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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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74 アクシデント


 この距離でもわかる。


 森がさごそと揺れ、木がベキベキと折れていく。


 そうして森の中からぬっと現れたのは……


「なんだあれ」


 それは、赤褐色の巨大な玉子のようなものだった。


 少なくともドラゴンではなかったことにほっとするも、訳のわからないものがスライム領を無遠慮に闊歩かっぽしていることには変わらない。


 最悪の事態こそ免れたが、いまだに警戒態勢だ。


「スラちゃん、あれが何かわかるか?」


 と尋ねるも、近くにいた赤、黄、緑の3色のスライムはペコッと体をへこませる。


 スライムたちもわからないみたいだ。


 まぁこのスライムたちはあまり世間について詳しいわけではないっぽいからな。


 おそらくこの地から動かず、定住していたのが理由だろう。


 この地の湧水は魔石を復活させるほどの魔力が宿っているし、魔力で成長するスライムにとっては天国みたいなものだ。そりゃあわざわざ他のところに住処を移す必要はないか。


 そうやってしばらく侵入者を見ていたが、いつまで経っても近づいてこない。


 別に止まってるわけではなく、単純に足が遅いみたいだ。


 ――ずっと待ってるのも面倒だし、偵察に行くか。


 スライム領で最も生物として貧弱な俺が、まだ詳細のわからない敵の前に出るのはあまり褒められた行動ではないのだが、あれが敵かどうか見極めるためには仕方ない。


 スライム的にもあれが敵かどうかは微妙なラインのようだしな。


 俺はスライムを数匹連れて拠点に戻り、東屋の下にどんと置いてある木の船に乗り込む。


 ついでにトレビュシェット用の弾も何発か積んでおこう。


 新しい戦法を試すちょうどいい機会だ。


 弾代わりの丸太もスライムも乗ったのを確認すると、木の船に植物魔法を使い、すーっと滑るように発信する。


 このサイズが収まるには狭い東屋を器用に抜け、ぐんと浮上する。


 最近はよくこの船を乗り回していたので、今となっては慣れた操作だ。


 木の船の機動力は凄まじく、玉子型の魔物の上空に船をつけることなんて、文字通りあっという間だった。


「んー……」


 こうやって近くで見てみると、確かに形は玉子だがその性質は大きく違うように思える。


 赤褐色の玉子型のような球体に、細長い手足がついており、質感はゴツゴツと岩っぽい。


 ……先日北に向かった時に見かけた、赤茶けた荒野の地質と似てるな。


 たしかかなり前、鳥人間をふんじばってこの土地周辺にいる魔族のことを聞いた時に、北の方角にゴーレム領があるみたいなことを言っていたはずだ。


 その時に鳥人間がごちゃごちゃと知らない単語をたくさん出してきたので、脳が記憶することを拒み、北の山にドラゴンがいるという情報も失念。


 結果はあの通り、命からがらドラゴンから逃げるという、二度と経験したくない最悪の思い出ができてしまった。


 あれは良くなかったなと反省し、あの日鳥人間から聞いた周辺魔族の情報を精査しなおしたので、北の方角にゴーレム領があるというのはほぼ間違いないはずだ。


 ということはこいつは……


「ゴーレムなのか?」


 そう思って改めて見ると、思い描いていたゴーレム像とはかなりかけ離れているが、たしかに岩っぽい感じとか、頑丈で動きが遅いところとか、納得できる点もある。


「だとしたら、あれはなんだよ」


 玉子型の岩の塊がゴーレムなのは理解できるが、問題はそいつの前を歩くもう”ひとり”の存在だった。


 そこには亜麻色の簡単な貫頭衣を着て、背中に革製の背嚢はいのうを背負っている人間がいた。


 ゴーレムならまだしも、スライムが人間に対して明確な敵意を向けないのは初めてのことである。


 なんだか、少しだけモヤっとしないこともない。……ほんとーに少しだけ。


「おい! お前らゴーレム領の奴らか?」


 そう、上空から声をかける。


 すると、玉子ゴーレムは足を止め、顔を見上げてこちらを見るのだが、人間はそのままゆっくりと歩を進め続けた。


 ゴーレムとは交易をする仲ではあるが、お互いの素性はまったく知らない。当然仲間などではなく、この世界で生存という椅子を奪い合う他人同士だ。


 『もしかしたらお話をしに来ただけなのかも』


 なんて腑抜けた考えは通用しない。食うか食われるかの世界で、不用意に多種族の縄張りに足を踏み入れるというのはそれだけで殺し合いに発展してしかるべき行いなのだ。


「止まれ! 止まらないなら敵とみなすぞ!」


 それでもそいつは歩みを止めない。そもそも俺の言葉が通じてるのかもわからない。


 それは即ち、戦いのゴングが鳴らされたということだった。


 俺は船から長いツタを垂らす。


 これは、狙いを定めるためのレティクル代わりだった。


「っと……これくらいか」


 てくてくと地面を歩く人間の、上空100メートルほどの位置にピタリと着け、


「よっと」


 軽い掛け声とともに、丸太を下に落とす――なんてものじゃない。


 植物魔法を使った、真下への超高速射出。


 ボウッという音を鳴らし丸太は一瞬で地面に到達。


 まるで対物ライフルでも撃ったかのような炸裂音。それと同時に丸太が粉々になり、地面に白っぽい弾痕のような跡を残す。


「外したか」


 100メートル程度の距離とはいえ、半径20センチほどの的にビタで当てるのはなかなか難しい。


 とはいえ敵のすぐ近くには着弾しており、普通の人間ならば、細かいとはいえ飛散する木片で致命傷を負っていてもおかしくはないと思うのだが……どうやらそいつにはダメージを与えられなかったようだ。


 ――ま、直撃すればさすがに死ぬだろ。


 と、2発目を投下する。


 相手の攻撃が届かないところから、こちらは一方的に攻撃できる。これは俺が理想としている戦い方だ。


 ――フハハハ! スライム領に足を踏み入れたことを後悔するがいい!


 万が一敵の攻撃が上空にいる俺らにまで届いたとしても、その時はぴゅ~んと船ごと逃げてしまえばいい。


 2発目も僅かにそれるが、すぐに3発目を用意する。


 積載量の制限はあるが、船にはノーリスクで撃てる弾としては十分な量が積まれていた。


 ――思ったよりこの船上からの攻撃は使えるな。何より気分がいい。


 ゲームでちょっとした裏技とか小技を見つけた時のような、ニヤリと悪い顔をしてしまう愉悦があった。


 ボウッと、力強い音を立て、丸太が地面に射出される。


 その瞬間の手応えでわかった。


 ――当たった!


 今までのものより一段階高い衝撃音が大気を震わす。


 あまりにも粉々に粉砕された丸太の木屑が、ふわっと砂煙のように広がり……風に流され消えていく。


 丸太はたしかに人間に直撃していた。


「……は?」


 しかし、そこにあったものは、潰れて赤い血を撒き散らす人間の姿ではない。


 足を開き、片腕を真っ直ぐと上に伸ばし、その先にある拳を固く結ぶ。


 仁王立ち――ではないが、それを彷彿とさせるような貫禄のある立ち姿。


 始めてこちらの動きに反応したそいつは、ゆっくりと俺の方を見上る。


 可憐な少女のように見えるそいつの、癖のあるミディアムヘアがサイドに流れ、その顔が太陽に照らされる。


 そこには、無機質な瞳をした、後ろにいる玉子ゴーレムと全く同じ赤褐色の肌をした”魔物”がいた。


「っはあ〜ぁぁぁ!」


 深くため息をつく。


 ――お前もゴーレムかよ!


 だから魔物というのは面倒なんだ。


 その赤褐色の肌というのは、比喩的な表現ではない。少なくとも向こうの世界でも、この世界でも見たことのない、そのままの意味での赤褐色。


 さらにあの超高速の丸太を逆に粉々にしてしまう規格外の頑丈さ。


 そいつはどう考えても、人間の枠から大きく外れた存在だった。


 俺は船を拠点の方に移動させ、途中で飛び降り、アームガードに植物魔法を使う。


 それを見たスライムたちもぴょんぴょんと船から降りてくる。


 ――上空からの丸太落とし、よかったんだけどなぁ。


 手前の女? にも効かないなら、後ろにいる大きな玉子ゴーレムにも効かないだろう。


 植物魔法がもたらす圧倒的な力、パワフルさはこういった相手には不利とまでは言わないが、有効とも言い辛い。


 どちらかというと人族みたいな、数は多いけど脆弱な相手に刺さる能力だった。

 

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