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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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36 老人2


 ――ゲホッ。コホッ。


 モクモクと立ち昇る土煙に思わず顔を覆う。


 風がそれを遠くへ追いやってくれるのを待っていると、俺を守るかのように前に並んだスライムたちの先に、人影のようなものが見えた。


 ――人間かっ!?


 俺の警戒度が急激に上がる。


 正直、人間にいい思い出はない。


 消えゆく土煙の向こうで、その人間がパンパンと服を払う姿が見えた。


 緊張感が辺りを包む。


 思わず手をぎゅっと握りしめる。


 砂埃が晴れると、そこにいたのはひとりの老人と、


「えっ……」


 その下に広がる赤い染み。潰れた肉塊だった。


 到底モザイクなしでは見せられないようなその光景に、思わず引いてしまう。


 ――いきなりやってきて何なんだ。


 そう思っていると、スライムから僅かにだが怯えのようなものを感じた。


 白ローブが来た時の、こいつら本当に殺ってもいいのか? といった躊躇ではなく、相手の強さを認めているが故の戸惑い、そんな感じだ。


 基本的にオラオラなスライムたちが物怖じするとは、一体何者なんだ。


 目の前の老人は頭がつるつるで、顎に長く白いひげを蓄えている。厚めの野暮ったいローブを着ていて、背を丸めているせいかだいぶ小柄に見える。


 老人というと、この世界に来る前、真っ黒い空間で出会ったあの老人のことを思い出すが、それとは見た目が違う。


 ……あれ、俺あの神様っぽい老人の姿なんて記憶にないぞ。


 でもなぜか、違うということを頭が理解していた。


「いつまで寝とる」


 老人は、手に持っていた杖でおもむろに赤い肉塊をツンと突いた。


「えぐっ」


 思わず眉を(ひそ)めるような衝撃的な映像だったが、その老人の声に応えるかのように、その肉塊はピクピクと震えた。


 すると、もきゅもきゅとその肉塊が盛り上がり、大地に咲いた一面の赤いシミも吸い取られるようにして集まって、飛散する赤色に隠れていた布きれが元の色を取り戻していくと、数秒後には白いロング丈のワンピースを着た黒髪の女性になっていた。


 ――いやいやいや! あり得ないだろっ!


 この世界で様々な経験をしてきた俺だが、これはその中でも一番理解に苦しむ現象だった。


 潰れた肉塊から人間が生まれる。


 思考が鈍る。

 

 目の前で行われた、蘇生と呼ぶにはあまりに力技すぎるそれを、脳が理解することをイヤイヤと拒んでいた。


 しかし、まだこちらが事態を受け入れるより先に、その女は恥ずかしそうに顔を赤らめて話し始める。


「コホン。ちょっと着地を失敗してしまいましたね」


 手を口元に寄せてお上品に咳払い。


 ――失敗とかそういう次元じゃねぇ!


 と、心の中で突っ込むも、それを口にするだけの勇気は俺にはなかった。


 理解できない状況に体が(すく)む。まるで『先に動いたらやられる』みたいな心情だった。


「お主のドジは今に始まったことじゃない」


「ま、魔王様! 何を言うんです! まるで私がいつも抜けてるみたいじゃないですか」


そんな俺をよそに、2人は軽快に話し始める。


 ――魔王……?


「ほれ、そんな怒っておると余計に心象が悪くなるぞ」


「はっ! すみません。いきなりお恥ずかしいところを見せてしまって」

 

「にしても……これが新しい魔族の長か。まだまだガキんちょだの」


「そりゃあ魔王様に比べたら大抵の生き物が子供ですよ」


 ――魔王? 魔族? 長? だれが?


「ほっほ、それもそうか。数千年生きておるお主以外はな」


「そうですよ! 魔王様なんて私の半分も生きてないんですから、もっと私に敬意を持つべきです」


 ――4桁……? 魔王? 魔族……半分、うわーーーー!


 まだ飲み込み切れていないワードの上から追加で意味の分からないワードを詰め込まれて、頭が爆発しそうだった。


「す、すみません! あの、どちら様ですか……?」


 二人で楽しそうに話しているのところに割って入る。


 目の前でさんざん好き勝手やられてるのだから、これくらいのことは許されるだろう。


「ほっ、すまんの小僧」


「あら、これは失礼しました」


 2人の目と俺の目が、ようやく合う。


「わしは魔王。……というと、お前みたいなのは警戒するかもしれんが、別になんもやることのないただのじじいだの」


 ”魔王”という言葉に身構える俺の心の内を見透かすように、先手を打たれる。


「そうですよ。人族は魔王様を魔物の元締めかと勘違いしていますけど、この人にそんな大層な力はありません」


 どこか念を押すように、黒髪の女がずいと前に出る。


 人族って俺のことだよな。そうだろうとは思ってはいたが、やはりこの世界でも人間と魔物は敵対関係みたいだ。


「私はエルナと申します。遠い昔に魔族となった不死族の生き残りです」


 女は礼儀正しく、小さく礼をしてそう名乗った。


 ――エルナか。意外と普通な名前だな。


 残念ながら俺はあまり人の名前を覚えるのが得意ではない。不死の化物という印象の方が強いし、覚えるとしたらそっちのほうだろうな。


 それにしても気になる言い回しだ。


 ”魔族となった”、か。


 つまり魔物と魔族は別物で、魔族になるにはなにかしら条件があるわけだ。


 さっきこの魔王と呼ばれる老人は俺を見て『これが新しい魔族の長か』と言っていた。素直に受け取るなら、”俺が新しくスライム族の長になった”と考えるのが自然だ。


 まだ魔族ではなかった俺たちが、なにかしらその条件を満たしたということなのだろう。


 一体なんだその条件は。そもそも魔族ってなんだ。何か意味があるのか?


「ほっほっほ」


 新たな情報を整理しようと懸命に頭を働かせていると、魔王が楽しそうに笑った。


「小僧。あまり難しい顔をして黙りこくっておると、何を考えてるのやらと相手に警戒されてしまうぞ」


 はっとして、顔から力を抜く。思えばこの世界にきてから人間と会話するという機会がほとんどなかった。そのせいで、そういった相手側に立って考えるという気持ちが薄くなっていたのだなと気づかされる。


「人族はやっかいじゃろ。あいつらの中でも飛びぬけて強いやつらは、そういった表情や仕草からも動きを読み取るぞ」


 これは……ただの世間話か? 深読みしすぎかもしれないが、俺にはそれが魔王からのアドバイスのように聞こえた。


「……うす」


 とだけ、小さく答える。こいつらは敵か味方か、まだ計りかねているところだった。


「そんなことより先に、魔王様あれを」


「そうじゃの」


 魔王は杖を持っていない方の手でローブをガサゴソと漁り、1本の枝を取り出した。


「長を持ち、領を持ち、群れで人間を討伐したものは魔物から魔族となる」


 杖を突きながらゆっくりと歩き、それを俺に差し出す。


「おめでとう。これはわしからの贈り物じゃ」


 ……これ、安易に受け取ってもいいのか?


 こいつらの真意はなんなんだ。なぜ魔族認定みたいなことをしている。というか俺たちの事情に詳しすぎないか。


 それにすごいこと言ってたよな。


 ”長を持ち”これはわかる。いや、わからないけどいったん受け入れたとする。こいつが言うには俺のことだよな。そして”群れで人間を討伐”。これもわかる。あの白ローブたちのことだ。しかし”領を持ち”、これはどういうことか。


 俺らの拠点のことなんだろうが、領というのは大抵権力者から任されたり(たまわ)ったりするものだよな。俺らを傘下に引き入れようとしているのだろうか。というかここってそもそもこの魔王の土地だったのか?


 おっと、気づけばまた眉間に皺がよっていた。


 ――落ち着け。

 

 軽く一度深呼吸する。


「あなたたちが魔王と不死者ってのは分かりました。だけどその魔族ってのはなんなのか、まずはそこから説明して欲しい」


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