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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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33 おしゃべりスライム


 人間が来たあの日から、数日が経った。


 今は昼休憩と称して、苔が生えているエリアで寝転んでいる。


 何かとやりたいことは多いのだが、働き詰めでは疲れてしまう。


 それに……


「苔の上って、涼しいんだよなぁ」


 炎天下の中、訓練と家事を終わらせた後の火照った体にこの涼しさが沁みる。


 木陰になっていて苔自体がひんやりとしているのもあるし、そこにこの土地の風が吹いてきてこれがまた気持ちがいい。


 俺が着ていた服は、物干しざおに掛けられ風に揺れている。


 じゃあ俺はどんな格好なのかというと、白ローブたちが着ていたズボンを履いていた。上は……裸だ。


 ここには俺とスライムしかいないんだからいいだろう。それでなくてもため池があって緑があって、この拠点は夏のレジャー感が強いからな。池に水遊びに来た奴と思えば違和感はない。


 今、この拠点には9匹のスライムがいる。


 前に魔石を吸収したスライムたちがまた分裂をかましていた。


 微妙に時期がずれるのは、やはり魔法で魔力を使ったり、苔のモニモニ量が違ったり、個人差があるからだろう。


 赤と黄のスライムは昨日分裂を終えたのだが、緑スライムは今朝分裂をしたところだった。


 8匹のスライムたちはため池まわりで思い思いに人生を謳歌しているのに、そんな生まれたばかりの緑スライムのうち1匹は、何が楽しいのか俺の腹の上でぴょんぴょん跳ねて遊んでいた。


「おもしろいか? それ」


 と尋ねるが、そんな俺の声など聞こえていないかのように、ぴょんぴょんと楽しそうに跳ねている。


 ……まぁ、楽しいならいいか。


 上げていた顔を下ろし、両手を組んで枕にする。


 こうやって平和な時間を過ごしているというのに、思い出されるのは先日の人間との戦いのこと、そしてスライムたちとのことだった。


 まずひとつ。


 俺とスライムの関係性についてだ。


 この世界にやってきたその日、なんなら転移後すぐに出会ってから、なし崩し的にずっと一緒にいた。最初の頃は俺が人間社会に入る時に別れるのだろうと思っていたりもした。


 だけどここではっきりしておく。



 もう俺はスライムと離れる気はない。



 長いこと共に過ごしてきた今、落ち着いて自分の心の内を読み解いていけば、当然別れる気なんてさらさらなかったのは明らかなのだが、それをはっきりと自分の中で明言していなかったから先日のような醜態を見せてしまった。


 この世界の人類と(たもと)を分かつ、その決断をすぐにすることができなかった。


 大馬鹿野郎だ。


 ひと月以上何の音沙汰もなかったのに、いきなり人間が現れて、さらに人間側に付くか殺し合うかなんて二択を迫られて……俺がかわいそうだ! なんて声も俺の脳内では一部上げられてはいるが、そんなこと理由にならない。


 戦いの最中では、一瞬の迷いが生死を分ける。


 それはあいつら白ローブと戦って、嫌というほど学んだ。


 結局、性根が平和ボケしてるんだ俺は。これはもう生きた環境によるものなのでしょうがない。すぐに直そうと思って治るようなものでもなく、意識して少しずつでも改善していかなければならない。


 迷いをなくすという点では、こうやって自分の中で考えてはいるけどまだ明言できてはいないものをはっきりとさせることは重要だと思う。


 それは、何か行動をとる時の指針となってくれるはずだ。


 それともうひとつ。


 これは猪の魔物と戦った時に強く思ったのにもかかわらず、俺が調子に乗ってなおざりにしたこと。


 『俺ひとりでは魔物1匹倒せない。だけど俺はひとりじゃない』


 いや、実際今なら弱そうな魔物くらいとならいい戦いができるんじゃないかとも思うのだが、そもそも俺がひとりで魔物と戦う必要がないのだ。


 俺がスライムと共に生きると思っているのと同じように、スライムも俺を仲間だと思ってくれている。そこで変に謙遜して距離を空けるような愚か者ではない。


「なぁ……俺はひとりか?」


 そう、風にかき消されるくらいの小さい声で呟く。


 誰に聞くでもない。自分に問う。


 この言葉を忘れないように。もう失敗しないように。


 ――俺は、ひとりじゃない。


 この考えは、戦闘のみならず、この世界で生きていく上で全ての基本となる考え方だ。スライムと一緒だからって、俺がやることは変わらない。


 目指しているのは内政チート。


 ”俺”は強くならなくてもいい。こいつらが、”俺たち”が強くなればいい。そのためにできることはまだまだ沢山あるはずだ。


 『俺ひとりでは魔物1匹倒せない。だけど俺はひとりじゃない』この言葉、しっかりと胸に刻んでおこう。


 スローガンにしてもいいな。うちの。


 と、そう決意を新たにしていると。


「うわっ」


 いつのまにか、緑スライムが俺の周りに集まってきていた。


「どうしたんだよお前ら」


 慌てて体を起こす。緑スライムはどこか心配そうに、こちらを見ていたり腕からよじ登ってきていたりする。


 赤と黄のスライムは、そんな俺らの様子を見てなんだなんだと興味深そうにしている。


 スライムという大枠ではなくて、緑のスライムだけが同じような行動をするというのは今まで見たことがない。


 ……気になるな。


 俺が急に体を起こしたから、コロコロと落っこちていった俺の上で遊んでいたスライムを拾って手に乗せる。


 ……なにか、情報を交換してる?


 スライムの様子を見ていると、先に集まっていた緑スライムが、後からやってきた赤や黄のスライムの近くでしばらく停止している。


 それに応えるように、その赤と黄のスライムも動かない。それはまるでスライム同士が会話をしているかのように見えた。


 数秒後、ぴくんと体を震わせた赤と黄のスライムが、緑スライムと同じように俺の側まで寄ってきて、結局9匹全員のスライムが集まったことになる。


 ……なぜいきなり?


 こんなのほほんぷにっとしてるこいつらだが、意味もなく行動することはない。特にこうやってみんなで同じ動きをする時は。


 だから何か原因があるはずだ、と直近の自分の言動を振り返ると。


「あ」


 ……もしかして、あれか?


 さっき漏らした、『俺はひとりか?』みたいなヤツ。


 この世界での生き方を考え直すために自分自身に問いかけてたアレ。


 ちょっとまって。あれ聞かれてたとしたら恥ずかしすぎるぞ。


 表情筋に力が入り、梅干しみたいにくしゃっとなる。


 ――苦しい!


 ほら、だから言っただろ! 俺はひとりじゃないんだ!


 ポロッと溢した独り言とか、なんとなく気分が上がってする小躍りとか、それを聞いたり見たりしている誰かがいるんだよ。ひとりじゃないんだから。


 と、胸がキュッと締め付けられるように苦しいが、もしそうだとしたらあれだよな。スライムは俺を心配して集まってきてくれたってことだよな。


 もしくは『ひとりじゃないぞ』と伝えにきてくれたのか、はたまた励ましてくれてるのか。


 そう思うと、胸の痛みもスッと消え、表情もニマニマと気味の悪いものに変化する。


「このこの、うい奴め」


 手のひらに乗る小さいスライムをなで、周りにいるスライムもプニプニとぷに回す。


 さっき会話みたいなのをしてたのは、このことをみんなに伝えるためだったんだな。


 スライムの、いわゆる人間でいうところの”会話”に相当するものを生で見ることができ、スライム学の知的探究心も満たされる。


 スライム間で意思疎通が取れているのはわかっていたが、こうやってしっかりと情報を伝えているシーンを見たのは初めてのことだった。


「ん?」


 そうだよな?


 これだけ一緒にいたら会話の場面なんていくらでも見れそうだけど、実際に見たのは今回が初めてのはず。


 ……んん?


 と首を傾げる。


 ……そうか。


 今までスライムたちとの距離が近すぎて、俺の声とか動きとか、スライム間で情報のやりとりをするまでもなく、スライム全員に伝わっていたもんな。


 例えば『こっちおいでー』と俺がスライムを呼ぶ状況があったとする。


 今までのそういったシーンを思い返すと、そもそも俺の声がスライム全員に伝わる距離だった。


 そうなれば当然、スライム同士で情報の共有をする必要はない。


 ――そう考えると、スライムの会話を見れたのはラッキーだったな。


 スライム同士はあんな感じで会話するのか。


 もしかしたら、今までのんびりぽやっとしてる風に見えたスライムたちも、こうやって会話していたのかもしれない。


 木陰でスライムたちがおしゃべりしているのを想像して、思わず顔が綻ぶ。


 実際に発声はしないから、念話とかテレパシーと言った方がいいか。


 ……あれ、じゃあなんで緑スライムだけが先に集まってきたんだ?


 たしか、俺の“例”の言葉は、自分でも意識してないくらいの小さな声だったはずだ。


 そもそも聞こえていないくらいの声量ではあったが、聞こえてるとしたら緑に限らず赤も黄も寄ってきていいはず。


 ……緑スライムだけ特別耳がいいとか?


 目の前の、手のひらに乗る小さなスライムを見つめる。


 そういえば、少し気になっていたことがあった。


 気になる、というほどのものでもないが、その後の処理やらなんやらですっかり忘れてしまっていたそれが、頭の中に蘇ってきた。


 人間を殺したあの日。


 開放感やら達成感やら色々あったが、とにかく生き延びた喜びを噛み締めて、俺はスライム“6匹”とハイタッチをした。


 その時、『あ、こいつら元々ひとつの個体が分裂したものだから、記憶も引き継いでいるのか』と思った。


 なぜならハイタッチをしたのは最初の3匹とだけだったし、その3匹も当然あの時はハイタッチのやり方をわかっていなかったからだ。


 分裂しても記憶を引き継げるというのはそれはそれですごい話だが、まぁ納得できる。


 でも逆に、赤と黄、黄と緑など、別の色のスライム同士では記憶の繋がりはなく、別個体として違う記憶を持っているわけだ。


 今回みたいに“念話”で情報をやりとりする機能が備わっていることからも、それは明らか。


 じゃあ、同種――同じ色のスライム間ではどうなのだろうか。


 分裂して別れたこいつらはもう完全に独立した別の個体なのか。それとも、分裂しても”同じ緑の種”として通じ合えるような何かがあるのか。


「……気になる」


 ここはスライム学の学徒として、色々調べてみるべきだろう。


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