34 試してプニーン
まず、大きさによってスライムを種類分けすることにする。
スライムたちが分裂するようになって、スライム間にサイズの違いが生まれたからだ。
といっても難しいことはしない。
バスケットボールくらいの、もうすぐ分裂してもいいくらいの大きさを”親スライム”。
ハンドボールくらいの、生まれたばかりの大きさを”子スライム”。
それ以外は普通にスライムとする。
実際には、体積的に親スライムはバスケットボールほど大きくないと思うし、子スライムはハンドボールより大きいくらいでないとおかしいと思う。なのでボールのサイズはあくまで目安でしかない。
それに、すべての場合にこの呼び分けをすることはしない。基本は全てスライムか、色+スライム呼びで、大きさが関係する時にだけこの分類を使う予定だ。
例えばまさに今。
赤、黄、緑のスライム1匹ずつと、さっき俺の上で遊んでいた緑の子スライム1匹の、計4匹を拠点から少し離れたところに連れてきた。
まずは簡単にこいつらの聴力? 検査をする。耳なんて見当たらないので聴力といってもいいのかはわからない。
赤、黄、緑間での聴力の差があるかというのも気になるが、今までの生活を振り返っても日常で俺の声が届かないなんてことはなかったので、スライムの聴力がどれくらいのものなのかというのもかなり気になっている。
少なくとも悪いなんてことはないだろう。
それとサイズ差、つまり保有する魔力差で変わるかどうかも調べるために緑の子スライムにも手伝ってもらうことにした。
「よろしくな」
なぜ連れてこられたのか理解していないであろう4匹のスライムたちは、一度頭に『?』を浮かべるかのように体を傾けて固まるが、すぐに『まかせろ』と言わんばかりに体を膨らませた。
「俺が声をかけるから、聞こえたらその場でジャンプしてくれ」
そう頼むと、こいつらはふるふると体を震わせる。
まずは小手調べ。
スライムたちから10メートルほど距離を取り、「聞こえるかー」と、調査の精度を上げるためできる限り普通の声量を目指して声を出す。
すると、スライムたちはすぐに4匹ともぴょんと跳ねた。
うん。これは想定通りだ。
差がでないよう力を抜いて発声しているので、普段より声量も抑揚も抑え目なうえに、口の動きでわからないよう肘の内側で口元を隠しているので普段の会話より聞き取りにくいとは思うが、このくらいの距離なら問題ない。
次は倍の約20メートル。
……結構遠いな。
ここは外だし、風もあるので余計にそう感じる。もしこの距離で会話するならかなり声は大きくなるだろう。それくらいの距離だ。
「聞こえてたら赤スラだけジャンプしてくれ」
そう、平坦なトーンで伝える。
別にスライムを疑ってる訳ではないが、あいつら、隣のやつが跳ねたらただ楽しくて自分も一緒に跳ねてしまう可能性がある。
これも調査の精度を上げるために必要なことだ。
結果は……赤スライムだけがぴょんと跳ねた。
成功だ。
日頃から赤スライムとか黄スライムとか、色で分けて呼ぶことはあるが、あいつらの自認もちゃんと色+スラなのも分かってよかった。
今度時間がある時に、親スラ子スラの概念も教えよう。
それはそうと、心なしか赤スラ以外のスライムがうずうずとしているような気がする。
……やはり声をかける時に色を指定したのは正解だった。
ジャンプできないスライムがでないよう、色を変えながら何度か検査を繰り返す。
その全てで、俺が選んだ色と同じ色のスライムがジャンプしてくれた。
この距離もおっけーだな。
この環境下だと、人間同士でも聞こえないか、聞こえても何を言ってるかまで理解するのは難しそうだが、こいつらは俺の声にすぐ反応していた。
やはり耳? は良さそうだ。
次はさらにその倍、約40メートル。
ここまでくると距離の正確さも怪しくなってくる。まぁガチの聴力検査ではないのである程度でいいだろう。
人間であれば、この距離ならまず聞こえないだろうな。
「緑スライム、ジャンプしてくれ」
もはや独り言のようにそう呟く。
すると、さっきまでとは違い、スライムが迷っているように見えた。
……うーん。一応聞こえてはいるみたいだな。
遠くに小さく見えるスライムたちは、何かもぞもぞとお互いを見合うような仕草をしているようだ。数秒後、緑のスライムと子スライムがぴょんとジャンプした。
それから数回、同じようにしてまた検査を繰り返したが、結果は合っていたり合っていなかったりとまちまちだった。
どうやらここらあたりが聞き取れる限界らしい。
魔法的なチカラで”どこにいても声が届く”みたいなパターンも少しだけ期待していたが、さすがにそんな都合よくはいかないようだ。それでも人間よりはよく聞こえている。
念のためさらに距離を伸ばしてスライムたちに声をかけて見るが、やはりこれはダメだった。スライムたちは何事もなかったかのように、ぽつんと大地に居座っていた。
「ふむふむ」
緑スラと緑の子スラの反応も同じだったことからサイズ差による聴力の違いもなさそうだ。
結論、人間とスライムの会話は、人間同士より少し遠くまで可能。
ということだ。
では次は、スライム同士の会話はどうか。これの調査だ。
今回の本命となる調査、実験である。
まずは別の色との会話……さっき苔エリアでスライムが見せていた、お互いが停止して行う念話のようなものが、どれくらいの距離まで可能なのかを調べよう。
俺は一度スライムの元に戻り、赤スライムだけを抱いてまた10メートルほどの距離を空ける。
『黄スラに”聞こえたらジャンプして”と伝えてくれ』
俺の声が離れているスライムたちに聞こえないよう、腕に乗るみたいにして抱えられている赤スライムに囁くような小さな声で伝える。
……まぁこの距離なら余裕だろ。
と、そんなことを思っていたのだが……少し先にいる黄スライムはぴくりともしない。
「ん?」
俺の意図が伝わってなかったのかなと思い下をみると、赤スライムも困ったようにぺこっと体をへこませていた。
……このやり方がよくないのか?
わからない。
とりあえずひとつづつ要因を確かめていこうと、赤スラに『黄スラに”聞こえたらジャンプして”って、伝わるまで続けてくれ』と囁いてから、すこしずつ距離を縮めていった。
もし距離が問題ならどこか一定のラインを越えたところで黄スライムが跳ねてくれるはずだ。
ゆっくりと、一歩一歩時間をかけて黄スラたちのところへ近づいていく。
一歩。また一歩。
しかし、なかなか黄スラは反応しない。もちろん緑スラ2匹もだ。
……やはり、そもそもこの方法が実験として成り立ってないのか。
と思い始めた、その時。
黄色のスライムがぴくっと震えて固まったかと思うと、すこしの間を空けてぴょんと跳ねた。
「おおっ!?」
もう黄スライムは目の前。
距離にして約2メートルほど。
……まさか、念話はこの距離じゃないと無理なのか?
今度は黄スライムを腕に抱え、同じ実験をする。
緑スライムが跳ねるよう、黄スライムに指示してみるが……結果はほぼ同じ。
「まじか……」
別の色間での念話は、こんな近距離じゃないとだめなのか。
思っていたものと真逆の結果だ。
念話のほうが遠くまで通じるようなイメージがあったのだが、実際はそうではないらしい。
「いや、ちょっとまて」
じゃあ同色間ではどうだろうか。
そもそもこの実験を始めたのは、俺が零した独り言が全スライムに伝播した出来事に起因する。
スライムの耳はかなり良かったが、それでもあの程度の微かな言葉がため池中のスライムに届くとは思えない。
もし届くとしたら、1匹だけ。
そう、俺の腹の上で遊んでいた緑の子スライムだけなのだ。
それにあの時、俺の周りに集まってきたのは緑スライムだけだった。赤と黄はそんな緑スライムを見て、野次馬的に集まってきたにすぎない。
それはつまり、その子スライムが同色のスライムに働きかけたということではないだろうか。
俺の近くにいたのはあの子スライムだけで、当然2、3メートルほどの近い距離に他のスライムはいなかった。ということはもっと遠くにいる同色の緑スライムに対して念話を送ったということ。
スライムは体の動きが豊かなので、俺に意志を伝える時のようにボディランゲージを使ったという可能性もあるが、その場合は俺の側に集まってきたスライムが緑スライムだけだったという現象の説明がつかない。”見る”ことに関しては、赤も黄も同じものを見ているはずだからだ。
……うん。これは”ある”ぞ。
一度腕に乗っていた黄スライムを、3匹のスライムがいるところに還し、次は緑の子スライムを掴んで腕に乗せる。
念のため10メートルの位置で、腕の中の緑の子スライムに『赤スラと黄スラに”聞こえたらジャンプして”と伝えてくれ』と囁いたが、これはさっきの実験の通り、赤スライムも黄スライムもぴくりとも反応を示さなかった。
……よし、いくぞ。
仄かな緊張感。
俺は意を決して、緑の子スライムにこう伝える。
『緑のスライムに”聞こえたらジャンプして”と伝えてくれ』




