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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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70 リカバリー


 それからしばらく日が経ち、俺らはまた木の船に乗って空を飛んでいた。


 乗員は前回と同じ、人間1人とスライム10匹。


 方角は前回とは逆、北の方。


 人間の住処は分かったが、前の鎧人間たちとの戦いでスライムたちは数を減らしていた。もちろん戦死したわけではなく、合体でかスライムによる魔力消費のせいだ。


 今はまだそのリカバリー中。今回ついて来てもらった10匹を除いて、領にいるスライムたちにはゆっくりと英気を養ってもらっている。


 そんなこともあり、すぐに人間の町を攻めるようなことはせず、時が来るまで俺ものんびりと過ごしているというわけだ。


 そんな中、なぜ北に向かって船を飛ばしているかというと、今までは行動範囲の関係で調査できなかった、スライムの”ある”能力を調査するためだ。


 その能力とは、スライムのテレパシー能力。その有効範囲についてだ。


 今までの実験で、スライム領の端から端までは念話可能ということはわかっていた。それに、俺たちの生活圏的にそれだけの範囲で念話ができるなら十分だった。


 しかしこれからは領の外、それも数十キロも離れたところへ出かけることになる。


 そんな時、当然領を無人ならぬ無スライムにするわけにはいかない。俺らが人間の町を攻めるからといって、他の魔物や魔族がスライム領を狙わない保障はないのだ。


 なのでより一層、出張する俺ら側と領を守るスライム側の密な連携が重要になる。


 その要となるのがスライムのテレパシー能力であり、念話の有効範囲を調べるというのはとても重要なタスクだった。その結果によっては、中継基地のようなものも建設しなければならないだろう。


 木の船は今、かなりの速度で進んでいる。高速を走る車か、下手したらそれ以上あるかもしれない。


 そんな俺の首元には木のタグがついたツタのネックレスがあり、風に当たってびたりと俺の体に張り付いている。


 これはだいぶ前、スライムの水時計を作った時のものだ。


 領にあるスラ時計が規定の時間になった時、離れたところにいる俺の側近スライムに念話が送られ、そのスライムがこのタグを掴むことで時間の経過を俺に伝えるという手段を取っていた。


 なぜこのような遠回りな手段をとったのかというと、スライムから俺に何かを伝えるとき、その内容の詳細まで理解するのは難しいからだ。


 例えば足を引っ張るとか、ツンツンするとか、日常でも起こりうる仕草に”時間を知らせる”という意味を割り振るのが嫌だった。


 時間に限らずとも、俺が知らせるよう頼んだことと、スライムが自発的に俺に何かを伝えようとすること、この2つは明確に区別したかった。


 なので、俺がスライムにこういった通知のような役割を頼む時は、ネックレスのタグを掴むという、俺が自発的にこのネックレスを首から下げないと起こり得ない動きで伝えてもらうことにしている。


 今回でいえば、スライムたちに『領にいるスライムと情報のやり取りができなくなった時、タグを掴んで教えてくれ』とお願いしている。


 している……のだが。


「なぁ、まだ念話は通じるのか?」


 何回目になるだろう。不安になってまたこちらから尋ねてしまった。


 スライムは不服そうに、腕の中でペシペシと暴れる。


「わるかったよ。ごめんごめん」


 本気ではないにしても、スライムの小さな暴れはそれなりに痛い。


 船の上ではスライムにジャンプを禁じているので、9匹は後ろに待機して、1匹だけは俺の腕で抱きしめて、いつでもタグに触れられるようにしてある。しかし、かれこれ数時間船を飛ばしているが一向にタグを掴む気配がない。


 おそらく距離的には、スライム領と前に発見した人間の町、その間の距離より遠くまできているはず。


 正確にはわからないが100キロは超えているんじゃないだろうか。


 ――どんだけ届くんだよ、スライムのおしゃべりは。


 人間の感覚からすれば、それこそ信じ難い検証となっていた。


 北に進みすぎたのか、森が終わり、今では赤茶けた荒野の上空を飛んでいる。


 環境がすっかり変わってしまうほど遠くにきてしまったことに少し不安になるが、この方位磁針とスライムテレパシーがあれば遭難することはないだろう。……たぶん。


 そんな遭難対策を含めた改造をふたつ、この木の船に施していた。


 ひとつは俺らの生命線である、石の方位磁針。


 これはしっかりと船体に固定できるようにし、船首に引かれた線と方位磁針の針をピッタリと合わせることで、少なくともこの石が指すところの南と北には高精度で飛行できるようになった。


 まっすぐ行って、まっすぐ帰る。細かい調整はスライムに頼る。こうすることで、拠点に帰れなくなることを防いでいる。


 それともうひとつは、革を張った日除けの屋根。


 船の上は速度を出している分風も強く、涼しいくらいなのだが、それはそれとして日差しはきつい。


 それにこの革はあの森の中にあった人間の野営地に捨てられていたテントの革で、質が良く丈夫なうえ撥水性もあり、突然スコールの降るこの土地にも適した素材だった。


 少なくともうちで生産できる革とは雲泥の差だ。


 多少気味の悪い気持ちもあったが、もとより俺らは倒した人間から奪った物品を日常的に使っているし、今更かと思い残されていたテントの天幕を全て回収。こうして役に立てさせてもらっている。


 そんな、まるで某テーマパークのクルーズ船のような見た目になったこの木の船は、いまだにぐんぐんとスライム領から離れていた。


 ――あぁ、またスライムに聞きたくなっている。


 たった10分でも、今まで歩くか走るしか移動手段のなかった俺からすれば、なかなかの距離を飛行することになる。


 ……ほんとに大丈夫かよ。


 スライムのことは信頼はしているが、この胸がソワソワするのはまた別だ。


 下を覗くと、遠くの方でゆっくりと、赤茶色した大地が等速で動いていた。


 この高さだからそう見えるのだろうが、もし地面ギリギリを飛んでいたら、あの大地は高速でひゅんひゅんと流れていくのだろう。


 そんなことを考えながら、さらに10分、20分、1時間と時間は経っていった。


 俺もスライムに怒られないように、どことなく首のタグをチラチラ見せてみたり、さては寝てるんじゃないかと体を伸ばす振りをしてスライムを揺らしてみたりと、はたから見たらかなり迷惑な行為をしていたが、腕の中のスライムは全く反応を示さなかった。


 そうして飛行しているとついには、あのスライム領からも見えていた、北にある大きな山の麓まで来てしまっていた。


 ――もうここまでくれば十分だよな。


 またもや結果は計測不能。というか、これだけ離れても念話できるならもうほぼ無限と同じじゃないか。


「何百キロ移動したんだ……」


 これ以上行くと、日没までに帰れるかの方が不安だった。


 遥か上空で暗闇の中取り残されるのを想像して、思わず眉を顰める。


 ――余裕を持って帰ろう。


 そう、船のスピードを緩め始めた頃、今までぴくりともしなかった腕の中のスライムにとうとう動きがあった。


「おっ!」


 『通じなくなったか?』などと、なぜか念話が通じない方が良いことかのような発言をしてしまいそうになり、慌てて口を紡ぐ。こっちが付き合わせてるのにそんな言い方はないだろう。


 ずっと動くことなく座っていたから、ほうけていたのだろうか。それだけこの空の旅は長かった。


 落ち着いて手元のスライムを見ると、こちらを見上げて何かを訴えかけているように見える。


 背後にも、つんつんとスライムがつついてくる感触。


 振り返ると、スライムたちがジャンプをしないように、床をずりずりと這って俺の周りに集まってきていた。


 ――これは、念話のことじゃないな。


 領にいるスライムと念話が通じなくなったら、首のタグを掴んでもらう。


 俺が自分で作ったルールだ。


 今のスライムの反応はそれとは違う。何か別のことを俺に伝えようとしているはず。


 ……この時の俺は、本当に呆けていた。


 地上と違い、特に外敵も見当たらないのんびりとした空の旅にすっかり毒されて、ここが異世界だということを忘れてしまっていた。


 心構えもなくスライムから視線を外し、ふっと顔を上げる。



 ……。



 目の前で、大蛇のようなドラゴンがゆらゆらと体を揺らしてこちらを見ていた。


「あ」


 次の瞬間、視界がぶれる。


「う、うわああああああぁぁぁ!」


 心臓が抜けるかのような浮遊感。


 俺とスライムは、地面に向かって真っ逆さまに落下し始めるのだった。

 

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