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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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52 スライム部隊


 拠点から流れる水路の下流。そこには魔物を解体するための場所がある。


 10×10メートルくらいの、広めにとられた東屋の下では、今日も魔物の解体が行われていた。


 しかし、吊るされているのは解体中の魔物だけではない。数時間前に仕留め、処理を終えた冷却中の魔物も1体吊るされている。


 俺の近くには護衛兼連絡係のスライムが3匹いるのだが、俺が別の魔物を解体している傍ら、そのうちの緑スライムに頼んでこの吊るされた魔物に風を送ってもらっているところだった。


 魔物を倒した後の処理というのはとても大事で、この処理で肉の質は大きく変わる。


 特に血抜きは大切で、魔物の死後迅速に動脈を切って吊るさなければならない。


 本来は心臓がまだ動いているうちに血抜きをした方がいいのだが、この世界に来て”半年”近く経っても、まだそんな度胸はない。今後その選択を取ることもないだろう。


 なので、できる範囲でやれることをやる。


 向こうの世界で野生動物の処理の仕方は調べたことがあり、多少は知識としては残っている。


 特に大事なのが、血抜きと肉の冷却。


 血抜きが甘ければ肉の風味がかなり悪くなるし、熱の籠った肉をそのままにしていると鮮度はどんどん落ちていく。


 他にも内臓は早く除去したほうがいいとか、肉の冷やし方には水に浸けるのと風に晒すのとのふた通りのやり方があるとか、あくまでネットで得た雑多な知識はあったのだが、当然経験による裏付けはなかった。


 前までは、魔物を倒してから安全のためにしばらく放置、完全に死んだのを確認したら首を切って血抜きしつつ内臓を除去、その後水路に沈め一晩待つという方法を採っていた。


 これでも食べれはするのだが、日本で丁寧に処理された新鮮な食肉を食べていた俺としては、やはり心のどこかに不満があったのも事実。


 しかしここでの生活も長くなり、とっちらかった半端な知識と経験が繋がり、今では『とりあえずこれでいいな』と納得できるくらいの方法を確立することができた。


 基本的にはそんなに変わらないのだが、今はとにかく魔物を倒したら即首を落とす。魔物は死んでから10分前後が勝負。それを過ぎると、血が固まるのか体が硬くなるのか、理由はわからないが血の出方が悪くなる。


 なので首を落としたら内臓も取らず、余裕を持って15〜20分ほど吊るしておく。体感なのだが、内臓が付いていた方が血の抜けが良い気がするので、この時はまだ内臓はそのままだ。


 とはいえその放置すれば肉が悪くなってしまうので、規定の時間が経てばすぐに腹を割って内臓を抜く。


 人間を倒して得た戦利品によって刃物関係が充実したおかげで、こういった皮や肉を裂く作業の効率が格段に上がり、無駄に肉を傷めることがなくなった。これに関しては唯一人間どもに感謝してもいいところだ。


 その後は石を縛り付けて水路に沈める。それは同じなのだが、今は1時間ほどで上げてしまう。


 生物が持つ熱というのは予想以上にすごい。サイズにもよるが、1時間水につけた程度ではその体から完全に熱を奪うことなんてとてもできない。


 しかし、熱伝導率の高い水の力である程度の粗熱を取り、東屋の日陰に吊るし風に晒すことで、気化熱によってさらに冷却。ここまですれば肉の温度はかなり落ち着く。


 今は地下貯蔵庫があるので、その状態から皮を剥いで入れておけば、数日くらいなら保存が効く。


 川に一晩沈めておくと、ブロック肉に分けるときに除去しなければならない部分がかなり出るので、歩留まりという意味でもこちらの方がいい。


 新たな技術を導入したとかでもないのに、このやり方にしてからというもの、肉の保存期間も伸びたし、何より味が格段に上がった。革新的で素晴らしい手法だ。


 ただメリットばかりではない。この方法は放置時間が短く、しかもその日のうちにやらなければならない処理が多い。


 あれからまた追加で獣道を増やし、既存の道を伸ばしたりもした。そのおかげでやってくる魔物の数はさらに増え、魔石の総量も右肩上がりだ。


 当然その分魔物の解体に使う時間も増え、今日もこうして作業に時間を費やしている。今やっているのが終われば、次は今緑スライムが強めの風を当てている方の魔物の死体の解体だ。


 ……そう。


 スライム領は今、魔物の供給過多に苦しんでいた。


「人手が足りねぇ!」


 やってくる魔物は増えに増えたスライムたちが勝手にボコしてくれるからいいのだが、刃物を使った処理は俺しかできない。


 解体が増えるということは、当然その後の魔物肉の燻製や皮の鞣し作業もあるということで、ここ最近の俺の負担が急増していた。


 貯蔵庫にも大量の燻製肉と革が保存されている。燻製肉は以前より消費期限を伸ばしたことももあり、どう考えても俺では消費できない量の蓄えになっている。


「さすがにもう魔石以外は森に埋めてもいいか」


 なんて、あまりよろしくない考えも頭によぎる。


 俺の技量では、魔物の死体を余すことなく使い切るなんてことは無理だが、魔物の命を奪った者として、できる限り有効に使いたいという思いはある。


 それに、解体はまだしも、こんなことになるまで燻製や製革せいかくをやめられなかった理由はもうひとつあった。


 ――シンプルに、面白い。


 素人ながら、過去の不完全な知識を集めて少しずつ形にしていき、試行回数が増えるたびに質が良くなっていくのを見るのは楽しかった。趣味といってもいい。


 燻製と製革はこの世界に来た初期から続けている産業というのもあり、思い入れもある。


 そんな事情もあり、午前の訓練こそ継続しているが、午後の作業に関しては3分の2ほどがこの魔物の処理に取られているという状態になっていた。


「さすがに良くないよな」


 トレビュシェットの量産も一段落したし、近場の森も大抵探索し終えたとはいえ、まだまだやりたいことはある。


 ……これはちょっと考えなきゃいけないな。


 なんて、スライム領の産業を見直そうかと思っていたそんな時。


「ん?」


 近くにいるスライムたちが俺の足をツンツンとしてきた。


「どした?」


 と、ほぼ終わりかけの解体作業を止めてスライムたちを見ると、そいつらは体をくいっと森の方に向ける。


 促されるようにそちらを見ると、スライム部隊が帰ってきているところだった。


 最近のスライム領は、単体の魔物や人間くらいならこうやって勝手にスライムたちが倒して獲物を持ってきてくれる。


 これは、必ず各色3匹以上を含んだ9匹以上の隊を組むこと、相手が複数だったりちょっとでも強そうだったら領のみんなで戦うこと、の2つをルールとして運用している、スライム部隊だ。

 

 うちの領のスライムの数はかなり増えたし、やってくる魔物の数も増えたので、全員で相手をする必要のない場合も増えてきた。そんな時は、このスライム部隊に対応してもらっている。


 ちなみに、特定のスライムを隊員に任命しているわけではない。その時その時で、スライムたちの間でアドリブで隊員を決めて対処している形だ。


 スライムたちのことだから、俺も俺もで部隊が膨れ上がるなんてことがあるんじゃないかとも思っていたのだが、予想に反してスムーズに運用してくれている。


 今回の部隊員も、数えてみると12名だ。


 スライムたちは同じ色であればほぼ記憶を共有してるといってもいい。別色間でもみんな似たような体験をしているので、そういう意味ではスライムは全体で同じような経験を積んでいるといえる。


 それはこういった別行動をする際に非常に便利だった。


 今回の部隊での戦闘の経験は、領中のスライム全員の経験に等しい。


 なので、今日戦ったスライムと別のスライムが部隊を組んだとしても、同じような戦闘のイメージで戦うことができる。


 トレビュシェットを扱う訓練でも、担当を持ち回りで訓練することによって、消費する魔力量を抑えつつ効率的に訓練ができた。


 数を強みとする俺たちにとって、この特性はまさに理想的なものだろう。


「お疲れ様ー」


 と、帰ってきたスライムたちを労うと、そいつらは『どうだ!』と言わんばかりに胸を張ってぴょんと跳ねた。


 そんなスライムたちを見て、顔を綻ばせる。


 ――無事是ぶじこれ名スライム。誰も怪我をしていないのがなによりの成果だ。


 「ナイスー」と、手を出してハイタッチをしながら、スライムたちが引きずってきた今日の獲物に目をやる。


 そこに横たわるものは、ここ最近俺の頭を悩ませる存在だった。


「……また、人間か」

 

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