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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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73 来訪者


「むむっ!」


 ――集中。


 蒸して殺菌した後に乾燥させた、大きく丈夫な葉を10枚ほど宙に浮かべる。


 その状態をキープしつつ、その葉の上にたっぷりの魔物の乾燥肉と、片身の魚の干物1枚を載せ、風呂敷を包むようなスタイルで葉で包む。


「はっ!」


 最後にその包みをツタで十の字に縛り、10個できたスライム領特製保存食セットを木のコンテナに入れる。

 

 所要時間1分。


 これを延々と作り続け、今では大きなコンテナ6箱分、約600個ほどを作ったことになる。


 岩塩の供給が安定するどころか、交易のおかげで俺が一生をかけても消費しきれないような量を確保できたので、乾燥肉もしっかりと脱水して塩味を効かせた、より保存期間と味が向上した物に進化している。


 そして何より、塩分による脱水処理により”干す”という工程が実現でき、燻製の手間を無くすことができた。

 

 魚の干物の方は魚を捌くのに手間がかかるので練習ついでのおまけだが、乾燥肉に関してはこれで大量生産が可能になった。


 生産が増えたせいで、今まで作っていた燻製肉ほど安全性に自信があるわけではないのだが、別に俺が食うわけじゃないので細かいことは気にしない。


 これは、”人間へのお土産”だ。


 もちろん腐った物を食べさせてバイオテロをしようなんてわけではない。そんなことは俺に流れる故郷の血が許さない。


 理論上は大丈夫なはず。万が一ダメだった時はどんまいくらいの精神だ。


 スライムたちの数を増やすため、しばらくは空を飛んで領の周辺を探索したり、領内でやる雑事を終わらせていたりしたのだが、これもその内のひとつだ。


 これが中々いい植物魔法の練習にもなり、大量に余る魔物肉の使い道にもなり、魔物の乾燥肉作りと合わせて最近ハマっている。


「とりあえず、10箱……1000個を目指して頑張ろう」


 魚の干物はもうすぐ在庫がなくなるので、以降の保存食セットは乾燥肉だけになってしまうが、乾燥肉は量が確保できているのであとは包むだけだ。今日……遅くても明日中には作業は完了するだろう。


 ちなみにマヤウェとかいう領から送られてきた魚だが、綺麗な銀色をした体高の高い淡水魚で、日本ではあまり見ないタイプだった。


 名前はミシンというらしい。……さすがにあの、裁縫で使うミシンとは違うと思う。


 塩焼きにして食べてみたところ、淡水魚にありがちな泥臭さはあまりなく、旨味は少なく淡白な味だが、逆に言えば上品でなかなか美味い魚だった。


 醤油かポン酢があれば最高だったが、それは高望みしすぎというものだろう。


 そんなものはここにはないし、自分で作るにしても発酵食品は怖いしな。


 しばらくすると、アココという名前らしい、スライムくらいの大きさの木の玉に脚が4つ付いた生き物が俺を呼びにきた。


「またあいつか……」


 例の熊男を倒した数日後、あいつが乗っていた大猪が単身でスライム領にやってきた。


 その時はまた面倒事かと身構えたのだが、どうやら献上品のような物を運んできただけだった。


 謝罪のつもりなのか、力を認めてくれた証なのか、あいつが何を考えているのかはわからない。それにその献上品も魔物の死体だったので、嬉しいかと言われると……微妙なところだった。


 タダで魔石を貰えたと思えば儲け物だが、魔物の肉に関してはうちでも持て余し気味だ。


 それに鳥人間との交易品に混ぜてくれればそれでいいし、その交易であいつは肉を欲しがっていたはずなのに、その輸出元の俺にまた肉を送ってくるのは理解できない。


 ――あれか? 加工してよこせってことなのか?


 なんにせよ、熊男の真意もわからず、気味が悪いのでもうやめてくれと鳥人間に伝言を頼んだのだが、数日おきにとはいえいまだにこうして使いを寄越して魔物の死体を置いていく。


「スラちゃん、解体場に運んどいてくれ」


 そう呟くと、連絡係兼護衛の3匹の側近スライムが念話を飛ばし、あとは良い感じにやっといてくれる。


 ちなみになぜアココがここにいるのかというと、数日前にまた空を飛んで周辺の探索をしていた時に、別の魔物に襲われているところを見かけたからだ。


 森の中に少しだけ開けたところがあり、気になって近づいてみたところ、細い木の枝――後でわかったが、前にアココが俺に見せに来たでかい花の人間のために立てられた墓があり、その側でアココと小鬼のような魔物が戦っていた。

 

 いや、戦いというよりそれはいじめだった。


 アココは戦闘向きじゃないのか、そのゴブリンのような見た目の小鬼にぽこぽこと叩かれ、いいようにされている。


 しかしそれも自然の摂理。本来は俺が手を出す必要もないのだが……なんだか、アココに対しては他人のようには思えないというか、スライムにどこか似ているからだろうか、情が移っていた。


 俺はすぐに地面に降り、小鬼の首をへし折ってからアココを保護。


 正直、こいつらはこのまま墓の近くで暮らした方がいいのではないかと悩みもしたのだが、俺の独断でこいつらを連れて帰ることにした。


 これもまた自然の摂理。弱いものは強いものに従うしかないのだ。


 何匹かすでにやられてしまっていたアココも隣に埋め、墓が荒らされないよう丸太を使った頑丈な柵を周りに建て、一度墓に手を合わせてからその場を後にした。


 そんな経緯があり、生き残っていた6匹だけであるが、アココはスライム領の客人として共に生活をしているというわけだ。


 頼んだわけではないが、こうやってスライムに怯える大猪の対応をしてくれたり、果樹や畑の世話をしてくれている。


 大猪はまだしも、植物の世話は俺はさっぱりなのでかなりありがたい存在だ。


 それ以外の時は果樹や巨木の近くでズボッとその小さな4本脚を地面に挿したり、ため池の側で挿したりしている。


 よくわからないが、スライム領を満喫してくれているようで何よりだ。


 とにかく、今は目の前の宙に浮いてる葉っぱに乾燥肉を載せて包んでしまおう。


 これが終われば、魔物の解体に移行だ。集中してこっちを終わらせてしまいたかった気持ちもあるが、この領ではこういったアクシデント的な、イレギュラーな出来事はよくある話だ。


 それにノルマもないし、監視してくる上司もいないし、気楽なもんだ。


 そうやって、スライム領特製保存食セットを作るための素材やコンテナを片付け、解体場の方に向かおうとする。


「お」


 そんな時、側近スライムが俺の足を引っ張った。


 これもまたイレギュラーだ。


「敵じゃないのか?」


 敵が来た時特有のピリついた感じがないので一応尋ねてみるが、スライムたちはうんともすんとも言わない。


 ――またややこしいのが来たんじゃないだろうな……。


 基本的に、どんな奴でも面倒は面倒だ。例外はあるが、うちは基本的に閉じた領だからな。


 しかしその中でも度を越して面倒な来訪者がいる。前に突然やってきた熊男とか、人間どもの群れとかがそれだ。


 なんにせよ対応しないわけにはいかない。


 俺は木剣と木盾を、背中にあるツルを編んで作った紐状の肩掛けの輪に刺し、スライムたちの動向に目を向ける。


「マジかよ……」


 スライムたちはゾロゾロと、拠点の北側に集まり始めていた。


 北側――ふと、あの光景が頭によぎる。


 圧倒的強者。ドラゴンが人間の群れをすり潰す光景。


 ――いやいや! まだそうと決まったわけじゃない!


 そもそも、スライム領とドラゴンがいた北の山は数百キロ単位で離れている。


 そんな遠くからわざわざ俺らを潰しになんて来ないだろう。何のメリットもないし。


「大丈夫、大丈夫……」


 と、自分に言い聞かせるように呟いた後、ドキドキと脈打ち緊張を伝えてくる心臓を無視して、俺もスライムたちの元へと向かうのであった。

 

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