれて内心ギクッと肝を冷やすユトナであったが、何とか作り笑いを浮かべながら誤魔化せたようだ。


「そりゃまぁ、美人に甲斐甲斐しく世話して貰うとかリア充の典型だよなとりあえず爆発しろ」


「つまりキーゼもそーいうのがいいって事か?」


「まぁな、世の男子の憧れだろ。勿論個人差はあるだろうけどさ」


「ふーん、そんなもんかよ…」


途中でキーゼの言葉も彼女の耳にはあまり入っていないのか、ユトナの返答は何ともそっけない上の空のもので。

そんなユトナの視線には、2人の男女の姿しか映し出していないようであった。

何となく面白くなさそうな眼差しを向けていると、不意にロゼルタがユトナへと視線をずらした為予期せず2人の視線がぶつかる羽目になる。


「……? 何ですか、私の顔に何かついていますか?」


「別に何でもねーよ」


慌てて視線を逸らすとむくれながらぶっきらぼうにそう返すユトナ。

そんな彼女の真意を汲み取れず首を捻るロゼルタであったが、当初の目的を思い出したらしくこう切り出した。


「2人共…此方に来て貰えますか?」


「へいへい」


「え、おれもッスか?」


ユトナとキーゼは一瞬顔を見合わせてから大人しくロゼルタの指示に従い彼の傍へと歩み寄る。

すると、一同の姿を見渡してからロゼルタがゆっくりと口を開いた。


「落ち着いた所で話をしましょうか。此処に戻る道中、街の様子は少なからず目にしましたよね?」


「おう、ちょっとだけしか見なかったけど、酷い有様だったよな」


脳裏に浮かぶ街の光景に、ユトナの表情が僅かに歪む。

彼女の言葉の通り、街は大混乱の渦に叩き込まれていた。


道端に倒れ込む人、そこまでは行かずとも体調不良を訴え壁にもたれかかる人。

度合は様々ではあるが、街に暮らす人々全てが何らかの変調をきたしているようであった。

その辺りは、一同と症状は同じであろう。

教会に戻る道中、パニック状態の街の人々に事情を聞いてみるものの、決まって帰ってくる返答は“心当たりは何もないし何が起こっているのかさっぱり分からない”との事。

結局何の情報も得られないまま、とりあえずまずはロゼルタを安全な所で休ませようと教会へ戻るのを優先したのであった。


「やっぱ皆、オレ達と同じように生気奪われてたって感じだよな」


「ええ…数は極僅かですけれど、ソルと同じように子供の姿になってしまった方もいましたわね」


ミトネの長く艶やかな睫毛が、悲しげに伏せる。

そんな彼女の視線の先に映り込むのは、相変わらず子供の姿のままのソルマ。

言動も子供の頃のままに退行しており、一同の話を一応は聞いているものの話を理解出来ないのでつまらなさそうに窓の外の景色を眺めている。

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