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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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45 試作型


 その時はすぐに訪れた。


 南にある森の道を見つめていると、この森では見かけない色をした点がぞろぞろと溢れ出るように現れる。


 複数――それもかなりの数の敵。


「魔物じゃなさそうだな……」


 人間か、魔族か。この距離ではまだ相手の姿までは把握できない。


 どちらにせよ、今回も厳しい戦いになりそうだなと気合を入れ直す。


「そうだ」


 と、俺は東屋の先にあるトレビュシェットを置いてある場所まで戻り、散乱している丸太の弾をどでかい台車に積み込んで、トレビュシェットの試作型と共に運ぶ。


 スライム用はまだ無理だが、この試作型なら実践投入しても問題ないレベルだ。


 むしろ訓練や実験ではわからないような、実践ならではの問題点や不具合、兵器の影響力などを知ることができるこういった機会は早ければ早いほどいい。


 そういう意味でも、試作型とはいえトレビュシェットがこの時に間に合ったのは幸運だ。


「ほんと、早めに準備しておいてよかったな」


 スライム領ができてから、領内での魔力の重要度をすぐ引き上げたことも、戦力増強の施策の一環として兵器の開発に早くから着手したことも、すべてはこのような問題に対処するため。


 弱肉強食というこの世界の普遍のルールに合わせていうのなら、生き残るため。


 右も左もわからない中、闇雲に進めていたこれらの考えが間違いではなかったと、今では胸を張って言える。


 遠くに見える点の集まりは、淀みなくこちらへ向かってきているようだった。


「よし! 行くぞ!」


 当然領のすぐ隣で血で血を洗うような戦闘を起こしたくはない。なのである程度のところまでは、こちらも荒れ地へと打って出る。それが許されるだけの距離的な余裕がこの荒れ地にはあった。


 さっきまでじっと南の森を見つめていたスライムたちも、俺の声を聞くやいなやその場で跳ね、ペチンペチンと大地を鳴らす。


 18匹もいるとそのペチペチもなかなかの迫力だ。


 ――やる気は十分みたいだな。


 丸太を積んだ台車と試作型トレビュシェットを植物魔法で浮かせて、スライムたちと共に荒野を行く。


 後ろを付いてくるスライムたちの足音は、とても頼もしかった。


 

 少しして、運んでいた兵器を地面に下ろす。


 さっきの試作型の投擲を見るに、相手を待ち構えるにはここら辺りがいいだろう。


 ゆっくりと降ろした試作型トレビュシェットからは、ミシっと嫌な音が鳴った。こういった複雑な構造物を運ぶのは結構神経を使うから面倒だ。


 アームを降ろし、丸太をセットする。


 ……なんだろう、なんだかソワソワしてきたな。


 この、スライムが敵を発見してから接敵するまでの時間というのは今までも何度も味わってきた。


 最初こそ緊張していたが、最近はメンタルは穏やかで集中できており、精神的には充実していたと思う。


 しかしここで、今までの白兵戦とは違う兵器という要素の登場。期待もあるし、効果的に作用してくれるのかという不安もある。


「……頼むぞ」


 それに、これの成果によってスライム領の武器が1つ増えるかどうかが変わる。


 素人なりに一生懸命取り組んできたものだし、上手く行って欲しいと思うのも当然だった。


 前を向くと、小さな点のようにしか見えなかった敵も、形がわかるくらいにまで近付いていた。


「人間……か?」


 その姿は二足歩行。まず思い浮かぶのは人間だが、人形の魔族がいないとも限らない。


 つい最近、魔王みたいなのと会ったばかりだしな。


 しかしどちらにせよ、スライムが敵認定している時点で少なくとも俺にとっては敵対種族で確定だ。


「緑スラ、風魔法よろしく」


 俺の側にいた3匹のうち、緑色をしたスライムがひょこっと試作型の隣に並ぶ。


 ――思い出せ。


 緑スライムと共に試作型の試し撃ちをしたのはたったの数時間前。


 あの軌道。飛距離を思い浮かべる。


 敵との正確な距離を測ることはできないので、ここは目算でやるしかない。


 ――頭上を越えていくよりは、手前に落ちる方がいいよな。


 植物魔法があれば、10秒もあれば丸太の再装填は可能だろう。


 連射といえるほどではないが、相手が詰めてくる分に関しては装填スピードである程度カバーできるはず。


 じっと、その時を待つ。


 敵の数はおおよそ20か30か、それくらいはいるだろう。


 30だと想定しても、俺を除けば18対30。数では負けている。


 本当は敵1体に対して複数のスライムで対応したいのだが、そうはいかないようだ。


「お前ら、作戦はいのちだいじにだぞ。怪我したり、やばそうだったら引けよ」


 スライムたちはどこか不満げに体をぷにっとへこませる。


「……絶対だぞ」


 ……新たな不安の種が生まれた。


 ぺしっと、足元を突かれる。


「ん?」


 顔を下げると、こちらを見つめる赤と黄のスライムがいた。


 俺にはそれが、『お前もな』と言っているように感じた。


「あたりまえだろ」


 そう言いながらも、実際に自分が危険になった時に逃げることができるのかはわからなかった。


 状況が問題ではない、心情的な問題だ。


 ――俺もスライムのこと言えねーな。


 俺の心の奥底で、ぐつぐつと熱い感情がたぎっているのがわかる。


 この世界に染まってきたのかもしれない。


 負けたら死ぬ。勝たなければならない。


 そんな戦いを前に、逃げることなんて考えられなかった。


 むこうの世界では眠っていた、闘争本能みたいなものが目を覚ましたかのようだった。


「人間っぽいな」


 目の前にいる敵は、ほとんどが長袖に長ズボンという特徴はあるが、それぞれ多少色合いが違ったり、服の上から防具のようなものを着込んでいるように見えた。


 人間だったら面倒なことになる。いや、もうなっているのだろう。


 こいつらは明確に俺らを狙っている。それもなんの前触れもなく突然この人数で現れたとなれば、俺らの居場所はすでに人間たちにバレているということだ。


 それに、見たことのある姿をした奴もいる。


 人の群れの中に1人、白いローブを着た人間が、人影の奥の方でちらちらと見え隠れしていた。


 もしかしたら前に戦った白ローブに仲間がいたのかもしれないな。


「いくぞ」


 そんなことを考えながら、静かに緑スライムに合図をだす。


「さん……にー……いち」


 この時になると、ソワソワや緊張はもうなかった。


 高く吊り上がっているカウンターウェイトが、音を立ててぐっと沈む。


 それと同時に、キリキリと悲鳴を上げながらアームが跳ね上がり、ヒュオウと風を切ってロープの先にある丸太が浮遊。……吸い込まれるように、大気がふわっと流れた。


 空を滑るように、一抱えもあるような丸太が飛んでいく。


 それに気づいたのか、敵の動きが止まる。


 俺も、スライムも、敵も、その場の全員が空を見上げていた。


 たった数秒の、そんな静かな時を経て、くるくると緩やかに回転しながら空を飛ぶ丸太が地面と激突。


 ――破裂音。


 丸太はあいつらの数メートル手前で落ち、一呼吸置いてから、その人間の群れはざわざわと騒めくのであった。

 

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