1。
「あ、兄さんお帰りなさい」
「お帰り兄ちゃん!」
「アンタ頼んだもの間違いなく買ってきたんでしょうね?あとお帰り」
おう、今帰ったぞマイファミリー+1。
+1はまず気にする所がそこか。
「アンタ安いからって違うの買ってくるじゃない。牛乳と低脂肪乳は違うもの、バターとマーガリンは違うもの、OK?」
「まあまあ比奈ねえ、兄ちゃんは家の大黒柱、働いて私達を養ってくれてるわけだし」
「少しくらいは気にしないよ。それにほら、低脂肪乳は低脂肪乳でおいしいよ」
ええいお前ら、とりあえず俺に荷物を置かせて着替えさせてくれんか。
あと俺が間違って買ってるの前提なのか。
確かに安いのがあるとそちらを買って来てたのは認める、ああ認めるとも。
だが俺だって成長する、25歳にもなればはじめてのおつかいだってしっかりこなしてみせらあ。けど生理用品だけは勘弁な!
「兄さんそれセクハラだよ……」
うむ、ノリで言って若干後悔している。だからそこの女子二人、通報の準備はやめていただけないだろうか。
ほらほら、おみやげもあるぞう。
「物で釣ろうなんて思わない事ね!」
「でももらってあげてもいいんだからね!」
「ツンデレ乙……だね」
だな。
まあそれはともかく、頼まれてたの買ったら抽選券を貰ってな。回したら特賞だったんだ。
中身は何か確認してないが、まあ特賞と名の付くくらいだ、きっとすんごい物なんだろう。
「中身確認してないのアンタ」
うむ。なんだかよくわからんが家で開けてくださいとの事でな。
「それで素直に持って帰ってきたの……アンタ本当にアホよね」
「兄ちゃんだし」
「兄さんだしね」
俺だしな。まあ、それなりの重さと音からして何かの機械だとは思うが。
着替えてくるから開けてみてくれ。
居間に戻ってきたら家族がサイバーな見た目になっていた件について。
「ほらほら双子ちゃん、アホがアホ面して見てるわよ」
失敬な、これでもそれなりに整った顔付きとご近所の皆様に評判なんだぞ。数回は通勤中に告られた事もある。何故か次回会った時には怯えながら無かった事にしてくださいと謝られるが。なんでも夜道で急に襲われて俺と付き合うなと脅されたらしい。
「へえーふしぎなこともあるものねー」
まったくふしぎなこともあるものだよなー。
「はいはい、夫婦喧嘩はそれくらいにしてねー、話進まないから」
「兄さん、これすごいよ!ドリームパスだよ!」
あー、その頭に被ってるサイバーなヘッドセットの事か?ドリームパスって。
「そうだよ!アングラで出回ってる好きな夢を見るための機械!」
「話には聞いた事あったけどねー、まさか本当にあったとは」
ははあ、それでオカルト大好き弟くんは大興奮してるって寸法か。
妹ちゃんも被ってるのは何故?
「二つ入ってて余らせるの勿体無かったし。あ、ごめん兄ちゃん使いたかった?」
いや、別に?後で借りればいいだけだしな。
「残念、アンタハブよ」
「ごめん兄さん、これ初期登録した人にしか使えないんだ」
すげぇ。何そのハイテク。
どういう仕組みなんだそれは。
「こういう謎の機械にはよくあるでしょうよ。テンプレテンプレ」
よく無いよ。謎の機械言うなオタクめ。テンプレとか知らんし。
「前に貸した本に書いてあったでしょ?まさか読んでないの?アタシがわざわさ貸してあげたのに?」
あー、うん、暇が出来たら読むつもりだよ?
「間違いなく読まないよね兄ちゃん」
「新聞は読み込むのにね」
社会人ですから。ネット情報より紙に印刷された字を読みこむ。これが大人ってもんよ。
それはともかく、そんな機械で夢を自由に見れるとはなー。危ない事とかないの?
「見れる夢は一応基本パターンにカスタマイズを加えていく感じだね。ファンタジー世界で、王様になるとか」
「倫理に反する事とかは強制的にシャットダウンするみたい。殺人とか無理にしようとすれば機械自体が壊れるって説明書に書いてあった」
ほう、夢の中とはいえそこら辺はしっかりしてるな。
危ない事が出来ないようになってるならまあ、使ってもいいかな。
変な感じがしたらすぐに没収だからな?
「うん」
「りょーかい」
まあ、とりあえずは今日の夜にな。まずはメシを食おう。
家政婦さんや、飯はまだかいのぅ。
「さっき食べたばかりでしょうおじいちゃん。ってボケは置いといて、アンタが珍しくちゃんと食材買って来たからほぼ準備完了よ」
そりゃありがたい。よし、一先ずメシだ。
「兄ちゃんおやすみー。比奈姉は泊まり?」
「今日は帰るわ」
「じゃあ兄さん姉さん、おやすみなさい」
おやすみー……いや、待ちなさい。何故同じ部屋に入る。
近親相姦はいかんぞ非生産的すぎます。
「すすすするわけないでしょ!?バカ兄ちゃん!」
「コードで繋ぐと一緒の夢が見れるらしいからね。試してみようと思って」
おやおや、はやとちりだったな。すまんすまん。
「まずその発想になるあたりどうかと思うわアタシ」
「兄ちゃんだし」
「兄さんだしね」
俺だしな。ま、よい夢を。
「おやすみ二人とも」
さて、母さんや。
「何よ、乗らないわよ。……わかってるわよ、帰ったらドリームパスについて調べておく」
助かるよ。許可は出したとはいえ、やっぱり話聞いてるだけだと胡散臭いにも程があるしねぇ。
「アンタって本当、ファミコンよね」
家族思いと言っていただきたい。