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魔人転生  作者: 210
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序章

「こちら櫻井班。例の集落に到着した。見たところ人の気配が無い。捜索を開始する」

 その日は今年一番の大雨だった。空を覆い尽くすように雲でそんな曇天の中でも昼間の太陽はそれを物ともしないように陽の光を地上へと差し込む。周囲を山々で囲まれた盆地にひっそりとある集落で辺りを囲う山には棚田や段々畑がちらほらと見て取れる。そんなさなかに3人の男達がレインコートを着て立ち尽くしている。その中の一人が無線を切るともう一人の若い男が口を開いた。

「コレが出来たてホヤホヤの廃村なんですかねー。」

 薄ら笑いをしながら言うと、大男が苛立ちを見せながら言った。

「おい、服部。ここにはまだ人がいるんだぞ廃村とまで決まっていない」

「廃村としてまだ決まってないって・・・佐々木さん、さすがにコレだと村としてはもう機能してないと思いますよ。それにまだ居るという確証も無いでしょ」

「その確証を得るのが俺達の仕事だ」

 無線を持った音が割り込んで入ってきた。

「はあ、櫻井さん。ここにいるんですか。人が」

 服部はリーダーの櫻井に質問を投げる。

「さあな、だが報告があった以上捜索をせねばならんだろうし、見つければそれを保護するのは、俺達の義務だ」

「そうだぞ、服部。この世界に入ってしまった以上は仕事に責任を持てよ」

 櫻井の言葉に着け加えるように佐々木は言った。服部は面倒だなという態度を見せながら、ひとつ「はぁ」と小さなため息をついた。仕事中にため息をつくと佐々木がうるさいが幸いなのかこの大雨で聞こえてないようだ。

「分かった。分かりましたよ。こんな廃村に人がいるかわかんないですが。捜索をしましょう。櫻井さん。」

「ああ、それじゃあ二人とも」櫻井は二人に向き合い「これよりこの村の捜索を開始する。くまなく捜索し人を発見次第保護をすること。以上だ」

「了解」

「ハッ」

 佐々木と服部が敬礼をする。そして服部がほほを緩めながら口を開く。

「さあて、見つかりますかね。人か、或いは・・・『化け物』が」


 同時刻、換算とした村の砂利道をしなやかな黒髪を腰辺りまで伸ばしブレザーを着た少女が木の枝を杖にして重い足取りでフラフラと裸足で雨で濡れた砂利道を歩いている。着ている服装からして学生と分かる。

 体が重い、自分の体じゃないような気がしてままならない気分だ。周りを見渡すが、誰もいない。何が起きたの理解できない。少女は重い足取りで自分の村をトボトボと傘も差さずに歩き回っている。

「皆は。皆はどこ行ったの。」

 彼女はここの生まれだ。なにもないようなこの村でずっと住んでいた。昨日までの記憶は今でも鮮明に覚えている。

「昨日は、村はずれの町にある学校に行って、授業を受けた後、部活して帰っていく途中、親に頼まれた買い物をするため町のスーパーへ行って頼まれたものを買って帰って・・・。それでたしかうちの民宿に泊まってた団体さんたち見送っていったんだよね。その後学校の課題して・・・あれ。課題して、なんだっけ」

 ここからの記憶がない。まるで時間を飛ばされたような感覚でこの大雨の中、村を彷徨っている。今どうしてこんな状態になったのか思い出せないのだ。

 ただひたすら彷徨い続けている。右を見れば小さい頃よく遊んだ児童公園があり、反対に左を見れば正月に初詣によく行ったりする神社がありる。今歩いてる道はいつも帰り道使う砂利道だ。どこを見回しても自分が過ごしてきた村であり、自分が最も知る世界の風景なのだ。なのはずだが知っているのに知らない場所、自分の世界の風景なのに別の世界に居るような感覚、自分から最も遠い世界。雨が全身を濡らしていく中、ただただ歩くしかなかった。この曇天の下にある別世界であろうの故郷を歩くこと続けた。

「いつっ。」足の付け根辺りから電流が走るような感覚が感じる。この土砂降りの中の砂利道はぬかるんでおり、一歩一歩踏み込むもグニョリと地面が深く変形をすることは彼女のか弱い足に負担が重い。この土砂降りの中、彼女は「歩きたくない」と思うが同時に「帰りたい」と思う。それが唯一彼女の足を動かす原動力だ。痛みは確かにあるし、歩きたくないのは事実だが、この場所は、彼女の故郷であり居場所だ。そして彼女の帰る場所は家だ。家に帰れば両親が、弟が、祖父母が、家族が居るはずだ。母が裸足でびしょ濡れになった彼女を見て、タオルを持って暖かく包んでくれるだろう。父が裸足でびしょ濡れになった彼女を見て、厳しくも優しく叱ってくれるだろう。弟が裸足でびしょ濡れになった彼女を見て、心配そうに「お姉ちゃんどうしたの?」って聞いてくれるだろう。祖父母が裸足でびしょ濡れなった彼女を見て、安心したような顔で「おかえり」っと迎え入れてくれるだろう。そして彼女はここは別世界ではなく自分の知っている世界なのだと安堵する。その安堵を欲しいが為に彼女は歩き続ける。この別世界のような世界から逃げるように、自分の世界の確証を得るためにその足を動かしている。

 足の痛みを堪えながらしばらく歩くと、村の居住区だと思わせるように民家が目立つようになってきた。その中でも他の民家と比べて雰囲気は同じようだが、やや大きく見える日本家屋が見えてきた。彼女はそれが見えた途端にその手に持っていた杖の代わりに持っていた木の枝を手放し足早に駆け出しはじめた。さっきまであった電流が走るような痛みは不思議となくなっていた。いやむしろ体全体が軽くなったような感覚でさっきまでの疲れも消えてしまったようで、歩くことはおろか杖なしで立つこともままならない彼女がそれを目にした途端に駆け出し、いまや小走りでそこに向かっている。そして彼女はそこの玄関前に着いた。

「つ、着いた…」

 ここが彼女の自宅。村唯一の民宿で玄関には「天」と書かれてた木製の看板のみが特徴的で限りなく地元の生活環境に近い状態で宿泊するというコンセプトで営業している。

 戸を開けて広めの玄関に入る。中は電気が点けてなくて暗く静寂に満ちている。今は昼間で今年類を見ない大雨が降っているのだから、本業の農作業は休みのはずなのにあまりに静かで、まるで人が自分だけな気がしてままならない。だがまだ『誰も居ない』と決まったわけじゃない、とりあえず彼女は、「た、ただいまぁ…。」

 とやや震えた声だがいつも学校から帰ったときの声の大きさで言った。だが、なんの返事も無く静寂がまだ続く。彼女はまた言った。

「たーだーいーまー!」

 さっきと違って伸ばしながらやや大きな声で言う。だがこれもまた同じ、静けさが満ちさ加減がは変わらない。

「ただいまーッ!」

 またさっきとは比べ物にならないくらいの大声で言い、家中が彼女の声が響くのが分かるがこちらに誰かが近づく足音はおろか、誰かが出てくる気配も無い。

 認めたく。彼女の脳内はこの言葉で埋め尽くした。彼女は靴を脱ぎ捨て家中を走る。台所に行っても居間に行っても和室、仏間、座敷、納屋、客室、寝室どこを見ても居ない。ただ宿泊していた客室、両親の寝室と弟の部屋には布団が敷いたままであるというのが彼女には不思議な光景どこと無く思えた。

 きっとみんな私を探しているのだろうと思い自分の部屋に足を運んだ。下手に外に出たところですれ違いになる。そう判断した彼女は休むのも踏まえて一度浴室でタオルを取りに行って体を拭きながら自室に向かった。

 彼女が戸を開ける。

「やあ。おかえり。」

 部屋に入ると彼女の弟と同じくらいはあるであろう身長の少年が立っているのが分かった。だが少年の後ろには窓があり、逆光で彼の顔はよく見えなくまるでシルエットかのような感じが出ていたが、彼女はそれが弟では無いとすぐに分かった。

「あなたは…誰…?」

「おや?もう忘れたのかい?君が会いたいって言ったじゃないか。」

「忘れたって…私はあなたのこと知らないわよ…。」

「そんなの当たり前じゃん。だって僕と君は初対面だもん知らなくて当然だよ。」

 少年はやや小馬鹿にしたような態度で言った。

「だけど僕は君が僕に会いたいと願っていたのは知ってるよ。」

 何?新手のストーカー?彼女はそう思いやや身構える姿勢を見せた。

「私が会いたいって言ったどころか願った覚えもないんだけど。」

「あれ?それはおかしいな?」

 少年は頭を掻きながら行った。

「君は確かに言ったはずなんだ。僕に『契約』の言葉をあの時、夜の森の中で君は言った筈だよ。夜叉になっても構わないって。」

「な、何を言っているの?わ、私はそんな事言った覚えは無いってさっきから言ってるじゃない。それより皆はどこ?私の家族は?友達は?私の大切な…」

「もう気づいてるんじゃないの?」

 この言葉に彼女はこの少年にすべて見透かされていると思い、ビクっと体を震えさせた。

「もうこの村には誰もいないよ。まあ厳密に言うと君と僕、あと招かれざる客人が少なくとも3人かな。もっと厳密に言うと僕を含めるのもどうかと思うけどね。」

 あっさりだ。自分が恐れていた事をあっさりと現実だと突き付けられた。ここが別世界なのだと言われた。だが確証が無いこの少年の言葉が確かなのかという証拠が。

「そ、そんな言葉…だ、誰が」

「じゃあ聴いていいかな?」

 彼女はまたビクッと体を震わした。

「君があの森を抜けて公園と神社の前を通りここまでトボトボ歩いて来たとき誰か人を見なかったのかい?」

「そ、それは」

「偶々見なかったってことはありえないよ。村の人全員が君を探すためにまんべんなく人を配置するのが自然さ。それに家に帰っても人がいない。ここは確か民宿だったよね。家族はおろか宿泊客もいない、しかもみな布団を敷いたまま。あまりに不自然とは思わないのかい?もし君が捜索隊の穴を偶々突き抜けたとしてもすれ違い様にならないように君の家に必ず誰か居る筈だ。ましてや宿泊客まで捜索してるとは到底考えられない。」

「じゃ、じゃあここは」

「僕は君の願いを叶えるために君に会いに来たんだよ。さあ、おいでよ。僕が君を手伝ってあげるよ。」

 少年はスッと右手を差し出す。今この状況下で自分の行動を完全に把握していて気味が悪いが信用できるのは彼だけだ。

「『契約』って?」

「ん?」

 少年は首を傾げた。

「あなたさっき行ったじゃない。私が契約の言葉を言ったとか。」

「今君に教えてもそれを信じるかい?」

「あなたは私がここまで来るまでの事も全部知ってるみたいだし。それに三人知らない人達がいるって言ったのも気になるけどあなたは此処で起きたことを何もかも知ってるぽい。だから私はあなたを信じる。」

「ふうーん。」と少年は笑っているかのような感じで言った。

「君はすごいね。こんな状況下で尚且つストーカーのように君を知っている僕を信用するなんてね。案外冷静なんだ…。まぁ、いいや。確かに僕は何でも知ってるよ。世界で起きてる戦争で誰が誰を殺したことから、今どこかの蟻が何を運びながら地面を這って巣穴に持っているのかもね。だけどね、そんな僕にも知らない事がある。」

「知らない事?」

「そう、それはね。人の『未来』そして『思想』だよ。」

「未来?」

「そう未来。原因があるから結果が起こる、このくらいの事は僕にだって分かるよ。だけど人間は何か原因があって結果まで行く過程で人それぞれの考え、思想を持って行動することがあるんだ。それがたった一つの原因だとしても数えきれない程の可能性で結果が変わる。それは時として世界を変えてしまうことだってあるんだ。まぁ、こればかりは神様も知らないんじゃないかな。知ってたら一週間で世界を作って責任放棄した神様は宇宙史上最高無責任者になっちゃうからね。だけど君は未来を知るとなんかよりも『真実』を知りたいんじゃないかな?」

「私が知りたい『真実』…」

「君がそれを知りたいならこの手を取るといい。」

 少年は差し出した右手を彼女の前までつき出していく。この手を取ることは恐らく『契約』を意味する。だがこの少年の言う『真実』が知りたいというのはあながち間違いではない。この村の住民がいないこの別世界で一体何があったか知りたいことは真実だ。

 彼女はその手を取ろうと右手を出そうとした。

 ガタッッ。その瞬間、ほぼ同じタイミングだった。玄関の方から戸が乱暴に開く音が聞こえた。彼女は誰か帰ってきたとその同時、少年の言葉が脳内に横切る。

 『招かれざる三人の客人』そして間もなくここに来たものがそれだと理解した。

「佐々木、服部。二人共聞こえてるか?たった今村の民宿に・・・・」

 落ち着いた男の声が聞こえた。

「早くしたほうがいいよ。」

 この言葉によって彼女は安堵ではなく、不安が心を満たしていく。今この場で最も信用できるのは彼だが、警戒するべきなのは未だ変わりない。彼女はこの葛藤に苦しんだ。


「佐々木、服部。二人共聞こえてるか?たった今村の民宿に到着した。どうも誰か入っていった跡がある。玄関から廊下にも水浸しになってる。お前ら此処に入ったか?」

「いんや。入ってないっすよ。」

 服部の軽い口調で否定した。

「俺もそこの区域はまだ捜索してないので入っていない。」

 佐々木も同じように否定した。

「だとすると居るかもしれませんね。保護対象が。」

 服部が言った。

「かも知れないな。流石に俺一人だと『危険』だ。お前ら此処に向かってくれ。」

「了解。」

「はいはい。俺は遠いのに…」

 二人が到着したのは連絡して十五分ほど過ぎてからのことであった。装備していた拳銃のチェックをしていた櫻井達に緊張感が走る。普段から無駄口や皮肉を言う服部も到着してから口が開かなかった。

 櫻井が二人に目配りをし頷くと二人も何も言わず首を縦にふると、指を二本立てフッと中に向かて振ると三人とも土足のまま民宿の敷居を跨いだ。玄関から上がってすぐの廊下は左右二手に分かれており誰かが歩いたであろう水の跡が廊下の奥まで見て取れる、それに比べて左には僅かながら濡れているがかなり手前までしか濡れていない。しかし、薄っすらと足跡が残っている。ここから突き当たる奥の部屋まで五メートルほどの距離だが三メートル近くまで行くと足跡は消えている。この二手の廊下見た櫻井は佐々木の肩をポンと叩き、右の廊下に向かって指をさすと佐々木はそれに従って無言のまま二人から離れて一人右側の廊下へと向かって行った。

 この水の跡を見る限り、確かに誰かが歩いたであろう水の多い右を優先して捜索するのが常套手段ではある、更には今回の保護対象は三人共危険なものだとしているのだから佐々木一人で行かせたのは間違いだ、しかし左の廊下側には薄っすらと足跡が三メートル程まで徐々に薄めながらだが残っている。これを見る限り、保護対象はこの大雨の中で傘もささずに外を歩いていて、この民宿に入って右の廊下を歩きまわっていたのだろう。その後、さすがに水浸しだから気も害してきたのであろうに、バスタオルで体を吹きながら左の廊下に行ったのだと櫻井のみならず一緒にいた佐々木も服部も容易に想像できた。つまり、今現在その保護対象が左の廊下に続く部屋に居ることが可能性としては高いのだ。かと言ってその後また右の廊下に移動した可能性も否定できない。佐々木を行かせたのはいわば保険の為に行かせたようなものであるが、この櫻井が佐々木を高い信用と技術を評価しての彼を選んだのだ。

 佐々木が右に進むと同時に櫻井は左へと進み服部も櫻井に背中に合わせるような状態で佐々木を見守りつつ後ずさりしながら櫻井に続いた。玄関から歩いて三メートルほど歩いて床を見た櫻井は、今にも蒸発しそうなくらい薄っすら残る足跡を見ると、まっすぐ奥に向かって足が向いている。この先にある部屋は突き当りにある部屋しかない。これを確認し間もなくである

 ゴトッ――この先二メートルの今まさに目指そうとした部屋から何かが落ちたような鈍い音がした。その場に居た服部は身構え銃を向けようとが、櫻井は右手を肩よりやや上まで上げた手信号でそれを静止させた。後方五メートルほど離れた佐々木もその場に留まり櫻井たちの様子を見守っているが、その手に持つ拳銃の引き金に指が掛かっていた。

 再び手信号で佐々木にそのまま留まるように指示し、服部と一緒にその音のした部屋へと目指す。もう目と鼻の先に対象があるのかもしれない。ただそれは『危険』なものとして扱われる事もこの捜索のブリーフィングを受けている三人、佐々木は引き金に指を掛け、服部はカチリと撃鉄を引く音を出し、櫻井は唾を飲む。じわりじわりと近づく戸の距離に比例するかのように心臓の動きが早くなっていく。そして間もなく戸の前へと二人は辿り着く。

 櫻井が戸に手をかけると、後ろに居る服部は佐々木に目配りをする、それ見て佐々木がコクリと小さく頷くのを見て櫻井の肩をポンと音も無く叩くと櫻井はやや強引に戸を開け、拳銃を構えて部屋へと入り、服部もそれに続き、入口辺りで止まった。

 部屋の真ん中で齢十六ほどだろうの少女が寝転がっていた。いや、倒れていたと言ったほうが正しい。部屋には小物や女性物の服などがあるからして恐らく彼女の部屋だろう。少女の口元に手をかざす、まだ息がある。入り口にいる服部に目をやるとそれに目を合わせる、服部がコクリと頷くと廊下に居る佐々木に手信号で散策の再開を支持した。

 佐々木が散策から戻って二人に合流したのは開始して十五分ほどだ。

「どうだ?」

「いえ、この民宿に居るのはその子だけみたいです」

「そうか」

「んで?この女の子が『保護対象』なんですか?」

 服部が聞いた。

「さあな、だが流石に此処に放置するのも忍びないしこの娘を保護対象と決めるのは我々じゃない」

「へぇ~」と言いながら服部は部屋の中を物色しだす。

「お、おい何やってんだ?お前は」

「何って部屋漁ってるんすよ。なかなか無いですよ女の子の部屋に来るの」

 佐々木は服部に無言で軽蔑するような目で見る。

「なんすか?」

「いや、お前って結構変態癖があるんじゃないの?」

「な、んなわけ無いでしょ!男だったら――」

「佐々木」

 服部の反論を遮るように櫻井が口を開いた。

「はい、何でしょう?」

「山狩りの部隊からの連絡は来たか?」

「えぇー、捜索開始して二時間ほど経過したほどに意識不明の少年を発見したようです」

「こんな雨に山の中で居たんですか?大丈夫なんすか?その子」

「今、本部にて保護しているよ」

「じゃあ我々も一人発見したから本部から人を出来れば女を寄越すように言っといてくれないか」

 倒れている少女の着ている制服はずぶ濡れになっていた。この民宿の廊下見た時の櫻井の予想大方会ったっていたようである。だが、この少女をこのままの格好にする訳には行かないかと言って男三人が着替させるのも無理がある。そう判断した櫻井は本部から女性隊員を寄越して彼女を回収するように佐々木に支持をした。

「本部から十分程度で到着するようです」

「相変わらず早いですねぇ……。俺らは徒歩で彼らは車ですか、っと」

「まだ漁ってるのかよ」

「何か見つけたのか?」

「いえ、学習机調べてると教科書を懐かしさで開いてたりしたものですからって言っても俺勉強嫌いでしたけどね」

 二人が-鼻で笑うと同時に外から車が近づく音が聞こえ、入ってきたのは無線で言ったおり女性隊員が一人民宿に入ってきた。櫻井はこれまでの経緯を伝えて引き継ぎを頼んだ。

「承りました」と女性隊員がいうと櫻井は二人に捜索再開を指示し、部屋を後にしようとした時だった。服部がピタリと足を止めて少女に目をやる。

「それじゃあ頑張ってね…………『結城りえ』ちゃん


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