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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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44 戸籍


 頑丈な木材がギシギシと悲鳴を上げ、ツタを編んで作られたロープが風を切る。


「おお~、いったな~」


 ガコンとカウンターウェイトが沈む音と共に、50センチほどでカットされた丸太が綺麗な放物線を描いて空を飛んでいく。


 側にいるスライムたちも、空飛ぶ丸太を目で追いかけて体が弧を描いている。


 命中精度は置いといて、対象物を投げることに関しては成功したといってもいいだろう。


「すご」


 丸太はそれなりに重量があるはずだが、それが軽々と飛んでいくのを間近で見ると、人間では抗うことのできない”力”を感じて少し怖い。


 丸太を大量に積んだトラックの後ろを車で走るのが怖いのと似たような感覚。もしそのエネルギーがこちらに向けば、俺なんかひとたまりもないだろうという恐怖。


 しかしそれが相手に向かうとなれば話は別。むしろ力強い味方となってくれるだろう。


 今俺がやっているのはトレビュシェットの開発。


 トレビュシェットとは平衡錘へいこうすい投石器。簡単にいうとシーソーの片方に投げる用の石を置き、その反対側に重りを乗せることでシーソーを跳ね上げて投石する兵器だ。


 実際はシーソーより支点が片方にかなり寄っているし、弾を乗せる受け皿がシーソー部分と紐で繋がっていて、遠心力を増幅させているなどの違いはあるが、イメージとしてはそんな感じ。


 古くから攻城兵器として歴史に登場するトレビュシェットだが、近代でも利用されたという話は聞いたことがある。原理はシンプルながら、それくらいの実用性があるものだ。


 小さい模型で何度か試した後、上手くいった物を大型化し、数度の調整を経てようやくまともな投石が可能となった。


 ちなみに今丸太を投げたこのトレビュシェットは俺用だ。


 本来はカウンターウェイトに岩などの重りを使うのだが、これはカウンターウェイトとなる箇所の木材を植物魔法で下に引っ張るようにしてアームを回転させている。


 いずれはスライムが使えるようにしたいとは思っているが、まずはトレビュシェットの構造そのものを理解するために色々試しながら作っているところ……まさに試作型というわけだ。


「……いけるな」


 まだまだ改善点は多いこのトレビュシェットだが、俺はたしかな手応えを感じていた。


 試作型で投石――といっても投げているのは丸太だが、そこまでできたのならスライム用トレビュシェットの完成も近い。


 物さえ作れるのなら、俺の植物魔法であれば量産は容易だ。


 もっぱら肉弾戦がメインのスライムたちが、遠距離攻撃まで手に入れたとなればまさに鬼に金棒といったところである。


 しかし、量産の前にせっかく作ったこの試作型の性能をより向上させたいと思うのも作り手の心。


 いや、試作型の性能というよりはスライム込みでの投石の限界を知りたいというほうが正しいか。 なにせここはスライム領なのだから。


「緑スラちゃんちょっと来て~」


 と、手招き。


 投石器の実験なので、当然ここは拠点から少し離れているのだが、俺の側には赤、黄、緑のスライムが1匹ずついる。


 スライムの念話の仕様が判明してからというもの、どこに向かうにも最低各色1匹ずつは連れて歩くようにしていた。こうすれば、例え何か緊急事態があったとしても、側にいるスライムにそれを伝えることで領中のスライムに伝言が行き渡るというわけだ。


 実に素晴らしいスライムネットワークである。


 ということで、近くにいる緑スライムに実験を手伝ってもらう。


 さっきのトレビュシェットが射出した丸太の飛距離はせいぜい100メートルってところだった。それでも十分すごいが、緑スライムの風魔法を使えば飛距離はさらに伸びるはず。


 実はトレビュシェットを作る前にバリスタの開発にも手を出しており、その過程で緑スライムと共に弾の弾道を安定させる実験をしていた。


 バリスタ本体の素材の問題や、弾の作成コストの問題により実用化は難しいということで、開発自体は1日で中止になったのだが、短期間とはいえその時のノウハウは俺と緑スライムに蓄積されている。


「さっき見てた通り、これは丸太を吹っ飛ばす装置だ」


 緑スライムはじっと俺の顔を見上げる。


「前やったバリスタの弾みたいに、これにも風魔法を使ってもらえるか?」


 ……数秒ほど待つと、緑スライムは体をふるふると震わせた。


「さんきゅ」


 5メートルほどあるトレビュシェットのアームを戻し、先端に付けられたロープの先にある受け皿に丸太を乗せる。質量や空気抵抗のことを考えると丸みのある石を弾として用意した方がいいのだろうけど、多少性能が落ちてもうちのトレビュシェットは丸太でやる。


 トレビュシェットを量産するという目的からも分かる通り、これに求めるのは精度よりも数。黄スライムには他の大事な仕事があるし、いちいち弾を作ってもらうのは魔力的にも時間的にも勿体ない。


 丸太であれば、獣道を切り開いた今資材は大量にあるし、俺の魔法でいくらでも作れる。


 遠距離攻撃手段としてトレビュシェットには期待はしているが、あくまで本命となる近接戦闘を有利に迎えるための補助としての兵器なので、注げるリソースは限られる。


 丸太の乗った受け皿を台のやや内側に引き込み、緑スライムに声をかける。


「じゃ、いくぞー。さん……にー……いち」


 丸太が乗っている方とは逆の端に付けられた、観覧車のゴンドラのようにぶら下がるカウンターウェイトを植物魔法を使って引き下げる。


 木製のアームが軋み、先端がぐっと持ち上がると同時に受け皿がついたロープも上昇。円を描く様に振り回され、アームに引っかけてあるロープの片方が外れ、ヒュンと気持ちよく丸太が飛んでいく。


 ――相変わらず迫力のある飛びっぷりだな。


 と思いつつも、今回はこれだけが目的ではない。


 目の端で緑スライムの事を観察していたが、俺の掛け声を聞いて体にぐぐっと力を入れ、上手くタイミングを合わせてくれたようだ。


 目視はできないが、おそらくあの丸太は緑スライムの風魔法による”風の守り”がついているはず。


 それは風で丸太押し出すというよりも、丸太の先にある空気を魔法で押しのけるというもの。


 空気抵抗が減少するのはもちろん、密度の下がった方に流れ込む空気が丸太の推進力の助けとなってくれるだろう。


 たっぷりと、5秒ほど空を駆けたのち丸太は地面と衝突。遠くで丸太が砕けた様子がかすかに確認でき、少し遅れて甲高い破裂音が聞こえてきた。


 丸太の飛距離は正確にはわからないが、緑スライムの補助なしの時と比べて2倍以上は飛んでいるような気がする。


「……いけるな」


 と、本日2度目の頷き。


 しかしそれは1度目とは意味が違う。

 

 スライム領はぽっかりと空いた荒れ地にある領。この遮蔽物の無い平地が領を守る壁となるが、敵に近寄られると籠城などといった防御方法は取れない。


 なので敵を見つけ次第排除する、『攻撃は最大の防御なり』を地で行く領なのだが、その場合もっとも困るのが敵が大人数だった時。


 いくら囲まれようと俺たちだけなら戦えるだろうが、領を守りながらとなると数の差で押し切られてしまうかもしれない。


 そんな時、この兵器があればどうだろうか。


 トレビュシェットが戦場に並ぶ姿を思い浮かべる。点ではなく面を制圧するこの兵器があれば、本来不利な盤面もいくらか巻き返せるだろう。


 ――っていうのは、夢を見すぎか?


「……ま、領がやられても最悪俺らが生きてればなんとかなるか」


 トレビュシェットに想いを寄せすぎるのもよくないかと、気持ちを切り替える。やる前からやたらと期待しすぎると、実践で効果が無かった時にショックを受けそうだ。


「ありがとうな。緑スラ」


 と、感謝を伝えて開放する。開放するといってもすぐ近くにいるんだけどな。


 とにかく今は、トレビュシェットをスライム向けに調整することから始めよう。それが終わらなければ量産もできない。


 目の前の兵器は置いて、俺は2台目――つまりスライム用のトレビュシェットの作成に取り掛かる。


 変更するのはカウンターウェイトの部分だけなので、植物魔法があれば作るだけならそれほどは時間がかからない。


「今日中に1台くらいは調整までいけそうだな」


 まだ太陽の位置は高い。


 日没までは4時間ほどといったところ。スコールさえ降らなければ、時間は十分だろう。


 俺は拠点に歩いて戻り、大量に積んである丸太からいくつかを運ぶのであった。



 ◆◆◆


 

「あれ」

 

 1時間ほど経ち、ささっと2台目のトレビュシェットを作り終えた頃、側にいたスライムたちがいなくなっていることに気がついた。


 さっきまでは試作型のトレビュシェットに乗って、アームを滑り台にしたりロープを引っ張ったりして遊んでいたのだが……飽きたのだろうか。


「にしてもいなくなるかな」


 自意識過剰みたいでこんなことを言うのは嫌なのだが、スライムからしても俺の動向を把握しているのはそれなりに優先度が高いことなのだと、傍から見ても思う。


 ――作業に没頭しすぎたかなー。


 と、家があるため池のほうを見ると。


 ――っ!


 ”大勢”のスライムたちが、水路が伸びる森の方をじっと見つめていた。

 

 この反応は間違いなく敵対種族が来た時の反応。


 俺は急いで家に帰り、木剣と木盾を拾ってスライムの元に向かう。


 ――水路の方か、今回は何が来るんだ。


 獣道を増やし、4方向から敵がやってくるようになったが、やはり水路側というのは嫌なものだ。


 どうしてもあの白いローブを着た人間たちを思い出してしまう。


 スライムが集まっているところにたどり着くと、赤、黄、緑の中からちょうどいいサイズのものを1匹づつ選ぶ。


「お前ら今回の連絡係な。俺から離れちゃだめだぞ」


 改めて選ばれた3匹のスライムはふるふるっと元気に体を震わせた。


 これは何かがあった時、戦場全体に声を届けるための連絡用スライムたちだ。当然、俺の護衛係という意味もある。……むしろそっちのほうがでかい。


 とはいえ連絡係というのも馬鹿にはできない。なぜなら。スライム領はすでに新しいフェーズに入っているからだ。

 

 

 現在、スライム領のスライムの数――18匹。



 初期のころを考えれば、もはや大所帯である。

 

 魔力重視の政策がハマったおかげか、我が領はその人口……いや、スライム口を大きく伸ばしていた。


「……戸籍システムも必要になるかもな」


 と、そんな冗談も思わず口から出てしまうほどの出生率であった。


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