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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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58 とうもろこし中毒


 鳥人間が空を飛行している間、意外にも翼を羽ばたかせる回数は少ない。


 動物の鳥が空を飛ぶ姿を思い返すと、羽ばたくターンと滑空のように翼を開いて飛ぶターンに分かれているが、その滑空のような姿勢で飛行している時間が圧倒的に多い。


 自然現象に反するように見えるその姿だが、おそらくこれは風魔法を利用しているのだろう。


 流石に空を飛ぶことに関しては門外漢もんがいかんだが、そう考えれば納得はできる。魔法の非常識さは今まで何度も目にしてきた。


 そんな、空を滑るようにして飛んでいた鳥人間が、バサバサと土埃を舞い上げてスライム領の大地に着地する。


 魔法を利用するところと、魔物としての身体能力を活用するところ、その切り替えを見られたような気がして面白い。


 ドスンと荷が積まれた籠を下ろし、鳥人間は「ふぃ〜」と肩を回す。


「お疲れ」


 と声をかけるとそいつは、


「うい〜」


 と簡単に返してきた。


 これで最後の領だよな……と思いつつその籠を見るが、どうやら行きと中身は変わっていないようだった。


「あれ、交易に乗ってくれなかったのか?」


「いや、アココの領に行ったんだけど、あそこの長死んでたわ」


 あまりにも何でもないふうにそう伝えられ、ドキッと心臓が鳴る。


 ――そっか、あのでかい花の魔物が死んでいたことは伝えてなかったもんな。


 悪いことをしたかなと思いつつ、魔物と人間の価値観の違いを感じてどこか居心地の悪いような気分になる。


 俺もこの生活で生死に関してはかなりドライになったとは思うが、予想外のところからいきなり心当たりのある死を伝えられて焦ってしまった。


 よく考えてみれば、こいつらは昨日俺たちに仲間――トトを結構な数殺されているけど、けろっとしてるもんな。


 もし俺たちが戦って、スライムに何かあったらと考えると……やはり冷静にはいられないだろうな。ここら辺は魔物と人間の違いなのかもしれない。


「そうか、じゃあとりあえずこの3つの領との交易を頼む」


 と、俺は各領から渡された物品の中から必要な物を伝える。ついでに、『よければでいいんだけど魔石も余ってたら交換してくれ』という旨の言付けも頼んでおいた。


 色んな領の土地の物を見させてもらい、色々と惹かれるものはあったが、やはりスライム領的には魔石が一番嬉しいからな。


「スラちゃん、とうもろこし入った籠持ってきてくれ」


 と、側近スライムにお願いする。


 とうもろこしは今朝収穫し、別の籠に入れて畑に置いていたので、それを拠点にいるスライムたちに持ってきてもらうのだ。


 鳥人間はとうもろこしに関する話に対しては妙に鋭く、俺の発言からとうもろこし=テオシントということに気づいたのか、ピクッと体を震わせソワソワとし始めた。


 ここまで露骨だとちょっと面白い。


 その伝言の後すぐに、とうもろこしの入った籠を頭に乗せた赤スライムがぴょんぴょんと跳ねてやってくる。


 どういう原理か、重量のある籠を1匹で支えて跳ねるスライムの身体能力もすごいが、籠の上に黄色と緑のスライムが1匹ずつ乗っており、上下運動によって籠から落ちそうになるとうもろこしをキャッチしては戻すを繰り返しているのにも感心する。


 ――フィジカルももちろんだが、賢いな、うちのスライムたちは。


 冷静に考えると、本当に賢いかと言われるとかなり微妙……いや、ちょっとアホ寄りかもしれないが、これは親バカならぬ領主バカなのだろう。


「て、テオシントだゃあ!」


 と、鳥人間はもはや呂律も回ってない様子。


 とうもろこしがどっさりと入った籠が到着するや否や、ばっと飛びついて両手に1本ずつ取ると、芯ごとバキッと噛み砕いて幸せそうにゴリゴリと咀嚼する。


 ……おおう。


 なんてワイルドなんだ。


 そのままバクバクと食べ進め、あっという間に2本を平らげてしまった。


「うんめぇ〜〜〜」


 そのまま後ろに、まるで反重力装置でも付いているのかのようにふわりと倒れ、手足をバタバタとさせる。


 ……すまん、ちょっと引く。


 まぁこいつがいいなら別にいいけど……。


「おい、全部食うなよ。トトたちにもやるんだろ?」


 そんなことはしないとは思うが、あまりのジャンキーっぷりにこちらも不安になる。


「あ、あたりまえだろ! そこまで落ちちゃいねー!」


 口元に食べかすを付けたままでは説得力はないが、こいつも魔族としてこれまで生き抜いてきたのだから相応の矜持きょうじはあるか。


 いつ消えてもおかしくない魔族という肩書きを、おそらく俺よりは長くやっているのだろうしな。


 俺の牽制で鳥人間も我に返ったのか、籠を手にしていそいそと帰ろうとする。


 俺としても早く溜まった作業を進めたいので長話をするつもりはない。


「あ、そういえばこのお前が持ってきた籠はどうすればいいんだ?」


 各領からやってきた、3つの籠に目線をやる。


「ん? それはもうお前のもんだろ。好きにしろよ」


 鳥人間は、『また変なこと言ってんなコイツ』みたいな顔で俺を見る。


 ……へー。


 貰っていいのか? まぁ貰えるなら嬉しいけど。


 コヨトルの籠はまだしも、ゴーレムとマヤウェからは貰いすぎな気はする。特にゴーレム領。


 相手の反応がわからないからなんとも言えないが、向こう側も結構交易に乗り気なのだろうか。


「じゃあありがたく貰っとくよ。次からの交易品に関してはさっき言った通りで頼む」


「はいよ」


 と、すでに翼を羽ばたかせながらそいつは答える。


 鳥人間の身長よりもでかい翼が風を掴むように、その体が浮いていく。


 ある程度の勢いがつくと、そのまま空中を滑るかのようにして北東の方へ飛んでいった。


 ……とりあえず、これで交易はおっけーだな。


 間接的とはいえ、慣れない交渉事にどこか疲労を感じていたが、一番の山場はこれで終わり。あとはたまの鳥人間とのやり取りだけで色んな物品がうちにやってくるはずだ。


「お前ら、ありがとな」


 伝言を伝えてくれた側近スライムと、とうもろこしを運んできてくれたスライムにお礼を言う。


 スライムたちは、その言葉にふるふると体を震わせて返事をする。


 また空を見上げると、もう鳥人間は見えなくなっていた。


「……飛ぶ、ね」


 俺も植物魔法でよく空を飛ぶ。しかしそれは飛翔ではなく、どちらかと跳躍の延長のようなもの。


 本当の意味で上空を飛行したことはまだない。


 原理的にいえば、俺の植物魔法であれば十分可能だろう。


 手に持つでもいいし、身につけるでもいい、そうした木材の何かに植物魔法を使い、空中に浮かぶイメージをすれば、必然的に俺もその木材に引っ張られて宙に浮く。


 植物魔法というチートを使えば、それは簡単な原理だった。


 しかし、たったひとつの理由で、俺はいまだに空を自由に飛ぶという強力なカードを切ることができないでいた。


 その理由は単純。



 ――怖いから。


 

 植物魔法で空を飛ぶというのは初期の頃から考えてはいた。しかし俺の植物魔法は頭の中のイメージの精度に大きく依存する。


 飛ぶ、というイメージはしやすいものだが、例えばバランスを崩したり、アクシデントで魔法を一時切ってしまったりして、俺が高所から落下したとする。


 腹の底が抜けたかのような気味の悪い感覚に、全身で感じる風……なによりあと数秒で確実に死ぬという恐怖。


 そんな極限状況の中、冷静に”自分が身につけた木が宙を浮くイメージ”ができるだろうか。


 それは特別に難しいというわけではない。


 今の俺なら10回やれば9回は成功するだろう。


 しかし逆にいえば、10回に1回は失敗――つまり地面に落下してぐちゃり……ってことだ。


 遊園地のジェットコースターですらあまり得意ではない俺がそんなリスクに耐えられるはずもなく、飛ぶという利点は理解しながらも今まで練習すらしてこなかった。


 しかし、状況は変わった。


 俺の植物魔法の練度も上がったし、なにより俺が目指す理想、それを体現するための”計画”において、空を飛ぶというのは必須に近いものだった。


「いつまでも逃げてはいられないよな……。本腰入れて練習するか」


 スライム領を立ち上げた時、リスクを飲み込んで獣道を増やした。そのおかげでスライム領は大きく力を増したと言ってもいいだろう。


 今の俺には、あの時のような壁を越えるための、勇気ある一歩が必要だ。


 ――よし、俺はやるぞ!


 腰の横あたりで小さく拳を握り、心を決める。


「スラちゃん。お前らも空飛びたいか?」


 近くにいるスライムたちにそう尋ねると、そいつらはキョトンとこちらを見上げる。


 その仕草は、どこか可愛らしい。


 少しの間そうして固まった後、スライムたちは全員でふるふると体を震わせたのだった。


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