46 合戦
アームを戻し、すぐに次の丸太を装填する。
「いくぞー。さん、に、いち」
やってる方はなんとも淡白なものだ。
おそらく人間であろう群れは、何か騒いではいるがその場から動こうとはしなかった。
――なんでだ?
しかしこちらからすれば好都合。あいつらが纏まっている間にできるだけ撃ち込みたい。
2射目が着弾するより早く3発目の丸太を用意し、すぐに射出。
4発、5発と繰り返す。
流石にその頃には敵も正気を取り戻したのか、雄叫びを上げてこちらに突進してきた。
だが俺は気づいてしまった。
――人の数が明らかに少なくなっている。
覚悟が足りなかったのか、怖気付いて逃げ出したやつがいるのだろう。
おそらくあいつらは、前に戦った白ローブほどの精鋭ではないのかもしれない。それなら敵の目の前で棒立ちなんて隙を晒していたのも理解できる。
こいつらに視線を集めておいて実は背後に別動隊がいるのかとも思ったが、うちのスライムの探知能力があれば間違いなく発見できる。さらにまっさらな荒地が広がるというこの土地の特性から、不意打ちなんて真似は食らいようがない。
俺は心置きなく、目の前の敵に集中できるというわけだ。
「緑スラありがとう。もういいぞ」
敵が距離を詰めてきたので、風魔法のアシストを切る。
あいつらと接敵するまでにあと2、3発は撃てるだろう。
と、かれこれ何発目かの丸太を射出する。
やはり精度はあまり良くなく、着弾地点にブレがあるのだが……逆にそれがいい”味”を出している。
今まで直撃することなく地面にぶつかり、威嚇としかなっていなかった丸太だったが、今放り投げたものはふらふらと空を舞い、そのまま吸い込まれるようにして人間の群に突っ込んでいった。
「はは」
人間たちの悲鳴が聞こえてきて、思わず笑いが零れる。
意外にも、丸太が地面に落ちたときのような破裂音は耳に届いてこなかった。
「うし、お前らいくぞ!」
今が好機。
巧遅は拙速に如かずともいうしな。やると決めたらうだうだ悩まず、まずはやる。
経験のない俺にはこれくらいのわかりやすい戦法が合う。
十分頑張ってくれた試作型トレビュシェットを置いて、俺は人間に向かって走り出す。
闘志漲るスライムたちも、ぴょーんと跳ね、すぐに俺を追い越して行った。
「子スラは魔法使うなよー!」
まだ分裂したての子スライムたちは魔力が少なく体も小さい。
スライムという生物に対する魔力の重要性を考えると、一応子スライムには魔法を使わせない方がいいだろう。万が一ということもあり得る。
これが人間なら、子供を戦場に駆り出すなんて……と批判をされそうだが、子スライムといっても分裂しただけで本当に子供というわけではない。
魔力が少ないだけで、年齢は……いくつか知らないが、それなりに重ねてきた年月はあるだろう。
というかうちに戦力を出し惜しみする余裕はない。俺らがやられたら子スライムだってどうなるかはわからないのだ。
どっと押し寄せる俺らを見て、人間たちもそれぞれ反応するのだが、その動きには差があった。
戦闘モードに入ったのか、険しい顔つきをしてこちらに向かってくるものから、怖気付いて立ち竦むもの。周りに合わせてなんとなく戦う雰囲気だけを出しているもの、だいたいその3種類。
――烏合の衆だな。
ただの寄せ集め。
侮ってはいけないと自らを律する気持ちもあるが、同時にうちのスライムがこんなやつらに負けるはずがないとも思ってしまう。
そうこうしていると、先を行っていたスライムたちが人間の中でも先行していた唯一まともそうな奴らと接敵。
より大きくぴょんとね踏み込み、体をぐっとへこませ……一瞬の溜めの後、爆けるようにして体を飛ばす。
初手からかますスライムの十八番、体当たり。
外れたのもいるが、5人いた先頭集団のうち2人の人間の頭部が、ボクサーがトレーニングで使うパンチングボールのようにバインと跳ね、そのまま体を引き連れ飛んでいく。
……たぶんあれ、首の骨折れてるよな。
と感心したのも束の間、相手の顔面を吹っ飛ばした赤と緑のスライムは、その反発で自らもふわっと空中に浮き上がる。
宙を舞う2人を除き、スライムの攻撃を盾で塞いだもの、なんとか躱したものは体勢を崩していたが、1人……反撃をする余裕のある奴が残っていた。
そいつは両手で持った西洋風の剣を振りかぶり、空中にいるスライムめがけて剣を下ろす。
――っ!
一瞬、体が固まる。
しかし、その剣が振るわれるよりも一手早く、宙にいる赤スライムがごうごうと燃え盛る炎の塊を吐き出していた。
頭上から襲いかかるそれをモロに食らったそいつは、雄叫びのような悲鳴をあげて地面に転がる。
――ふぅ。
ほっと一安心。
気づけば、スライムの初撃をいなしていた2人も、体勢を崩した隙に黄スライムの土魔法で足を絡め取られ、動けないところを他のスライムにボコボコにされていた。
――こっちは大丈夫そうだな。
俺はさらに奥の、体当たりをスカされて飛んでいったスライムたちのフォローに入った方がよさそうだ。
3匹のスライムを連れて、泣き叫ぶ人間たちの横を抜けていく。
おおよそ、奥にいる人間は10人くらい。
――まずは数を削りたい。
「緑、たのむ」
その人間たちは、剣を構えてこちらや、体当たりを外して飛んできたスライムを睨みつけてはいるが、そこから闘志は感じ取れない。
――武器を持ってこんなとこまで乗り込んでおいて、覚悟のひとつもできてないのかよ。
だんだん腹が立って来た。
その時、ヒュオウと大気が流れる音。
緑スライムにお願いしていた風魔法による突風だ。
その風の先端で砂埃が起き、見えないはずの風が敵に向かって進んでいくのが見てとれる。
それに合わせて、手に持っている木盾を思い切り投げつける。
依然、遠距離攻撃の精度という欠点は克服できていないが、スライムのフォローがあればその限りではない。
全員とはいかなかったが、目に見えない当然の強風に顔を背ける奴が複数人。そのうちの1人の頭部目掛けて、硬化処理された木の盾が物理法則を無視した一直線の軌道を描いて射出される。
――ぐしゃり。
鮮血が空に舞う。
2回目は効かないだろうが、初見では対応が難しい風魔法の突風と植物魔法を使った投擲の合わせ技。
血のついた木盾を回収しつつ、さらに距離を詰める。
その頃には、最初に体当たりを外してぽとりと落ちてきたスライムたちも体勢を立て直し、俺たちが狙っている集団に飛びかかっていた。
そうなるともう乱戦状態。スライムたちも心配だが、俺は俺で戦わなければならない。
残念ながら、他の心配ができるような余裕は俺にはなかった。
さすがに戦場のど真ん中に行く勇気はないので、端の方、孤立している人間に対して攻撃を仕掛ける。
狙いを定め、目標とする相手目掛けて走り込み、勢いそのままに木剣を振り回すと、俺に気づいた人間はそれを剣で振り払おうとする。
が、植物魔法で強化された振り下ろしの前にそんな防御は意味を成さない。
鉄製の剣は軽い音を立てて手元を離れ、風を切る木剣は、そのままそいつの側頭部を斜めから殴打。
ゴム毬を殴るような重い手応えと、水っぽい音。
”やった”のを確信した俺は、次の相手を探す。
すぐ近くに、あわあわと集中できていない様子の人間がいたので、植物魔法を使って飛ぶように近づいてそのまま叩き伏せる。
――よし、2人目だ。
と、敵を仕留めた数が確実に増えていくことに生を実感していると――。
「うおっ」
どこにそんなでかい図体を隠していたのか、人影から突然2メートルはありそうな大男が現れ、俺に向かって斧を振り下ろしてきた。
「あっぶね」
すんでのところでそれを躱す。気づくのが遅れていたらやばかった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!」
地面に突き刺さった斧を引き抜き、そいつは鬼のような形相でこちらを睨みつける。
どうやら俺は、よほどの恨みを買っているみたいだ。
そいつの得物を観察する。俺の木剣の1.5倍はあろうかというリーチのある長斧で、先端には三日月型の片刃のヘッドが付いている。
……強そっ。
どこからどう見てもパワー系。
そいつは、俺が今まで相手にしたことのないタイプだった。




