腕のいい鍛冶屋さんが、
残酷な表現、流血あります。
苦手な方はお気を付けください。
カン、カン。
騒がしい音の渦の中、その音だけは琴を奏でているような美しく澄んだ音色を奏でていた。
鍛冶工場の一角で汗を流しながら、一心不乱に刀を叩く男。
その男が叩いている刀は、なぜか綺麗な琴の音がした。
フッと、刀を目の前で滑らせる。
キラリと、見る者を魅了する不思議な輝きを放つ刀。
それを見る男の目は、見るものが竦み上がってしまうほど鋭く、妖しかった。
男は、刀の出来に満足したのだろう。その刀を鞘に納める。
――――試し切りに、行ってくるよ。
自分の仕事仲間にそう言い残した男は、そのまま行方が分からなくなった。
月が優しい光を地上に投げかける、夜更け。
男は、気配を殺して女に近づく。
自分の目の前で、馬鹿みたいに男と笑い合っているあの女。
許さない。許すものか。
深く黒い感情が、醜く男から溢れだす。
チャンスは今しかないのだ。
この女に復讐するチャンスは、たった一度きりなのだ。
興奮と恐怖で、刀を持つ手が震える。
手に握った汗で滑る刀をもう一度強く握りなおすと、大きく振りかぶって刀を空気中に滑らせた。
重く生々しい手ごたえ。
悲鳴をあげかけた傍らの男にも、同じように切る。
声一つ上げることもできなくなった肉片を呆然と見降ろし、男はつぶやいた。
――――うまくいった。
うまくいった。けれど、それでも満足できていない自分が、心のどこかにいる。
もう一度高く、刀を振りかぶる。
辺りに血しぶきが飛び、着物が紅く濡れる。肉を深く切りすぎたのか、視界に白いものが写る。
もっと、もっと。
己の欲望に忠実になり、刀を何度も振り上げる。
もっともっと殺すんだ。人であったことさえも、分からないくらいに。
男は狂人に成り下がっていた。自分でも、知らず知らずのうちに。
目の前にいたはずの男女はただの肉塊になっていた。
男が望んだように、人であったという原形でさえも留めていない。
肉の塊が男のものであるか、女のものであるかもよく分からない。
それほどまでに、男の復讐心は強烈だった。
あの、狂気の晩以来。
男と刀は地を彷徨うようになった。
負の感情で覆われてしまった男と、人を殺すためだけの刀。
正義も良心も、欠片さえ残っていない。
ただ己の本能のままに、欲望のままに。
闇に浸かったモノには、もう一筋の光さえあてられない。
ただ闇の中を、足掻きもがいて、死んでゆくだけ。
死ぬのを、待つだけ。
はじめまして。もしくは、お久しぶりです。
作者の空猫月です。
今回は、連載の息抜きに投稿しました。
この作品は、2年ほど前にルーズリーフに手書きしていたものを、修正・加筆したものです。
ラストが綺麗にまとまっているか不安なので、よければ感想などでご意見をお聞かせください。
ちなみに…
ソラは怖いの苦手だよ!
なんでこんなの書いちゃったのか、まったくもって不明だよ!!
以上、作者からでした。