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魔王降臨

作者: 些阨社
掲載日:2026/03/10

 「はははは! お前の命はこの手の中にある事を忘れるな!」

 崩れた泥のような醜い魔王は俺にそう言いった。俺は従うことしか出来ずにいる。

 俺は不死身だ。奴に命を握られているとは、死ぬことも奴次第と言うことだ。

 一九九九年七月、件の予言の通りに空から魔王が振ってきた。魔王とはその醜く恐ろしい姿から皆が勝手に呼んでいるだけで、その本当の名は誰も知らない。そして恐ろしいのは姿だけでは無い。ヤツが俺に、俺たちに命じていることが正に悪魔の要求だからだ。それは

 「十になる前の子供を日々百人殺せ」

 こうも言った。

 「出来なかった場合、選ばれた者達以外生きながらに石像へと変えてくれようぞ」

 そう言うと魔王は居城に籠った。会えるのは我々と選ばれた子供達だけ。それもカーテン越しにだ。シルエットのみでもその悍ましさは身に刺さる程だ。

 魔王の言う十になる前とは所謂第二次性徴が始まる前の子供のことらしいが、まるで生贄かのように奴の前で子供が首を撥ねられ死んでいる。その目的は不明なまま。そんな中にあっても、大人達は涼しい顔をして、以前と変わらぬ生活を送っている。自分は対象じゃなくて良かったとさえ思っているだろう。俺は最初気が狂いそうになり自ら死を選んだ。しかし死ねなかった。痛みは一瞬で消える。身体は元通りになる。

 俺はとある宗教の僧侶やら牧師やら神父やらと言われる類いの、所謂聖職者と言う立場にあった。迷える人を導く手助けをしていた日々が一転、魔王が降臨したときに世界中の同じ様な職にある者たちが一斉に奴に囚われ、今までとは真逆に、まだ迷う事を知らぬ無垢な子供達を供物に捧げる非道な魔王の手先となってしまった。これを悪魔の所業と言うのだろう。神は何という試練を私達にお与えになったのか。

 試練の日々を暫く続けていると、小さいながら反抗分子が組織され抵抗してくるようになった。その指導者は若くしてカリスマを発揮し何年か経つ頃には多くの人間が彼の元へと集まっていた。そんな反抗分子の活動は無視できないものとなり、子供を集めることが困難になってきた。このままではいけないと、俺達は討伐部隊を編成して反抗組織撲滅へ乗り出した。しかしかなり巨大化した反抗組織にあって、指導者を探し出すのは中々に骨が折れた。たが、俺達は不死身だ。探すのは大変だったが時間の問題だった。

 「中々、強引なことだね」

 服をズタボロにされ、所々にナイフが突き刺さったままの俺を見て、部屋で一人がけソファに座る指導者は悪びれること無く、少し笑む様な余裕も見せながら言う。

 「悪いが死んでもらう」

 そう言い銃を突きつける。

 「ふふふ。俺を殺しても無駄だよ」

 「次の指導者が居ても俺達がまた殺すだけだ」

 そう、表の一人を消した所で結局はただの傀儡、その後ろに黒幕か何かしらの思想集団がいる限り、これはイタチごっこなのだ。

 「違う違う、そうじゃない。《《俺が顕現したこと》》が手遅れなんだ」

 「なんだと? 顕現などと大仰な言い方だな。お前は神か何かだとでも言うのか?」

 「……ふむ、少しお話をしようか。いやいや、逃げたりしないよ。君達も時間はあるだろ?」

 指導者は深くゆったりと腰掛けたまま、此方を見る。俺は仲間に目配せをして扉を閉めさせた。

 「あ、誰も来ないから安心してくれ」

 と指導者は前置きをしてから話しだした。

 「なんで君達の言う魔王は俺を殺そうとしなかったと思う?」

 「お前なんか眼中になかったからだろ」

 「ふふふ。違うね、本当は俺を殺したく無いからさ」

 「バカな」

 無垢な子供を毎日大量に殺しておいてそれは無い。人の命など何とも思って無いから魔王なのだ。

 「話しを変えようか。とある経典で神はその意思で数百万人殺したそうだ」

 「仕方のないことだったんだ」

 「そう、しかしそれ以降神は大規模な殺戮を行っていない。何故だと思う?」

 「人を試しているんだ。最後の時にそれは審判される」

 「ぶー、残念。人が君達で言う悪魔寄りになったからだよ」

 「悪魔寄りになったら尚殺すだろ。悪魔崇拝者をのさばらせるなんて以ての外だ。俺も自分を殺したくて仕方ないんだ」

 「んー、じゃまた話しを変えよう。君は宇宙人を信じるかい?」

 「バカにしているのか!」

 話しが突飛過ぎて思わず銃口を指導者の額に押しつける。しかし彼はどこ吹く風と飄々と喋り続ける。

 「宇宙人はね、居るんだ。いや、宇宙意思と言うか、存在。この宇宙全てが一つの意識、人格。宇宙そのものが宇宙人なんだよ」

 「空想話しは止めろ」

 「人間は宇宙意思の海に突如発生したシャボン玉、泡にきり取られた意識なんだよ。魂と言うかな。大いなる宇宙から切り取らたシャボン玉の中にある宇宙意思……。君達風に言えば肉体という入れ物に、大いなる神が息吹を吹き込み誕生した人という存在……。そう、君達の言う神ってのはその宇宙意思であり宇宙人なのさ」

 「無理があるだろ」

 「しかし神と切り分けられてから随分と時間が経って、人は元のソレとは別物と言えるほど異質になってしまった」

 コイツは俺の話しなど意に介さないようだ。しかし何故かヤツの話し声は心地よく、すんなり頭に入ってくる。

 「で、ここからが大事なんだけど、全てが自分だった空間に自分とは違う異質な魂が混ざってきたもんだから当然神は邪魔に思う。彼は寛容ではないからね。そしてその邪魔なモノに名前を付けたんだ。神の敵と言えば」

 「悪魔……」

 「そう、現代では人間が産まれてから歳をとって死ぬまでの間で人は知恵を得て賢くなる。人が人らしく生きるとそうなるのは必然なんだけどね。ある伝承では悪魔が人を誑かして知恵を付けさせたとあるけど、神にとって自分以外が持つ知恵は忌避されるもの、穢れなんだよ。で、そんな人が死ぬ、シャボン玉が割れると宇宙は穢れた魂で埋まっていってしまう。すると神の純粋な魂の割合が減ってしまう。それは今となっては抗いようもない時間の流れなんだけど、でもそれに微力ながら抗う方法が一つだけある」

 「なんだそれは……」

 「わからない? 穢れる前に魂を宇宙に返すことさ。即ち何も知らない子供を殺して、宇宙の、魂の純度を保つことだ」

 まさか、神は自身の為に、利己的な理由で無垢な子供を生贄にすると言うのか。

 よく分からくなって来た。神は人を殺し、子供を殺す……。悪魔は……?

 「ふふふ、悪魔は何もしない。人が勝手に知恵を得て、穢れて行くからね。悪魔が人を誑かしてって話しは実は逆でね、人が知恵を持った穢れから悪魔が産まれたのさ」

 「待て、今までの話しとお前と何の関係があるんだ? 神と悪魔の話しであってお前には関係の無いことだろう」

 「察しが悪いな。俺は悪魔だよ。宇宙で膨れ上がった穢れた魂そのものが人の形になったもの。そうだな、ルシファーとでも呼んで貰おうかな」

 「バカな! お前が悪魔なら何故魔王に抗うんだ! 何故……」

 「いやいや、もういい加減解ってるよね? 解らない訳ないよね? 君達が毎日子供を差し出している彼。醜く横柄で自分の事しか考えていない彼。彼の本当の名は……」

 「言うな! 言うんじゃない!」

 「君達は今、最高に幸福な筈だ。何故聖職者たる君達が選ばれたのか。分かるだろ? 彼の言葉を直接聞いてその御使いに代わりこうして無垢な魂を捧げている。まさに天の使いだ」

 「ああ、ああああ……」

 「実はね、彼からコンタクトがあったんだ。そしてある協定を結ぶことになったんだ」

 「協、定……?」

 「俺が穢れの塊だって言ったよね? 俺が顕現したことで宇宙から大部分の穢れが消たんだ。宇宙から分離されて俺という型に押し込め隔離してるってこと。その作用に目を付けて彼はこれから産まれる悪魔を顕現させてこの地上に住まわすことを約束したよ。そして俺達の要望は……」

 ルシファーはニヤリと冷たく微笑む。

 「徹底的に反抗することさ」

 「そ、そんなことして何になる……」

 「人が死ぬ。大人がね。子供を守るために沢山死んでいくだろうね。そして君達を滅ぼさんが為に沢山研究をして知恵も付くだろう。俺達は戦わない。ただ知恵を与えるだけ」

 「そんな……」

 「それとあと一つ約束したことがあって」

 「……なんだ?」

 「君達に命を返すってこと。君達が此処に来たら返すようにお願いしてたんだ」

 「なんだと……」

 ルシファーの背後から大勢の兵が現れた。

 「願いが叶って良かったね」

 ルシファーが指を鳴らすと兵達は一斉に銃を放ち敵を一掃した。

 

 その後のルシファーの足取りは掴めない。

 世界では争いが絶えず、人間は新たな技術の開発に余念がない。

 新たな指導者が消えては現れる。

 この先にあるのは天国か地獄か。

 何方にしても我々は苦しみの最中に立たされるのだろう。

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