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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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78 始動


「うーん。思ったより減らないなぁ」


 人間たちが、慌ただしい様子で町を後にする。


「この世界にも、怪しい奴から物を貰ってはいけないっていう常識はあるんだな」


 現在俺は、かねてから狙っていたスライム領と最も近い人間の町の、門から少し離れたところに立っている。


 目の前には机があり、スライム領特製保存食セット〜現金付き〜が山のように積まれていた。


 町の森側、北の方角からスライムをけしかけ、町民を追い出し、その反対側で俺が逃げゆく人間にこの保存食セットを押し付けるという作戦を遂行中なのだが、スライムの方とは違い、こちらはなかなか上手くいっていなかった。


 とはいえせっかく作った保存食セットだ。できるだけ活用してもらいたい。


 飯がなければ森で自給自足の道を選んでしまう可能性もゼロではないし、無一文の状態では”この先の町で受け入れてもらえない”かもしれない。


 こいつらには、周囲に俺たちのことを伝えながら、ぬくぬくとこの国を南下していってもらわなければならないのだ。


 それからはその場で乾燥肉を焚き火で炙って食うという実演をして見せたり、ゴーレム領から届いた硬貨――しかも小さいとはいえ金貨を見せびらかして、強引に保存食セットと共に押し付けたりしていた。


 その甲斐あってか、少しずつではあるが保存食セットも人の手に渡っていった。特に金貨の力は偉大で、これを見せると人間どもはわかりやすくこちらに注意を向けてきた。


 この町に住む人間からすれば、町が魔物に襲われるという非常事態なのだが、それでもやはり金というのは人の目を惹くものらしい。


「いや……こんな事態だからこそか」


 自分で起こしたことながら、大変だねぇと他人事のように人間の大移動を見ている。


 大移動といっても、この町は規模の割に人が少ないようで、それほど数が多いというわけでもなかった。


 そんな、逃げていく人間のピークも過ぎ、逃げ遅れた奴らがちょろちょろと門を抜けて街道に出てくるくらいになった頃、今までの人間とは少し姿の違う一団が現れた。


 複数の兵士を連れた、高貴そうな女と男だ。


 ――周りに兵士を侍らすあの感じ、あいつを思い出すな。


 俺の領に攻めてきた人間の群れ。それを主導していた、最後は俺に頭を叩き割られた男。


 さすがにそんな権力者っぽい姿をしている奴に営業をかける気はなく、俺はローブのフードを目深に被る。


 このローブは以前スライム領にやってきた、白ローブのパーティが着ていたものだ。


 ……今思えば、あいつらからこの人間との闘争が始まったんだよな。


 今の俺はその白いローブに、革製の鞄を背負っているという見た目だった。


 そうやって権力者っぽい集団をやり過ごそうとしたのだが、どうやらそいつは俺に興味を持ったらしい。


 ごにょごにょと訳のわからない言葉を発し、兵士のうちの1人がこちらに近づいてきた。


 俺はすぐに、小声で背中の鞄に”伝言”を伝える。


 すると、返答代わりに鞄がモゾモゾと動いた。


「〜〜〜〜〜〜〜」


 その兵士は机を挟んだ俺の前に立ち、何かを喋りかけてくる。

 

 ――ま、こんな怪しい奴見逃してもらえるわけないよな。


 人々が逃げていく中、フードで顔を隠して謎の包みを配る男。


 ここが日本なら1発で通報案件である。


 残念ながら俺はこいつらの言葉がわからないので、言い訳をすることもできない。


 仕方ないので目の前の包みをひとつ開いて、かぶっとかじってみせる。


 ――しょっぱ!


 しっかりと塩漬けにされたそれは、保存性を手に入れると同時に強い塩味も一緒にその身に宿している。


 しかし味わうのではなく、生きるための食事ならこれくらい塩分があってもいいだろう。


 どのみち水は自分たちで確保するか、くたばる前に次の町に到着しないといけないのだ。そこら辺はうまくやってほしい。


 その硬い肉のひとかけをぐにぐにと咀嚼し飲み込んだ後、お前も食えといわんばかりに兵士にも押し付けようとする。


 しかしそんなものを護衛の兵士が手に取るわけもなく、声を荒げてこちらを睨みつけてきた。


 ――この世界の常識はわからないけど、今の俺の行動は世間的にはどれくらい危ないものなんだろうな。


 高貴そうなお方の護衛をしている兵士の前で、質問を無視してもなんの悪びれる素振りもなく、突然食い物を渡してくる。


 もしかしたらその場で切り捨てられるとか、そんなレベルの無礼を働いているんじゃないだろうか。


 その証拠に、目の前の兵士は口角に泡をつけ、ぎゃーぎゃーと俺に向かって何かを叫んでおり、ヒートアップしてきているのは明らかだった。


 おそらく何かを聞かれているのだろうが、俺にはその答えどころか、そいつが何を言ってるのかもわからない。


 そうやって目の前で顔を赤くする兵士をぼーっと見ていると、そいつの右手が左腰に下げてある剣の柄に伸びた。


 ――ほう。


 もうやっちまうか。


 別にこいつらにおもねる必要はない。揉めるくらいなら、ここで殺してしまっても俺は構わない。


 ――ちょうど人もいなくなってきた頃だしな。


 と、そう思い始めた頃。


 町の方がぺちぺちと騒がしくなってきた。


 ――やっときたか。


 俺からすれば耳馴染みのある、しかし、目の前のこいつらからすれば得体の知れないその音に、そいつらは一斉に顔を町の方にやった。


 そこには、門を抜け、外壁を飛び越え……数多のスライムたちがこちらに向かって跳ねている姿。


「〜〜〜〜!」「〜〜〜っ!」「〜〜〜〜〜!」


 そいつらは顔を青くして、すぐにその場を走り去っていく。


 そりゃそうだ。兵士は何のために偉そうな奴を護衛しているのか、偉そうな奴はなぜ護衛の兵士を侍らせているのか、それを考えればこの結果は当然だった。


 よほどの戦闘狂じゃなければ、自分の命が何より大事だ。


 そいつらはもう俺のことなど気にもしていないだろうが、スライムたちの群れの中で普通に棒立ちしているのは明らかに不自然なので、こてんと倒れて死んだフリをしておく。


 このスライムたちの最後の押し出しにより、町から出ていく人間もいなくなったようだ。


 これにて、今回の作戦の約半分は終了である。


 念の為しばらくの間地面に伏していたが、流石にもういいかと思い体を起こす。


 辺りを見回すと、人の姿はなく、そこには俺を囲むようにしてこちらを見るスライムたちがいた。


 ……。


 こんなとこ人間に見られでもしたら、たとえ死んだフリをしていようとも俺に何かあるというのはバレバレだろう。


 ……まぁ少しくらいならバレても別にいいんだけどさ。


 それに結果的に人間はいなかったんだからいいだろう。と、俺は演技のできないスライムたちをむにむにと撫でる。


「よし! 町に戻るぞ! ここからはご褒美タイムだ!」


 何をするのかわかっているのかいないのか、それを聞いてスライムたちもぴょんぴょん跳ねて全身で喜びを表す。


 もしこいつらが喋れるのなら、『ウォー!』と雄叫びを上げていたことだろう。


 今からする活動は、そんな好戦的なスラちゃんたちにはぴったりの作戦だった。


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