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煌天の蒼月 第2部  作者: 天空朱雀
第1章 聖都に住まう聖女と教会騎士
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第1話

何時からそれは地上に根を下ろし始めたのか。

百年以上経つのか、それとも千年の時を超えてずっとそこに存在するのか──…それは誰にも分からない。


聖なる力を携えて、その一本の巨木は世界を見つめ続けてきた。

驚異の存在に住処を追われ安息の場を求めてこの地にやってきた人間達がこの聖なる木の加護に縋り、いつの間にか巨木を中心として集落を形成し始めたのだ。

それからずっとこの大樹と人間達は共存を重ねてゆき、今では栄えた街へと変貌を遂げた集落のシンボル的な存在となっている。


その木は、ただただ慈愛なる眼差しを持って人々を、街を、そして世界を見守るだけ。

後に大樹は何時しか神樹と呼ばれ人々の信仰を集め、元々小さな集落だった街はこう呼ばれるようになった。


聖都ルーチェ、と──…。



◆◇◆



「……皆様、準備は整いまして? それでは早速、始めますわ」


聖都ルーチェには幾つかの修道院や教会が存在しているが、此処はその中でも特に大きな権力を保持する聖堂。

此処は神樹を崇める人々が集う場所であり、司祭や神父、シスター等大勢の人達が自由に出入りしている。


聖堂の中は常に神聖で厳かな雰囲気が支配しているが、その中でもとりわけピンと張りつめた空気が漂う場所があった。

そこは儀式の間と呼ばれる場所であり、基本的に一般人は立ち入り禁止だ。

聖職者の中でも選ばれた者しか立ち入る事の出来ない、まさに極秘の間だと言っても過言では無い。


天井は天窓になっており、頭上から燦々と降り注ぐ日差しは温かく人々に安らかさを与えてくれる。

そして窓には色とりどりのステンドグラスが鮮やかで、その美しさに一瞬目を奪われてしまいそうだ。


儀式の間には位の高い司祭が何人か神妙な面持ちで佇んでおり、その中央に位置するのはこの聖堂を取り仕切る最高顧問である枢機卿の姿。

そして一同が固唾を飲んで見守る視線の先に、1人の女性の姿があった。


年齢は10代後半程であろうか、見る者全てを魅了するような、慈悲深き女神のような美貌を持っていた。

その麗しさといえば、まるで絵画に描かれた美女が現代に飛び出してきたようだ。

ピンク色の長い髪が、彼女が首を傾げる度にさらりと揺れる。

ゆったりとしたローブを身に纏っているが、それでも胸の膨らみが分かる程に女性的な緩やかな曲線を持つ理想的な体型なのだろう。


彼女は嫋やかな雰囲気の中にも凛とした強い意志を感じさせる双眸でこの場に居る一同を見渡す。

すると、司祭の1人が彼女に声をかけた。


「聖女様…手筈は全て整っております。結界が予想以上に早く弱まっている故、どうぞ宜しくお願い致します」


「分かりましたわ。結界は街の人々の平穏を維持するものですもの、何かあっては大変ですわ」


人々の平穏と安寧の日々を願い、聖女と呼ばれた女性の瞳は哀しげに揺れる。

しかしすぐにキッと鋭い眼光で真っ直ぐ前を見据えれば、途端辺りの空気が張り詰めたものへと変貌してゆく。


女性がゆっくりと瞼を閉じて何やら小声で詠唱を始めると、少しして彼女の足元に巨大な魔法陣が描かれる。

それは淡い光を放ち女性の身体を包み込めば、女性の周りをまるで蝶が舞うように光の粒が飛び交った。


何とも神秘的な光景に、その場に居た誰しもが魅了され何時の間にか視線は目の前で繰り広げられる光景に釘付けになってしまう。

だが、女性といえばそんな周りの視線には一切目もくれず、呪文の詠唱を終えたようでゆっくりと瞼を開いた。


準備を整えた女性はゆったりとした動きで舞を踊る。

魔法陣の上を軽やかな足取りで舞うその姿は、まるで光の妖精か女神のよう。

指先から爪先まで緩やかなカーブを描いて舞い続け、どれほどの時が流れようとも決して疲れを見せなかった。

重力を感じさせない軽やかなステップは、彼女が重力から解放され翼でも持っているかのような錯覚を覚える。


暫くそれを繰り返していると、聖女の周りを漂っていた光の粒が次第に大きな球体へと姿を変え、一同の頭上へと収束されてゆく。

それでも絶え間なく聖女の身体からは淡い光を放ち続け、それが光の粒と成して最終的には球体へ吸収されていくように見えた。


そしてある程度球体が大きさを保持すると、それはふわりと浮かび上がって天井を突き抜けてゆき、蒼穹へと舞い上がってゆく。

その光景は街中に広がり、道行く人々は一体何事かと頭上に広がる景色に目を奪われた。


「あれはもしかして…聖女様が結界の儀式を行っているのか?」


「わぁ、まるで小さな太陽みたい…綺麗ね」


蒼穹に浮かぶ球体を見上げながら、各々の思いを吐露する街の人達。

すると、それは堰を切ったように突如無数の流れ星のように弾け飛ぶと、街中に降り注ぐ。


だが、その流れ星のようなものが人々の頭上に墜落する事は無かった。

それもその筈、無数の光の筋は街全体を包み込んでいるドーム状の結界とぶつかるとそのまま結界に吸収されていった。


結界は光の筋を吸収する毎に、その光を飲み込んでさらに強く明るく輝きを放つ。

最後の流れ星が飲み込まれた時には、結界は先程よりも輝きを強度を増したように見えた。


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