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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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76 造形師


「ヨカッタ。イツになったらまたアノような素晴らしい作品に出会えるのかとヤキモキしていたゾ」


 ――さいですか。


 まぁあの模型を作るのに手間はかからないし、それだけでこのでかぶつが帰ってくれるならいいだろう。


「じゃ、そういうことで。さようなら〜」


 と、これが顔を合わせる最後の機会ということを願って、軽いノリで別れを告げる。


「マタれよ。コチラからも何か返礼をしたいのダガ、あなた様は交易でも欲をお見せにナラン。何かオレに出来ることはナイカ?」


 えー。


 そんなこと言われてもな。今パッと思いつくものはない。


「いやいいよ、岩塩だけでも助かってるし」


 それにこの交易は損得だけでやりたいという気持ちもある。相互扶助の面が強くなって変に連帯感とかが出ても面倒なだけだ。


 こいつが恩を感じる必要はないし、俺も貸しを作ったつもりはない。


「ムゥ。あなた様はヒト族であらせられるナ? それにしては欲のないヒト族だ……」


 欲が無いわけではないのだが、欲しい物の方向性が違うんだよな。俺が求める強さというのは、結局のところ俺らが自力で掴み取るしかないものだ。


 ……なんて、立派なことをのたまっているのだが、次に続く玉子型ゴーレムの言葉で一気に思考が持っていかれた。


「オレと関わりのあるヒト族たちは、ミンナ欲に塗れていたのだがナァ」


 ……ん? オレと関わりのあるヒト?


「おまえ、人間と繋がってるのか?」


 自然と目つきが鋭くなる。


 場合によってはこいつをここで仕留めなければならないかもしれない。


「ン。繋がってるトいうか、たまにオレのとこにやって来て、オレの作った像を持ってくナ。代わりにヒト族が好むという硬貨とかいう物や宝石なんかをくれるんダ」


 あー、芸術品的なことか?


 少し離れたところでバチバチやり合っている人型ゴーレムを見る。


 上空からとはいえ、初見では人間と勘違いしてしまうほど精巧に作られたそれは、たしか目の前にいるこいつが創り出したといっていた。


 これほどのクオリティなら、欲しがる人間がいるというのも納得できる。それに美術品なんて富裕層の趣味だろうし、金払いもいいのだろう。


 ……そうか、金か。


 こんな生活を続けていたから忘れていたが、人間が生きていくには金が必要だ。最低限食い物があればなんとかなるだろうが、金がなければ困窮しているのと同じ。


 困窮し、なりふり構わなくなった人間というのは何をするのかわからない。それは俺の計画において、大きな影響はなくとも、少なからずの不安要素を与えるものだった。


「……なぁ。その硬貨ってどんなのだ?」


「アァ、なんかちっこくて平べったくて丸い、ピカピカ光ってるやつダナ。あんまり興味は惹かれナイから加工しようとも思わん」


 おぉ。これは期待できるか?


「なぁ、その硬貨も交易品に入れてくれないか? お前もうちの領にある欲しい物を追加していいからさ」


「ホゥ!」


 そいつはいきなりテンションを上げ、聞いたことのないような高音の鳴き声のようなものを出す。どうやらこの領に俺の創作物がもっとあると思ったようだ。


 交渉の余地があると見たのか、ぐいぐいとあれもこれもと聞かれ、しぶしぶではあるが拠点の中も見せることになった。


 しかしその甲斐はあり、結果的に1回の交易毎に1つ以上の人間を模した模型を送ることを条件に、鳥人間の輸送力次第ではあるがしばらくの間かなりの量の硬貨を送ってもらえることになった。


 交易を始める前に考えていた、俺のチート能力を資産に変えるという理念が、ここにきてお金というわかりやすい価値にまで実ったのはどこか感慨深いものがあった。


 玉子型ゴーレムはさらに、人間どもから奪った、大量に積まれていた鎧や剣などの金属類も買い取ってくれた。


 正直、俺らにとっては無用の長物だったのでありがたい。


 そいつはうず高く積まれた金属製の武具に手をかざすと、ぐにぐにと粘土をこねるようにして1つの大きな鉄塊にしてしまった。


 植物魔法以外の魔法を見る機会は少ないので、それはなかなか興味深い光景だった。しかも数トンはあるだろうその鉄塊をひょいと軽々しく持ち上げるのだから、その力も半端ではない。


 魔法も使えて力もある……さらにあの人型ゴーレムの耐久力をみるに、こいつもかなり頑丈なのだろう。そう考えると、こいつら実はめちゃくちゃ強いんじゃないだろうか。


 ドラゴンといいこいつといい、北の地に住む魔族は恐ろしいな。できればあまり関わり合いたくはない相手だ。


 そんなこともありながら、だいたい話のまとまった俺らは、最初に腰を下ろしていた拠点外の地にまた戻ってきた。


「……なにしてんだ?」


 するとそこには、虚な目でたたらを踏むようにフラフラとしている人型ゴーレムの姿があった。


 赤褐色の肌がより赤くなり、それはまるで千鳥足の酔っぱらいのよう。


 その人型のことを、周りではスライムたちが心配そうに見つめていた。


「むっ!」


 俺の隣にいた玉子型が、肩に担いでいた鉄塊をぞんざいに放り投げ、人型の元へ向かう。


 その際に、数トンの鉄塊が地面と衝突し、地鳴りのような振動が起きた。


 ――こっわ!


 そんな超重量のものに潰されでもしたら、簡単に地面のシミになってしまうようなか弱い人間の近くでそんな蛮行をしないでほしい。


 そいつは走って、とはいっても俺からすれば歩きと大して変わらない速度で向かい、人型を抱える。


「むぅぅ、まさかこんなところで魔力酔いとは」


「魔力酔い……? なんだそれ」


 ――車酔いみたいなものか?


「魔力酔いというノは、魔法生物が多量ノ魔力を摂取した時に起こル反応のことダ。コレが起こると前後不覚にナリ、意識が朦朧とスル」


 ほぇ〜、なんだか、まんま酒に酔ったみたいな感じなんだな。


「にしてもナゼ……オレの創ったゴーレムはソウ簡単には魔力酔いなどしないハズ」


 ちょっと気にはなる話だったが、俺らスライム領には関係のない現象だなと軽く聞いていた。


 ふと俺らが戻ってきた場所を見ると、最初に持って来た飲み物と果物がそのまま置かれているのが見える。

 

 ――色々と急に話が進んで、しまう暇もなかったからな。こいつも食わないみたいだし、あとで食べよっと……ん?


 それは、そのまま置いてあるわけではなかった。


 水を飲むのかもわからないゴーレムに出した、一杯の水。


 そのコップがひとつ空になっている。


 ……もしや。


 と思い、新しくコップに湧水を注ぎ、玉子型に渡す。


「なぁ、これが原因じゃないか?」


「むぅ?」


 そいつは人型を抱いたまま器用にコップを受け取り、触れてみたり匂いを嗅いでみたりする。


 こいつに鼻なんてあったのか、と思いつつも、俺の予想は当たっていたみたいだ。


「コレはかなり純度ノ高い魔力が籠っタ液体ですナ。たしかにこんな物を摂取したら、オレのゴーレムといえど平静ではいられナイ」


 おぉ、うちの湧水、そんなすごいものだったのか。魔力的なものが含まれているというのは確信していたが、それほどとは。


「それ、そこの湧水から採れた水なんだ。ゴーレムがそんなことになるなんて知らなかったよ、ごめんな」


「ナルほど……いえいえ、あなた様のその類稀なる技術の一端を見れタようで、光栄デス」


 いや、それは神様っぽい老人からタダで貰ったチート能力のおかげなんだけどな。


「まぁ……じゃあそういうことで」


 もちろんそんなこと教えてやる理由はない。適当に相槌を打って誤魔化すことにする。


「デハ、オレらはこれで帰りマス。交易の件、頼みましたゾ!」


「はいよ〜」


 そう言うと、玉子型の巨大ゴーレムは、左手で手持ち鞄のように人型ゴーレムを抱え、右肩に大きな鉄塊を乗せて北に帰って行った。


 北にある領地というと、おそらく森を抜け、あの赤茶けた大地にあるのだろう。空の旅をしていた感じ、ここから数100キロは離れているはずだ。


 ――そんなところまであれを抱えて、歩いて帰るのか。


 やはりあいつは、強さ的にかなりドラゴン寄りの魔物なのではないだろうか。


 そう考えると、人間と争いにならずにむしろ上手くやっているというのも理解できる。強さを”解らせる”というのは、並みの戦力差では達成できないことだからな。


 なんにせよ、そんな奴と戦いにならなくて本当に良かった。


 急な来客ではあったが、今回は俺ら側にも利のある話し合いができ、ゴーレムに対する印象はわりかし良い。


 もうちょっと優しくしてやってもよかったかなと思いつつ、そのどこか哀愁のある背中を見送る。


 ――それにいいことも聞けたしな。


 本人たちにそんな気はないだろうが、俺の周りで一緒になってゴーレムを見送るスライムたちを見る。


「聞いたか? 魔法生物は普通、あのため池の水で魔力酔いするんだってよ」


 しかもあいつの話を聞く限り、かなり魔力に強そうな人型ゴーレムですらノックアウトするほどの魔力量。


 そんな魔力の塊のようなため池で、毎日のように水浴びをしているスライムたちだが、魔力酔いのような症状は見たことがない。


 だからと言って何が良いとか悪いとかはわからないし、魔力に強いからといって、魔物として優れていると言っていいのかもわからない。


 しかし、うちのスライムが魔力に強く、その純度とやらが高いらしい魔力の籠った湧水をむしろ好んで常用しているという事実は、スライム領の領主としてどこか鼻が高い気持ちだった。

 

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