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スライム領の領主になって敵対種族をボコボコにする  作者: 新北部


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32 閑話④


 ――緊張。


 あのお喋りなホピンですら、今は口を真一文字に結び額からじわっと汗をかいている。


 俺の名前はモトルク。


 この冒険者チーム「白光」でポーターを任されている者だ。


 俺らはある貴族からの依頼で、カテペック周辺――といっても実質町から北側の”大探索”をしている。


 この”大探索”は町の近場から離れ、より遠いところの魔物の状況を調べる仕事だ。当然、よほどの大物でない限りそいつの討伐も含まれる。


 遠いとはいっても、人間の行動範囲を考えれば十分に接触の可能性がある距離で、俺らが調査を怠れば町の奴らが被害にあうことも考えられる。つまりこの依頼を任されるということは、冒険者として実力だけでなく信頼も受けているという名誉ある仕事だった。


 そうしてこの森に入ってから10日。


 近場の魔物を掃討した時に大方やってしまったのか、俺らが倒したのは数匹程度で、その先でもあまり魔物に遭うことはなかった。


 この森はある地点を境に、そこから先は鬱蒼とした密林になっている。魔物が住むのも難しい土地なので、だいたいそこを目安に探索すればカテペックの安全は保証できるだろうと俺らは考えていた。


 概ね森の探索も終え、『あとは密林との境を確認しておけばこの仕事も終わりだな』なんて気も緩みはじめたそんな時、リーダーのツォトルがひとつの小さな川を見つけた。


 小さいのもあるが、絶妙にカテペック周辺を逸れているので今まで見つからなかったのだろう。


 川上の方を見やると、それは密林の奥地へと続いていた。


 この地域は雨期になると、よく風を伴う驟雨(しゅうう)が降る。


 そうするとこういった小さな川もその度に増水し、川岸が削られ徐々に川幅が広くなっていく。しかし驟雨は一時的なものなので、増水が鎮まればまた川の水位は戻り、その結果広くなった川辺が残る。


 それが魔物の通り道となって、森の奥のほうから普段は現れないような”はぐれ”が町の近くまで下りてくるというのはよくある話だ。


 なので俺たちは一応その川も調査しておこうと、川の流れに逆らって川辺を歩いていたのだが、そこで不思議なものを見つけた。


 川の横に巨人が殴りつけたかのような大穴と、そこにちょろちょろと流れ込む少量の水。


 さらにその水がやってくる方を見ると、森をまっすぐ削り取ったかのような大きな道ができていた。


 初めは巨大な魔物が森を通った跡かとも思ったが、それにしては道が綺麗すぎる。


 仲間との話し合いの末、折れた木どころか切り株も見えないことから、木を資源として利用する人間の仕業だろうという結論になった。


 近くに小屋のような人工物があったのも理由のひとつだ。


 それにしても、森にこれだけの道を作るのは大仕事である。


 当然その仕事を行った首謀者の確認をして、依頼主の貴族に報告しなければならない。最悪の場合、隣国が秘密裏に用意した抜け道という可能性もある。


 そうして俺たちは身の引き締まるような緊迫感の中、その道を進んでいたのであった。


 そんな中、前を歩いている3人の動きがピタッと止まる。


 先頭を進むツォトルが手で止まれの合図をしたようだ。


 物音一つ立てずにそっと前を覗くと、どうやらこの長かった道の終わりが来たのか、明るく開けた場所が見えた。


 しかし、その先の光景は目を疑うものだった。


 何もない。


 何もない荒れた土地。


 この森の中で、そんな場所があるとは思いもしなかった。


 そこから先はゆっくりと、最大限の警戒をしながら道の出口へと向かっていった。


 出口に近づくにつれ、その荒れた土地の全貌も見えてくる。


 まるで森にぽっかりと穴をあけたようなそれは、かなりの広さで、荒れた土地の真ん中あたりに少しだけ木と……なにか小さな建物がある。


 この抜け道に入る時にちょろちょろと流れていた水は、ここまでくると小川と呼んでもいいくらいの水量になっていた。つまり、この道のりの間にそれだけ水が地面に吸収されているということだろう。


 それは、この水の流れが自然にできた川ではなく、おそらくあの小屋の主が新たに作った水路だということを示していた。


 いよいよその森のトンネルを抜けようというところで、俺たちは道の端の木陰に隠れる。


 幸い、少し道を離れればこの密林のおかげで身を隠す草木には困らなかった。


 「……見てる」


 ショコが小さくそう呟く。


 そっと、顔だけを出してショコの見ている先を俺も眺めるが、生憎俺の目では何も確認できない。しかしショコは俺たちの中でも魔力に対する感受性が飛び抜けて高く、魔力の感知に関してはこの国でも有数のレベルだ。


 今まで、このショコの魔力感知に助けられた回数は両手の指では足りない。


「ショコ、それが何かわかるか?」


 ツォトルは目線を荒れ地の中央に合わせたまま、ひとつの隙もなくショコに尋ねる。


「……わからない。ただ、魔力の塊みたいな……普通の魔物とは違うものを感じるわ」


 会話はそれっきりで、全員が身を屈めてじっと荒れ地の方を見ている。


 しばらくそうしていると、ショコが音もなく腰から黒曜石の短剣を取り出した。黒曜石は魔力の通りがよく、ショコが好んで使う魔力触媒だ。


「気づかれてるみたいだね」


 それを見てか、ホピンも剣に手を伸ばす。


「みんな、いつでもいけるよう準備だ。モトルク、俺らにもしものことがあったら、お前だけは意地でも生き残って今日起きたことをギルドマスターに伝えるんだ」


 「あぁ……」


 ツォトルの、静かに……だけど熱の籠った言葉に二つ返事で返す。


 ツォトルは王国兵士団でバリバリやっていた元エリートだ。それにホピンもショコもここらではかなりのやり手。もしものことなんて起こらないとは思うが、それでもツォトルのその言葉を軽く扱うことは俺にはできなかった。


 魔物というのは、舐めてかかれば一瞬にして人の命を奪う、本当に恐ろしいものだ。


 俺を除いた3人が、各々武器を抜いて戦いの準備をする。


 荒れ地の方では、もう俺でも目視できるくらいに、人間のようななにかが近づいてきていた。


「頼むから生きて帰ってきてくれよ」


「言われなくとも」


 俺の不安をかき消すように、ツォトルはそう力強く答えた。こういう時のツォトルは頼もしい。


「行くぞ」


 しばらくして、3人が森から出て行き、そいつと対峙する。


 ここらではあまり見ない服装の男が一人。そして見たこともない小さい魔物? が6匹。


 どこからどうみても怪しいそいつと、俺ら「白光」はそこで出会った。


 「~……~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」


 ツォトルたちと面を合わせたかと思うと、そいつは何かを大声で叫ぶ。


 「まぁ、あまり歓迎されてる雰囲気はないよな」


 俺は木陰に隠れながら、そう小さく呟く。


 そりゃそうだ。こんないかにも”何か隠してます”みたいなところで偶然出会って、よろしくやれるわけがない。


 しかし、そいつは突然構えていた武器を下げ、ツォトルたちの方へ不用心に歩いてきた。


 ……なんだ?


 相手の考えを計りかねる。


 わかりやすく敵意を見せてくれる方がまだマシだ。こういった手合いを相手するのは厄介だと、長らく色々なパーティと冒険をしてきた勘がそう伝えてくる。


 さらに困ったことに、その男は自分の持っていた武器を地面に投げた。


「~、~~ー……~~~~~。~~、~~~~~~~~~~~~~~~~~~~?」


 俺のいるところからでははっきりとは聞き取れないが、その男は俺の知らない言語を使っているようだ。


 白光は王国内であればどこでも仕事をするが、少なくとも、地方言語含めてクァナックのものではない。


 「貴様何者だ!」


 ツォトルが剣を構えてそう尋ねる。


「ツォトル、少なくともコイツが喋ってる言語、私は聞いたことないわよ」


「……ホピンはどうだ?」


「僕も聞いたことないね……」


 そいつと対峙している3人が、出てきた情報を確認し合う。


 ショコも知識は多い方だし、それに加えて色んな国を渡り歩いた経験のあるホピンでも聞いたことのない言葉というのはかなり珍しい。


 ……怪しいな。こいつ本当に”人間”か?


 3人の間でその男に対する警戒度が上がっていくのを、遠くから見ている俺からでも感じ取れた。


「それにこんなヘンテコな魔物も見たことないわ」


 黒曜石の短剣を前に構え、逆の手を添える。ショコがよくやる独自の構えだ。


 ショコは、発動にこそ時間はかかるが、当たれば大型の魔物でさえ体が動かなくなるほどの雷光の使い手だ。殺傷能力こそないが、それが当たればほぼ勝ちが決まる、白光の切り札としてみんなから信頼されている。


「ま、こんな森の奥深くで魔物? を従えてる時点でロクなもんじゃないでしょ」


 続けてショコはそう言うと、


「だろうな」


「ショコの言う通り、こいつも魔物の仲間だろうね」


 ツォトルとホピンがそれに同意する。


 そうなるだろうな。一応武器を捨てて無抵抗の(てい)を取ってはいるが、こんなあからさまに怪しい奴を野放しにできるわけがない。


 そんな俺らの言葉が聞こえているのかいないのか、遠くにいるそいつはどこか苦しそうに身悶える。


 その様子に、場の緊張感がまた一段階上がった。


「群れの数は少ないから、”まだ”魔族ではないだろうけどな」


 ”まだ”


 つまりそれは、いずれはそうなる可能性があるということ。


 それは実質、討伐開始の合図だった。


「じゃ、早めのうちに潰しておきましょ」


「よし、いくぞっ!」


「はいよっ!」


 そう軽快に声を掛け合い、ツォトルとホピンが隙を見せている”ように見える”その男に向かって駆けていく。


 俺は、みんなの野営道具や食料などが入った、初めの方と比べると軽くなってきた背負い袋の紐をぎゅっと握る。


 ――頼むから、負けてくれるなよ。


 そう、祈るようにしてその背中を見守る。


 そんな俺らの決意をあざ笑うかのようにその男は、


「~~、~~~~~~~っ!!!」


 と、理解できない言葉で吼えるのだった。

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